知的障害(ID:Intellectual Disabilitie)とは、知的水準が全体的な発達よりも低く、かつ、社会適応上問題がある状態のことを指す神経発達障害です。
自閉スペクトラム症やADHDといった発達障害への社会的理解が進む中で、知的障害児・者の理解と対応は依然として高いニーズがあります。
著者がこれまで携わってきている療育現場において、知的障害の子どもは一定数はいるといった現状、他の発達障害(ASDなど)に知的障害が併存(重複)しているケースも見られるなど、知的障害への理解と対応は必須事項だと感じています。
本記事では、知的障害の基本的な理解から具体的な支援方法までを体系的に解説します。
※本記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有し、発達障害に関連する大量の書籍を読んできた筆者が執筆しています。
知的障害の理解と支援の全体マップ
本記事では、知的障害(ID:Intellectual Disabilitie)の理解と支援に関して、以下の6つの章に分けて解説していきます。
1.知的障害とは何か
2.知的障害の主な特徴
3.知的障害と発達障害の違いと特徴
4.療育・支援のポイント
5.まとめ
6.参考書籍紹介
知的障害とは何か
ここでは、「1.知的障害の概要」と「2.発達段階ごとの知的障害の特徴」について見ていきます。
知的障害の概要
「知的障害(ID:Intellectual Disabilitie)」とは、「知的水準が全体的な発達よりも低く、かつ、社会適応上問題がある状態のこと」を指す神経発達障害です。
神経発達障害についてはこちらで紹介しています:関連記事:「神経発達症/神経発達障害とは何か?DSM-5を通して理解を深める」。
ここでのポイントは、「知的機能」と「適応機能」です。
つまり、知的障害は、知的水準の遅れ(「知的機能」の遅れ)が影響して、社会適応上(「適応機能」において)問題が現れる症状だと言えます。
ここ最近では、「知的機能」よりも「適応機能」が重要視されるようになってきています。
「知的機能」というのは、言葉や記憶などを使って、様々なことを認知したり、考えたり、推論したり、学習したりする機能のことを指します。
知的水準(IQ)において、69/70以下(文献によって違いあり)であり、IQの数値によって軽度から最重度まで状態像に違いがあります。
「適応機能」というのは、自分が所属するコミュニティ内で、様々な場面で自立した行動・責任を果たす行動がとれるかどうかを指します。
知的障害は、「知的機能」と「適応機能」の両方に制約が生じている状態であり、それに加えて、症状が発達期(18歳前後まで)に生じていることも重要な指標です。
以上の「知的障害の概要」の内容は、こちらの記事を参照しています。
関連記事:「【知的障害児の〝知的機能″の遅れとは何か?】療育経験を通して考える」
関連記事:「【知的障害児の〝適応機能″とは何か?】療育経験を通して考える」
発達段階ごとの知的障害の特徴
知的障害児・者への支援において、早期発見・早期支援は重要な観点です。
それでは、早期発見に繋げていく上で、知的障害における発達段階ごとの特徴(知的障害を疑うきっかけ)について見ていきます。
乳児期(出生直後から1歳または1歳半くらいまで)の特徴として、音や光に対する反応の無さや遅さ、運動発達の遅れ、非言語コミュニケーションの苦手さなどがあります。
乳児期~幼児期前期(生後直後から3歳まで)の特徴として、発達の退行の出現、言語理解の遅れ、発語の遅れなどがあります。
幼児期後期(3歳から6歳まで)の特徴として、言語理解や表出の遅れ、生活習慣の遅れ、興味関心の少なさなどがあります。
就学以降(6歳以降)の特徴として、言語理解と発語の遅れ、学習の遅れ、長文理解の遅れなどがあります。
以上の内容からも分かるように、知的障害の特徴には、言葉・運動・生活習慣・学習など様々な面で遅れが生じることが分かります。
以上の「発達段階ごとの知的障害の特徴」の内容は、こちらの記事を参照しています。
関連記事:「【知的障害の特徴】早期発見につながる発達段階ごとのポイントを解説」
知的障害の主な特徴
ここでは、知的障害の主な特徴について、著者の療育経験上でもよく見られるものについて取り上げています。
その特徴としては、「1.言葉の遅れ」「2.短期記憶の弱さ」「3.抽象的思考の苦手さ」「4.新奇な場面の適応力の弱さ」「5.実行機能の問題」「6.感覚と運動の問題」などがあります。以下、それぞれについて見ていきます。
言葉の遅れ
知的な遅れは言葉の遅れにも繋がっていきます。そして、言葉の理解に遅れがあると、発語(表出)にも遅れが生じます。
著者の経験においても、言語理解・表出の遅れはよく見られる特徴であるため、子どもの言語レベルに応じた伝え方の工夫が必要だと考えます。
学童期→思春期になるにつれて、周囲のコミュニケーションはさらに高度化していくため、大人が会話の内容をさらに具体的に説明するなどのサポートが必要です。
短期記憶の弱さ
知的障害があると記憶の弱さ、中でも、短期記憶の弱さが見られます。
短期記憶とは、新しい情報を一時的に保持する記憶を指し、ここに弱さがあると新奇な情報の取り込み・更新に問題が出てきます。
その一方で、一度覚えたことは経験値としてしっかりと記憶できていることが多い、つまり、長期記憶は比較的有効に機能していると考えられています。
そのため、経験を通した繰り返しの学習が大切となり、著者の実感としても、繰り返しによる体験を通した学びは定着すると忘れずに保持されやすい傾向があると感じます。
抽象的思考の苦手さ
子どもの思考は発達するに伴い、具体物を活用した理解から具体物が目の前になくてもイメージや言葉や数による抽象的思考が可能になっていきます。
知的発達の遅れは、抽象的思考の苦手さにも影響するため、抽象的思考の苦手さを補うサポートが必要です。
著者の経験では、具体物の活用、絵や写真での伝達など、より子どもがイメージしやすい情報からアプローチすることで、理解しやすくなったと感じることはよくあります。
新奇な場面の適応力の弱さ
新しい場面においては、様々な情報を理解し更新して環境に適応する力が求められます。
知的機能に問題があると、新奇な情報の取り込みが難しくなり、新しい場面や環境に対して不安を持ちやすくなることがよくあります。
著者の経験でも、知的障害の子どもは、新しい環境(それが一見すると些細なことであっても)への不安感が高まり、適応が難しくなることがよく見られます。
そのため、変化を少なくする環境調整や関わり方が必要となり、例えば、安心できる物・人などを事前に整えていくことも重要なポイントだと感じます。
実行機能の問題
実行機能とは、目標を立て、その目標に向けて計画を立て実行をする力(「思考の実行機能」)を指します。
実行機能は、大きく「思考の実行機能」と「感情の実行機能」とに分けることができ、前者が先に見た実行機能の説明に該当し、「感情の実行機能」が自身の衝動を抑えるなど非常に本能的な機能を指します。知的障害はこれら2つの実行機能に苦手さが見られます。
著者の経験からもこれら2つの特徴はよく見られるものであるため、対応としては、落ち着ける環境また刺激が少なくなるように環境を整えること、そして、事前に予定を立てること、選択肢を準備しておくことが有効だと感じます。
感覚と運動の問題
全身運動の苦手さ・手先の不器用さがあるといった協調運動の問題や、痛みや暑さ・寒さなどの感覚が鈍いといった感覚の問題も見られることがあります。
著者の経験でも、運動の苦手さや感覚の鈍感さなどは見られる場合がある一方で、例えば、繰り返しの経験が力となり、特定の手作業などが器用にこなせると感じるケースもあります。
対応としては、運動の問題にはDCD(発達性協調運動障害)へのアプローチ、そして感覚の問題には感覚統合の視点から多くのヒントを得ることができると感じます。
以上の「知的障害の主な特徴」の内容は、こちらの記事を参照しています。
関連記事:「【知的障害の特徴】言葉・記憶・理解など7つの視点から支援のポイントを考える」
関連記事:「【知的障害児の特徴】抽象的思考と環境適応から考える理解と支援のポイント」
関連記事:「【知的障害児の記憶】記憶の特徴と療育で注意すべき点について考える」
関連記事:「【知的障害・境界知能の実行機能の特徴】療育経験を通して考える」
知的障害と発達障害の違いと特徴
ここでは、「1.法制度・医的的な視点による違い」と「2.発達の問題による違いと特徴」について見ていきます。
法制度・医的的な視点による違い
DSM-5(アメリカ精神医学界の診断と統計マニュアル:2013年出版)以降、知的障害は神経発達障害に該当するようになりました。
つまり、現在、医学界においては、知的障害は発達障害に該当しています。
一方で、日本において、知的障害と発達障害とを分けて使用していることがあります。この背景には、知的障害が法整備された後に、自閉症・ADHD・学習障害といったいわゆる狭義の発達障害が法整備されたことで、両者が別に扱われるようになったと言われています。
つまり、法整備上においては両者は別のもの、医学界においては、同じ発達障害(神経発達障害)といったくくりになっていると言えます。
以上の「法制度・医的的な視点による違い」の内容は、こちらの記事を参照しています。
関連記事:「【知的障害と発達障害の違いについて】法制度・医学的な視点を踏まえて考える」
発達の問題による違いと特徴
発達の問題を「速度」と「質」の二軸で考えることがとても大切だと考えられています。
発達の「速度」の全体的な遅れが「知的障害」であるのに対して、発達の「質」的な問題が自閉症やADHD、学習障害などの「発達障害」といった理解です。
発達の問題を「速度」と「質」の二軸で捉えることで、例えば、「知的障害」であれば全般的にゆっくりと成長していくといった道筋・特徴が見られ、「発達障害(ASD・ADHD・LDなど)」であれば、ある特定の領域に特性が見られることから、固有の成長や躓きが予測できるといった違い・特徴が生じることが考えられます。
また、知的障害と発達障害は併存(重複)するケースもあるといった理解もまた重要です。詳しくはこちらで紹介しています:関連記事:「【知的障害と発達障害(ASD)は併存する?】併存ケースの支援のポイントも合わせて解説」。
以上の「発達の問題による違いと特徴」の内容は、こちらの記事を参照しています。
関連記事:「【知的障害と発達障害の違いについて】発達の「速度」と「質」を通して考える」
療育・支援のポイント
この章では、知的障害児における療育・支援のポイントについて「1.ゆっくりな発達の理解」「2.逆算の支援」「3.将来を見据えた支援」を取り上げて見ていきます。これらの内容は、全てにおいて関連づくポイントだと言えます。
ゆっくりな発達の理解
先に見た知的障害の特徴として、発達の「速度」の問題、つまり、発達が定型発達と比べて全般的に「ゆっくり」だという理解が大切です。
基本的には、子どもの「ゆっくり」な発達を理解し対応していくことで、大きな問題は生じないと考えられています。そして、どのように・どれくらい「ゆっくり」なのかといった子どもの特徴を踏まえて、計画的に関わることが大切だと言えます。
全般的な発達の「速度」の問題は、例えば、感覚・運動、認知・行動、言語・コミュニケーション、情動・社会性、基本的生活習慣など様々な領域で見られます。
そのため、様々な領域において、どのように・どれくらい「ゆっくり」であるかという特徴を抑えていく必要があります。
著者は、療育・支援のポイントとして、「発達の最近接領域」と「足場作り」の視点を大切にしています。「発達の最近接領域」とは、「大人と一緒にできること」と「一人でできること」の差を見極め、最初に「大人と一緒にできる」活動を行い、徐々に足場を外していきながら(大人のサポートを減らしていく)、最終的には「一人できる」ように「足場作り」を整えていくことです。
著者の療育実践において、「発達の最近接領域」によるアセスメントと視点と、アセスメントを基に「足場作り」を整えていくことで、できることが少しずつ増えていったと感じるケースは多くあります。
その中でも特に、知的障害児は日々の生活経験の繰り返しの中で学習を積み上げていくといった視点が将来的に有益な知識(身体知)になっていくのだと感じます。
「発達の最近接領域」と「足場作り」に関するお勧め記事は以下で紹介しています。
関連記事:「【療育で大切なこと】能力の発達について:発達の最近接領域と足場づくりをヒントに」
関連記事:「【療育で大切なこと】足場づくりの視点から支援について考える」
逆算の支援
「逆算の支援」とは、将来から逆算して、問題なく(無理なく・高いハードルを設けずに)今後に向けてできることを計画して実行する支援方法になります。
なぜ、知的障害児への療育で「逆算の支援」が大切かと言えば、知的障害児は知的な程度にもよりますが、「抽象的思考」を苦手としています。
中でも、知的なレベルが中程度以上(中度・重度・最重度)のケースにおいて、「抽象的思考」の理解はハードルが高いと考えられています。
そのため、将来の就労などを見据えると、高度な情報処理やコミュニケーション能力が必要とされる仕事や活動はハードルが高いため、ある程度、実現可能な仕事内容(例えば、「具体的なものを取り扱う定型的な仕事」であれば、問題なくこなせる可能性がある)などを逆算していく中で、今の取り組み内容を検討していくことが大切です(→「逆算の支援」)。
著者の経験を踏まえ見ても、将来に向けハードルを高く持ちすぎることは、子どもに大きな負担を抱えることに繋がり、それが自己肯定感の低下や動機付けの低下にも繋がり、本来身に付くはずの力も獲得困難になる恐れがあると感じます。
将来を見据えた支援
知的障害児における「将来を見据えた支援」におけるポイントとして、「子どもの時期には介入できることが多い」「生活経験によってできることは増やせる」「周囲からのサポートを受けやすくする」「大人になっても学び続ける機会を持ち続ける」「穏やかな日々を過ごすことを目標とする」などがあります。
以上の内容を少し具体的に見ていくと、子どもの頃は特に様々な事を学習していく力が高いため、周囲の介入によってできることが増えていきます。それは、知的障害児においても同様です。
子どもの能力や興味関心に合わせて支援を継続していくこと(繰り返しの学習経験)で、「知的機能」は伸びなくても「適応機能」を伸ばしていくことは可能です。
子どもの頃から、周囲のサポートを得る機会を持つこと、周囲に助けを借りながらうまくいったという経験が将来にわたって他者からサポートを得る力(「ソーシャルスキル」)の獲得にも繋がっていきます。逆に、自分でできることは自分でするといった「自律スキル」の獲得もまた重要です。
大人になっても、趣味など様々な活動を通して、学びの機会を継続して持ち続けることが豊かな人生に繋がっていきます。そして、最終的に、穏やかな日々を過ごしている将来を見据えて支援をしていくことが大切です。
以上の「療育・支援のポイント」の内容は、こちらの記事を参照しています。
関連記事:「【知的障害児の対応で大切なこと】療育経験を通して〝ゆっくり″な発達について考える」
関連記事:「【知的障害児で大切な対応について】〝逆算の支援″を通して考える」
関連記事:「【知的障害児への支援で大切なこと】将来を見据えた5つの支援の視点を療育経験も踏まえて解説」
まとめ
「知的障害(ID:Intellectual Disabilitie)」とは、「知的水準が全体的な発達よりも低く、かつ、社会適応上問題がある状態のこと」を指す神経発達障害です。
診断のポイントとして、「知的機能」「適応機能」「発達期」があり、中でも、「適応機能」が重要視されるようになってきています。
知的障害の特徴として、「言葉の遅れ」「短期記憶の弱さ」「抽象的思考の苦手さ」「新奇な場面の適応力の弱さ」「実行機能の問題」「感覚と運動の問題」などがあります。
知的障害は医学的定義においては、同じ「神経発達障害」に該当していますが、法整備上においては両者(知的障害とASD・ADHD・LDなどの発達障害)は別のものとして扱われてきたという背景があります。
知的障害は発達の「速度」を問題としている一方で、ASD・ADHD・LDなどの発達障害は発達の「質」を問題としているといった違いがあります。
知的障害児における療育・支援のポイントとして「ゆっくりな発達の理解」「逆算の支援」「将来を見据えた支援」を踏まえた対応・関わりが大切です。
参考書籍紹介
今回の記事内容をさらに深める上でお勧めする書籍紹介記事を以下に載せます。
知的障害を含め発達障害領域を網羅的に学びたいと考えている人には次の書籍紹介記事がお勧めです:関連記事:「臨床発達心理士が厳選:発達障害を理解するための体系的読書ガイド【完全版】」。
知的障害の理解に関するお勧め書籍紹介はこちらで紹介しています:「【臨床発達心理士が厳選】知的障害に関するおすすめ本:初級~中級者向け」。
境界知能の理解に関するお勧め書籍紹介はこちらで紹介しています:関連記事:「【臨床発達心理士が厳選】境界知能に関するおすすめ本:初級~中級者向け」。
重度の障害児の理解に関するお勧め書籍紹介はこちらで紹介しています:関連記事:「【臨床発達心理士が厳選】重度障害児療育に関するおすすめ本:初級~中級者向け」。

コメント