療育現場で発達に躓きのお子さんたちと関わっていると、今、そしてこれからを、どのようにサポートしていけばよいのか悩むことが多くあります。
それに関連して、これまでどのような経過を辿って現在に至るのかという過去から現在に至るまでの状態理解も大切ですが、難しくもあります。
発達に躓きがあると一般的な発達とは異なる経路をたどることが多くあります。
もちろん、10人いれば10通りの育ちがあるので、すべての発達は個性的であるともいえます。
専門家として大切なことは、その子の状態像を理解し、しっかりとサポートしていくことです。
そのために、大切な視点に「発達的視点」があります。
「発達的視点」とは、過去-現在-未来を連続的に捉えるもので、何歳で○○ができるという点で考えのではなく、○○ができるにはどのようなプロセスが必要なのかという連続性・関連性を考えることでもあります。
例えば、言葉を話せるようになるのは〇歳でという視点とは違い、言葉を話すにはどのようなプロセスが必要であるのかといった繋がりを考えることです。
「発達的視点」をもつことで、発達に躓きのある子どもたちそれぞれの状態理解と、より良い支援に近づけていくことができます。
それでは、発達的視点を深めていく上で、どのような視点が必要だと考えられているのでしょうか?
そこで、今回は、療育で大切な発達的視点について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、「自己挑戦能力」と「自己修正能力」をキーワードに理解を深めていきたいと思います。
今回参考にする資料として、「木村順(2006)子育てと健康シリーズ㉕:育てにくい子にはわけがある:感覚統合が教えてくれたもの.大月書店.」を参照していきたいと思います。
発達的視点について:「自己挑戦能力」と「自己修正能力」をキーワードに考える
それでは以下に、発達的視点の理解のカギとなる「自己挑戦能力」と「自己修正能力」について説明していきます。
自己挑戦能力について
それではまず「自己挑戦能力」についてです(以下、著書引用)。
著書では、「自己挑戦能力」について、発達に躓きがある子どもたちは、普通の環境だけでは、自らチャレンジする力が弱く、経験の積み上げが進まない、つまり、「未学習」が生じる(「自己挑戦能力」の弱さ↔「未学習」)、と記載されています。
自己修正能力について
次に、「自己修正能力」についてです(以下、著書引用)。
著書では「自己修正能力」について、普通の環境だけでは、なかなか自分から学び直していく力が弱く、修正がききにくい、つまり、「誤学習」が生じる(「自己修正能力」の弱さ↔「誤学習」)、と記載されています。
通常、私たちは、家庭や学校など様々な環境で多くの挑戦を重ねながら多くのことを学んでいきます。
しかし、発達に躓きのある子どもたちは、様々な要因から様々な能力を築き上げていくことが難しいと考えられています。
定型児であれば成熟に伴い、運動機能の向上により歩行ができる、認知機能の向上により言葉を話したり、相手の意図をくみ取ったり、状況を理解したり、抽象的な思考ができる部分が多くあります。
一方で、発達に躓きのある子どもの場合、これらの能力に凸凹があったり、全体的な発達がゆっくりだったりします。
専門家として、大切なことは、こうした能力の凸凹を読み取る力や、○○の力の獲得には○○という基盤となる力が必要であるという連続性を理解する力だと言えます。
子どもの発達状況について理解をしていく中で、「未学習」や「誤学習」も含めて考えることが大切です(以下、著書引用)。
そして、こうした「未学習」と「誤学習」が今の状態を作り出しているという考え方をここでは「発達的視点」と呼ぶ、と記載されています。
著書の内容を踏まえると、「発達的視点」とは、現在の子どもの状態は「未学習」⇔「自己挑戦能力」の弱さと、「誤学習」⇔「自己修正能力」の弱さが影響しているといった考え方だと言えます。
そして、現在の子どもの発達状態を理解し今後に向けて支援していくためには、これまでの(過去⇒現在)における「未学習」と「誤学習」とを理解していくこと、それに加えて、未来に向けて「未学習」と「誤学習」に対する支援方針を考えていくことだと言えます。
著者の体験談
次に、著者が長年の療育経験を通して、「発達的視点」が大切だと思った経験談について見ていきます。
ケース:小学校4年生のA君について(執筆現在)
A君は著者が所属する放課後等デイサービスに一年生の頃から通所されている子どもで、全体的な発達はゆっくりな子どもでした。
当時(1~2年生頃)は、他児トラブルやもの投げ、かんしゃくやパニックなどが多く見られていました。
通常の発達段階だと、1~2年生であれば、ある程度、子ども通しで関わることができたり、もちろん、子ども同士の関わりの中でトラブルはあったとしても、相手の意図や思いなどをくみ取る力は合う程度はあるため、子ども同士の力や大人の介入により、トラブルを解決していく力があります。
また、かんしゃくやパニックも、そう頻繁に起こるものではなく、何か特定の要因があって起こるなど、要因の特定が概ね可能だと言えます。
一方で、A君は、他児トラブルの要因やかんしゃくやパニックの要因の特定が非常に困難でした。
少し前まで他児と仲良く遊んでいたかと思うと、急に物を投げ始めたり、他児を叩いたりなど、A君の急な行動に対して、なぜこうした行動をとってしまうのか?といった理解が追いつかないことが多くありました。
また、かんしゃくやパニックも頻繁で、やりたいことが思い通りにいかないなど、うまくいかないことがあると頻繁に起こることはもちろんありますが、要因の特定が難しい場合にも起こることがありました。
しかし、現在のA君は、こうした問題となる上記の行動がとても少なくなった印象があります。
他児とうまく関わる様子も増え、かんしゃくやパニックの頻度もとても少なくなりました。
また、問題となる行動の要因の特定も、以前より行いやすくなりました。
こうしたプラスの変化の要因として、様々な経験の中で、A君にとって配慮された環境が整えられることで、成功体験を多く重ねることができ、「未学習」と「誤学習」が徐々に修正されていった点にあるのではないかと考えています。
以上、療育で大切な発達的視点:「自己挑戦能力」と「自己修正能力」をキーワードに考えるについて見てきました。
一般的な発達だとされている定型児は、様々な体験を通して、自ら学習し、修正していく能力があるとされているため、失敗から学ぶ力、環境から学ぶ力により成長していくことができます。
一方で、発達に躓きのある子どもでは、自ら学ぶことが難しいことが多く見られます。
そのため、配慮された環境でその子どもの発達に応じた支援が必要になります。
私自身、長年こうした子どもたちをみていると、とても成長したと実感することがよくあります。
そのためには、個々にあった環境の中で、配慮と支援を行うことが大切で、その中で、多くの学習を重ねながら、より良い発達を歩んでいるのだと感じています。
今後も、子どもたち一人一人にあった療育を考え、行っていく中で、より良い発達のサポートをしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
発達心理学に関するお勧め書籍紹介
関連記事:「発達心理学に関するおすすめ本5選【中級編】」
木村順(2006)子育てと健康シリーズ㉕:育てにくい子にはわけがある:感覚統合が教えてくれたもの.大月書店.