ADHD(注意欠如多動症)は、不注意・多動性・衝動性を主な特徴とした発達障害です。
ここ最近では、大人のADHDが注目されるようになるなど、発達障害の中でも社会的な認知度が高まってきています。
一方で、療育現場における理解と対応においては、まだまだ発展途上だといった印象が著者にはあります。
そのため、ADHDの特徴について整理していきながら、療育における支援のポイントをまとめていくことは必要だと感じます。
本記事では、ADHDの基本的な理解から具体的な支援方法までを体系的に解説します。
※本記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有し、発達障害に関連する大量の書籍を読んできた筆者が執筆しています。
ADHDの理解と支援の全体マップ
本記事では、ADHD(注意欠如多動症)の理解と支援に関して、以下の6つの章に分けて解説していきます。
1.ADHD(注意欠如多動症)とは何か
2.ADHDの原因
3.ADHDと二次障害
4.療育・支援のポイント
5.まとめ
6.参考書籍紹介
ADHD(注意欠如多動症)とは何か
ADHD(注意欠如多動症)は、注意の維持の困難さといった「不注意」、じっとしていることが苦手といった「多動性」、順番が待てずに衝動的な行動に走るなどの「衝動性」を主な3つの特徴とた発達障害です。
中でも、「不注意優勢型」と「多動・衝動性優勢型」と、この両方の特性が見られる「混合型」の3種類があります。詳しくはこちらで紹介しています:関連記事:「【ADHDの特徴(のび太型とジャイアン型)について】療育経験を通して考える」。
ADHDは、未就学児までは元気な子どもと捉えられることがあり、比較的特徴が目立つことは少ない一方で、小学校に上がり集団行動が増えてくると、特徴が目立ってくると言われています。
発症頻度は5~7%程度で、男子の方が女子よりも多く見られます。また、遺伝性も高く、ご家庭に同じ特性のある人も多く見られます。
ADHDと言えば、多動/衝動性が強く落ち着きがない症状と理解されがちですが、中には、先に見た不注意優勢型もあるため、「多動・落ち着きのなさ=ADHDだとは言えない」といった理解もまた重要です。詳しくはこちらで紹介しています:関連記事:「【多動・落ち着きのなさ=ADHDなのか?】療育経験を通して考える」。
それでは、「不注意」「多動性」「衝動性」の特徴について以下に簡単に見ていきます。
「不注意」について
「不注意」とは、例えば、様々な事に気が散りやすい、聞いたこと・見たことを直ぐに忘れてしまう、何か作業や話をしている際にぼーっとしていることがあるなどの特徴があります。
中でも、「ワーキングメモリ」の弱さとの関連性は高いと言われており、言語性ワーキングメモリと視空間性ワーキングメモリの両方に困難さが見られると考えられています。
以上の内容の参照記事はこちらで紹介しています:関連記事:「【ワーキングメモリとADHDの関係について】療育経験を通して考える」。
「多動性」について
「多動性」には大きく分けて、「大きな多動」と「小さな多動」の2つがあると言われています。
「大きな多動」とは、例えば、学校の授業中に席を直ぐに立つ、走り回る、教室を飛び出すといった行為があります。
「小さな多動」とは、例えば、学校の授業中に席に座ってはいるが足を動かしている、椅子を動かしている、手に持っている鉛筆などを常に動かしているといった行為があります。
「多動性」のうち特に「大きな多動」を理解する上で大切な点は、本来の特性以外に多動が生じる他の要因の有無(学習の遅れ、感覚刺激の問題、愛着障害など)を考慮してくことが大切です。
以上の内容の参照記事はこちらで紹介しています:関連記事:「【ADHD児の多動性をいかに見抜くか!】アセスメントと対応のポイントについて考える」。
「衝動性」について
「衝動性」には大きく分けて、「視覚優位の衝動性」と「聴覚優位の衝動性」の2つがあると言われています。
「視覚優位の衝動性」とは、例えば、気になる物があるとすぐに触ったり見ようとするなど「見たもの全てに反応する」といった特徴があります。
「聴覚優位の衝動性」とは、例えば、気になる話を聞くとすぐに話し出す(反応する)など「聞いたこと全てに反応する」といった特徴があります。
「視覚優位の衝動性」は、道路への飛び出しなどリスクと関連づくことがよくあります。また、「聴覚優位の衝動性」は、興味のある話を一方的にかつ目まぐるしく話が飛びながら行うことがあるため、対人関係での問題に繋がることがあります。
以上の内容の参照記事はこちらで紹介しています:関連記事:「【ADHD児の衝動性をいかに見抜くか!】アセスメントと対応のポイントについて考える」。
ADHDの原因
ここでは、ADHDの行動の原因として、「トリプルパスウェイ仮説(三重経路モデル)」と「DMN(Default Mode Network)仮説」について見ていきます。
トリプルパスウェイ仮説(三重経路モデル)
「トリプルパスウェイ仮説(三重経路モデル)」は、ADHDが持つ特性を「抑制制御(実行機能)の障害」「報酬遅延の障害」「時間処理の障害」の3つの要因から説明した仮説・モデルになります。
「抑制制御(実行機能)の障害」とは、例えば、忘れ物やケアレスミス、計画的を立てる難しさなど、集中すべきことから他の事に注意がそれてしまうことです。
「報酬遅延の障害」とは、例えば、我慢して行動することが苦手など、すぐに手に入る報酬を好む特性のことです。
「時間処理の障害」とは、例えば、‟感覚的にあと○○分で作業が終わるだろとう”といった時間の経過を感覚的につかむ能力の難しさのことです。
以上の3つは、ADHDの子どもによって該当箇所は異なり、例えば、全て該当、1つ該当、中には、全て非該当のケースもあります。
DMN(Default Mode Network)仮説
「DMN(Default Mode Network)仮説」とは、DMNが脳が意識的に活動していないときに活性化する神経回路(脳を休ませるための機能)のことを指しますが、ADHDの子どもはこのDMNをうまく調整できないといった傾向があることが示唆されています。
以上の「ADHDの原因」の内容は、以下の記事を参照しています。
関連記事:「【なぜADHDの症状が起こるのか?】ADHDの原因について三重経路モデルを通して考える」
関連記事:「【ADHDへの理解】トリプルパスウェイ仮説とDMN仮説を通して考える」
関連記事:「【ADHDの症状が発症する原因について】DMN障害仮説を通して考える」
ADHDと二次障害
ここでは、「ADHDマーチ」と「反抗挑戦性障害(ODD)」について見ていきます。
ADHDマーチ
「ADHDマーチ」とは、本来のADHDといった発達障害に加えて、環境が本人と合わない状態が長期化(叱責や注意などを多く受けるなど)することで生じる二次障害に至るプロセスを表したものになります(以下、図で解説)。詳しくはこちらで紹介しています:関連記事:「【ADHDの二次障害について】ADHDのマーチについて著者の経験談も踏まえて考える」
ポイントとして、ADHDの二次障害として、「反抗挑戦性障害」を経由して症状が内在化(うつ病などの内面化)する過程と外在化(行為障害などの外面化)する過程に分かれていくといった方向性があるということです。
次に見る「反抗挑戦性障害」に加えて、ADHDの子どもには「不安障害」もよく見られると言われています。詳しくはこちらで紹介しています:関連記事:「【ADHDの二次障害(不安障害)について】療育経験を通して考える」。

反抗挑戦性障害(ODD)
「反抗挑戦性障害(ODD)」の特徴を簡単に言えば、周囲に対する反抗的な態度や攻撃性などがあります。症状について詳しくはこちらで紹介しています:関連記事:「【反抗挑戦性障害とは何か?】療育経験を通して考える」。
反抗挑戦性障害の症状は、幼児期から学童期早期に目立ち始め、その中で最も危機的な時期は学童期(小学校1~6年)だと言われています。
ODDに見られる攻撃性は、一見するとADHDの特性由来の「衝動性」と似ていると感じることがありますが、両者の攻撃性は質的に異なるものだと考えられています。
そして、大切な点として、学童期に二次障害への適切な支援が行われることで、思春期以降にはADHDの衝動性などをカバーする力がついてきて、症状の改善が見られると言われています。
つまり、本来持つ「衝動性」については、年齢が上がっていくとコントロール力がついてくるため、いかに二次障害を予防する関わり・環境調整が重要だと言えます。
以上の「反抗挑戦性障害(ODD)」の内容は、以下の記事を参照しています。
関連記事:「【ADHDの発達経過】大変な時期と予後を反抗挑戦性障害(ODD)の視点から解説」
関連記事:「【反抗挑戦性障害の特徴】ADHDの衝動性との違いから理解するポイント」
療育・支援のポイント
ここでは、著者が療育現場でよく活用しているADHDへの療育・支援のポイントについて、「ADHDへの基本対応」「不注意への対応」「多動性への対応」「衝動性への対応」の4つの観点から見ていきます。
ADHDへの基本対応
「ADHDへの基本対応」の支援のポイントとして、「叱責・注意を減らす」「成功体験で自己肯定感を育てる」「二次障害の予防」があります。
叱責・注意を減らす
ADHDは特性からくる様々な行動が影響して、周囲から叱責や注意を受けることがよくあります。
ADHD児の中には、叱責や注意を受けてもしばらくすると他の事に注意が向き、一見すると忘れているように感じることがあります。
一方で、著者の印象としては、叱責や注意の繰り返しは長期的に子どもの内部に確実にマイナスとなって体積していくものだと痛感しています(大人への不信に繋がっていきます)。
そのため、叱責や注意を意識的に減らし、少しでもできている部分に目を向け、その行動を強化していく関わりが大切だと考えます。
成功体験で自己肯定感を育てる
成功体験を積み上げていくためには、日頃の生活・活動の中で、頑張っている点・少しでもできた所を褒めることが大切です。
また、成功体験を作る上で、目標やスケジュール決めも支援者と一緒に行っていき、できた際には必ず肯定的なフィードバックをしていくことが大切です。
正の行動や頑張っている過程を認め・褒めていくことで、徐々に成功体験を増やしていくことで自己肯定感は徐々に高まっていきます。そして、自己肯定感の高まりは、行動のエネルギー源、挑戦するエネルギーの基盤になっていきます。
二次障害の予防
上記の取り組みは「二次障害の予防」に直結していきます。
一方で、二次障害が既に発症している場合には、二次障害が悪化しないために、事前の環境調整(トラブルが起きないような環境調整)、支援の方向性や関わり方をチームで共有すること、家庭や支援機関と連携していくことも必要になってきます。
二次障害に至るプロセスをアセスメントすることも大切になり、例えば、環境要因(愛着の問題など)や他の発達障害の併存の可能性の有無、学業の遅れなども考慮して現状を分析していくことがより良い対応に繋がっていくと言えます。
以上の「ADHDの基本対応」の内容は、以下の記事を参照しています。
関連記事:「療育で大切な視点—ADHD児への基本対応について-」
関連記事:「【ADHD児支援のポイント】うまくいくために大切な5つの条件を療育経験も交えて解説」
不注意への対応
「不注意への対応」として重要な点は、「ワーキングメモリの弱さを補う工夫」が必要です。例えば、メモの工夫、チェックリストや持ち物リスト、作業のやり方リストの活用などがあります。
ADHD児は、口頭理解が苦手なことが多いため、視覚的なツールを活用するなど、記憶の補助が重要な支援のポイントになります。
仮に、口頭指示を行う場合、優先順位を決めて、「①→○○をする、②→○○をする」など、短い分量で簡潔に伝える工夫も必要です。
また、「今日、大切なことがあったよね?」と重要となる記憶を思い出す練習も有効だと言えます。記憶は思い出すことで強化されていく特徴があるからです。
以上の「不注意への対応」の内容は、以下の記事を参照しています。
関連記事:「ADHD児への療育-不注意の対応について-」
多動性への対応
「多動性への対応」として重要な点は、「活発さが活かせる活動を取り入れる」ことが必要です。例えば、子どもが好きな運動系の遊びから簡単にできる相撲・腕相撲など様々あります。
日々の生活の中で、動きのある活動を取り入れていくこと、就寝前は静かに過ごすなどメリハリをつけていくことが大切です。
また、多動性が危険に繋がる場合には、事前にルールを伝えること、危険な場所・周囲に迷惑がかかる場所を避けるなどの対応も考慮していく必要があります。
多動性の症状としては、小学校低学年での表出が多く、それ以降は、徐々に減っていくケースが多いと言われいますが、場合によっては「薬物療法」も必要なこともあります。詳しくはこちらで紹介しています:関連記事:「【ADHDへの薬物療法について】薬が必要となるケースについて考える」。
以上の「多動性への対応」の内容は、以下の記事を参照しています。
関連記事:「ADHD児への療育-多動性の対応について-」
関連記事:「【ADHD児の多動性をいかに見抜くか!】アセスメントと対応のポイントについて考える」
衝動性への対応
「衝動性への対応」として重要な点は、「視覚的に不要な物を取り除く」や「口頭説明は短く簡潔に行う」「できたことを直ぐに褒める」などがあります。
「視覚的に不要な物を取り除く」とは、ADHD児が様々な刺激に注意を向けることを避けるように事前に気になる物を取り除くことが必要です。
著者が見ている子どもは、活動中に様々な物に興味関心を示すことが多いため、活動前だけではなく、活動を進める過程においてもできるだけ必要最小限に物を整備することを心掛けています。
「口頭説明は短く簡潔に行う」とは、ADHD児のワーキングメモリの弱さを補うために、口頭での伝達は、短く簡潔に分かりやすく伝える必要があります。
中でも、必ず守るべきルールなどは口頭指示の簡潔さに加えて、視覚的なツールも必要になると感じます。
「できたことを直ぐに褒める」とは、少しだけ待てたこと(あえて少し待つ練習を入れることも有効)やルールを守れたことなど、良い行動に対して即時報酬(直ぐに褒める・シールなどトークンをあげるなど)を与えることが必要です。
ADHD児の場合、良い行動に対してしばらく時間をおいてからフィードバックしても、その行動を忘れてしまうことがあるため、できるだけ時間をおかずに直ぐに褒めることが重要です。
仮に、失敗したこと・守れなかったことの振り返りにおいては、起こった出来事に対する行動を細かく細分化していく中で、行動単位での振り返り(次は○○していこう!)が必要だと言われいます。
以上の「衝動性への対応」の内容は、以下の記事を参照しています。
関連記事:「ADHD児への療育-衝動性の対応について-」
関連記事:「【ADHD児の衝動性をいかに見抜くか!】アセスメントと対応のポイントについて考える」
関連記事:「【ADHDの衝動性への理解と2つの支援方法】即時報酬・振り返りのスコープ設定支援を例に」
まとめ
ADHD(注意欠如多動症)は、「不注意」「多動性」「衝動性」を主な特徴とした発達障害です。
中には、「不注意優勢型」と「多動・衝動性優勢型」と、この両方の特徴が見られる「混合型」があります。
ADHDの原因としては、「トリプルパスウェイ仮説(三重経路モデル)」と「DMN(Default Mode Network)仮説」があると考えられています。
ADHDは二次障害に繋がることが多いため、二次障害に至るメカニズムについて(ADHDマーチ)理解を深めることが大切です。
支援におけるポイントとしては、二次障害の予防や叱責や注意を減らしながら成功体験の積み上げてによる自己肯定感を高めていく関わりを基本としていく中で、「不注意」「多動性」「衝動性」それぞれに対する特徴を抑えた関わりも併せて必要です。
参考書籍紹介
今回の記事内容をさらに深める上でお勧めする書籍紹介記事を以下に載せます。
ADHDを含め発達障害領域を網羅的に学びたいと考えている人には次の書籍紹介記事がお勧めです:関連記事:「臨床発達心理士が厳選:発達障害を理解するための体系的読書ガイド【完全版】」。
ADHDに関するお勧め書籍紹介はこちらで紹介しています:「【臨床発達心理士が厳選】ADHDに関するおすすめ本:初級~中級者向け」。
発達障害の概要に関するお勧め書籍紹介はこちらで紹介しています:関連記事:「【臨床発達心理士が厳選】発達障害に関するおすすめ本:初級~中級者向け」。
ADHDも含め発達障害への支援に関するお勧め書籍紹介はこちらで紹介しています:関連記事:「【臨床発達心理士が厳選】発達障害の支援に関するおすすめ本:初級~中級者向け」。
二次障害に関するお勧め書籍紹介はこちらで紹介しています:関連記事:「【臨床発達心理士が厳選】発達障害の二次障害に関するおすすめ本:初級~中級者向け」。

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