【自閉症児の対人コミュニケーション支援】療育現場から考える理解と実践のポイント

まとめ記事

近年、自閉症児の対人コミュニケーションに関する理解と支援は大きく進んできています。

一方で、実際の療育現場では「どのように関わればよいのか?」「なぜうまく伝わらないのか?」と悩む場面も少なくありません。

著者の長年の療育経験を踏まえても、自閉症児の対人コミュニケーションの問題は多く見られる一方で、多様なニーズに対する支援の難しさを強く感じています。

 

本記事では、自閉症児の対人コミュニケーションの特徴を整理した上で、療育現場での実践をもとに、具体的な支援の工夫や関わり方について体系的に解説していきます。

 

※本記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有し、発達障害に関連する大量の書籍を読んできた筆者が執筆しています。

 

自閉症児の対人コミュニケーションの理解と支援の全体マップ

本記事では、自閉症(自閉スペクトラム症:ASD)の対人コミュニケーションの理解と支援に関して、以下の6つの章に分けて解説していきます。

1.自閉症の対人コミュニケーションの問題と特徴

2.対人コミュニケーションの基盤となる力

3.対人コミュニケーションの支援方法

4.対人コミュニケーションの支援のポイント

5.まとめ

6.参考書籍紹介

 

 

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自閉症の対人コミュニケーションの問題と特徴

自閉症(自閉スペクトラム症:ASD)の診断基準の一つとして、「社会的コミュニケーションおよび相互関係における持続的障害」があります。詳しくはこちらで紹介しています:関連記事:「【社会的コミュニケーションの障害とは何か?】自閉症の特徴について考える」。

これは、簡単に言えば「対人コミュニケーションの問題」だと言えます。

「対人コミュニケーション」とは、言語・非言語(表情や視線・ジェスチャーなど)の情報を他者とやり取りすることだと言えます。

自閉症には「対人コミュニケーションの問題」→「言語・非言語の理解と表出の問題」があり、例えば、発達早期には視線の合いにくさ、表情理解の難しさ、指差しが見られない、大人に対する確認行動がない、他者に対する反応の乏しさなどが見られます。そして、対人コミュニケーションの問題は、生涯に渡り持続する傾向があります。

著者は、これまで未就学児から学童期、そして、成人期に至るまでの自閉症児・者との関わりがあります。中でも、今回は、児童期の対人コミュニケーションの問題の特徴を中心に見ていきます。

児童期から成人期に見られる対人コミュニケーションの問題として以下の特徴がよく見られます。こちらの記事を参照しています:関連記事:「自閉症(ASD)の行動特徴-児童期から成人期の対人コミュニケーションに着目して-」。

※ここでは、後の支援で取り上げる「対人コミュニケーションの問題」の特徴を列挙します。

・相手の気持ちの理解の難しさ

・他者との距離感が遠いあるいは近い

・会話がうまく続かない

・比喩や冗談などの理解が難しい

・友人関係の維持が難しい

以上の特徴は、著者の療育現場にもよく見られるものです。具体的な対応策については、後の章で解説していきます。

 

 

対人コミュニケーションの基盤となる力

「対人コミュニケーションの問題」を理解し支援する前提として、まずは、対人コミュニケーションの基盤にはどのような力が必要なのかを考えることが重要です。

ここでは、「社会性」「自律」「他者との信頼関係」「意図理解」をキーワードに見ていきます。

以上のキーワードは、対人コミュニケーションの技能の練習としてよく活用されている「ソーシャルスキルトレーニング」の基盤となっている力からヒントを得ています。

つまり、ソーシャルスキルの獲得の基盤となっている要素を理解することで、対人コミュニケーションの基盤となる力の理解を深めていくことができます。

 

社会性」とは、「人とある対象を共有し、その共有体験を楽しむといった共同行為」だと考えられています。社会性の獲得は、ソーシャルスキルの基盤となっており、人と共に何かを共有し楽しむ行為を積み上げていく経験がソーシャルスキルの獲得以前には大切になります。

自律(自己コントロール力)」とは、「他者の力もかりながら自分自身をコントロールする力」のことであり、自律は社会性の育ちにおいてとても大切です。つまり、ソーシャルスキルの獲得にも影響します。発達障害児の自己コントロール力は、定型発達児と比べて、小学校高学年くらいまで時間をかけて成長していくと考えられています。

他者との信頼関係」とは、簡単に言えば、「安定した愛着関係(愛着形成)」のことであり、安定した愛着形成は、情緒の発達に大きく貢献し、さらには、ソーシャルスキルの発達にもポジティブな影響を及ぼすと考えられています。また、安定した愛着形成は「自尊心・自己肯定感」の発達においても重要です。「自尊心・自己肯定感」の育ちもまた、ソーシャルスキルの獲得において大きな意味を持ちます。

意図理解」とは、簡単に言えば、共同注意をはじめとした「心の理論の理解」のことであり、自分とは異なる心を持った他者の意図を理解する力もまた、ソーシャルスキルの獲得において大切だと言えます。

以上の内容の参照記事は以下で紹介しています。さらに深く知りたい人は以下の記事を読んで頂ければと思います。

関連記事:「【〝社会性″と〝ソーシャルスキルトレーニング(SST)″の関係】療育経験を通して大切な視点について考える

関連記事:「【社会性の育て方で大切なこと】スキルだけでは社会性は育たない

関連記事:「【ソーシャルスキル獲得において重要な2つの基盤とは】療育経験を通して考える

 

 

対人コミュニケーションの支援方法

ここでは、自閉症児・者への「対人コミュニケーションの支援方法」として一般的に活用されている「ソーシャルスキルトレーニング」「ソーシャルストーリー」「ソーシャルシンキング」について見ていきます。

 

ソーシャルスキルトレーニング

ソーシャルスキルトレーニング(SST)」とは、「日常生活に関する技能を練習する方法」です。

様々なソーシャルスキルを獲得するためには、本人の困り感とその困り感を解決したいといった動機が重要です。そのためにも、様々な社会経験(対人交流の経験)が必要だと言えます。

ソーシャルスキルトレーニングで大切なことは、スキルの獲得の時間が楽しいものであるように工夫をすること、獲得したスキルの般化ができるように支援をしていくことです。

般化を促す上でも、本人に対して共感的態度で接することが他者に対する共感性の育ちに寄与し、これは同時に、他者の視点の理解にも繋がっていきます(他者から共感されてはじめて他者のことを理解しようとする気持ちが育つ)。

さらに、ソーシャルスキルは自尊心・自己肯定感が育たないとうまく使用できないと考えられているため、自分自身への肯定的な評価を高めていく関わりもまた必要だと言えます。

ソーシャルスキルのうち最も獲得したいスキルは「他者に助けを求める力(援助要求スキル)」だと考えられています。発達障害児・者の多くが苦手とするスキルであるため、このことも抑えておくことが大切だと言えます。

ソーシャルスキルに関するお勧め記事を以下で紹介しています。

関連記事:「【ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは何か?】発達障害児支援で大切な視点

関連記事:「【〝ソーシャルスキルトレーニング″で最も身につけたいスキルとは?】発達障害児支援の現場から考える

 

ソーシャルストーリー

ソーシャルストーリー」とは、「自閉症児に対して、暗黙のルールを教える教育技術、つまり、場面に応じた対応法・考え方を文字やイラストで説明する方法」です。

「暗黙のルール」とは、例えば、人が話している時は静かに聞く、順番を守って遊ぶ、他者に急に話しかけたりしないなど学校のルールで学習する以外に自然と身につけるものがあります。

暗黙のルールの理解が難しい背景として、「中枢性統合の弱さ」と「心の理論の理解の弱さ」があります。こうした自閉症の認知特性を抑えていくこともまた支援上とても大切になってきます。

ソーシャルストーリーに関する記事は以下で紹介しています。

関連記事:「【自閉症への支援】ソーシャルストーリーを例に考える

 

ソーシャルシンキング

ソーシャルシンキング(Social Thinking:対人的思考)」とは、「相手の意図や心情を理解し、状況に応じた行動を考え導きだすための方法」です。

ソーシャルシンキングは先にみたソーシャルストーリーの限界を越える支援方法になります。

ソーシャルストーリーにおける各場面に対する各対応では、目まぐるしく変わる場面・状況に対する対応には限界があります。ソーシャルシンキングは、この状態を解決する支援方法だと言えます。

また、ソーシャルスキルトレーニングで獲得したスキルを発揮するための前提として、ソーシャルシンキングはとても重要や役割を果たすと考えられています。

ソーシャルシンキングに関する記事は以下で紹介しています。

関連記事:「【自閉症児への支援】ソーシャルシンキングを例に考える

 

 

対人コミュニケーションの支援のポイント

ここでは、先に見た学童期(成人期も含む)の対人コミュニケーションの問題の特徴に対する支援のポイントについて、著者の実践も交えて解説していきます。

※様々ある支援内容のうち、実際に著書がよく活用しているもの、活用の有効性が高いと感じるものを中心に取り上げています。

 

相手の気持ちの理解の難しさへの支援のポイント

ここでは、「気持ちを言葉にして伝える」と「教材等の活用」について見ていきます。

気持ちを言葉にして伝える」としては、他者の気持ちの言語化、言語化する習慣を持ちポジティブな面を多く伝える(〝普段から気持ちを言葉に出して伝える″)方法があります。

著者は他者の気持ちの理解が難しい自閉症児に対しては、日々、様々な文脈で他者がどのように考え・感じているのか?そして、当の本人もどのように考え・感じているのか?を一緒に言葉にしていくことを大切にしています。

自閉症児・者は他者の心の状態の読み取り方が定型発達児・者とは異なるため、できるだけ言語・ロジックを通して伝えることが大切です。

教材等の活用」としては、先に見た言葉の説明(音声言語)に加えて、視覚情報を用いた教材の活用(〝教材などで他の人の気持ちを教える″)があります。

自閉症児・者の中には、口頭言語よりも視覚的情報の方が理解がしやすい人が多くいるため、認知特性に配慮した関わり方も重要です。

例えば、ソーシャルストーリーなどに見られる特定の状況に対して、人はどのように考え・感じて行動しているのか?それに対して、どのように応えればよいのか?など、視覚的なツールを活用して対人コミュニケーションの問題を支援する方法があります。

「相手の気持ちの理解の難しさ」への支援に関して参考になる記事は以下で紹介しています。

関連記事:「【発達障害児に見られる人の気持ちがわからない場合への対応】2つのポイントを通して考える

 

他者との距離感が遠いあるいは近いことへの支援のポイント

ここでは、「物理的な距離感を伝える」と「ボディイメージを育む」について見ていきます。

物理的な距離感を伝える」としては、相手との〝距離感″について、実際に身体を通して具体的に伝えることが重要になります。

自閉症児・者の多くは曖昧で抽象的な理解に難しさを抱えているため、‟もう少し離れて”といっても具体的なイメージが持ちにくいからです。

距離感が近すぎると、他者から文句を言わることが療育現場では時々見られるため、相手に断ってから近づく、例えば、他者が遊んでいる物を近くで見る際には事前に許可を取ることも大切だと感じます。

ボディイメージを育む」としては、ボディイメージ、つまり身体的なイメージを形成していくことが他者との距離感の学習には大切だと言えます。

例えば、ジャングルを初めとしたアスレティック系の遊びは身体イメージを鍛えるものとして良いと言われています。

著者の療育現場で、他者との距離感に難しさを抱えている子どもの多くが、バランス系の遊び、全身を協調させる遊びにどこか不器用さを抱えているケースが多いと感じます。そのため、ボディイメージを育むといった視点はとても重要だと感じます。

「他者との距離感が遠いあるいは近い」ことへの支援に関して参考になる記事は以下で紹介しています。

関連記事:「【発達障害児支援で必要な相手との距離感を教える方法】療育経験を通して考える

 

会話がうまく続かないことへの支援のポイント

ここでは、「他者との関わり方の介入」と「会話のルールなどを伝える」について見ていきます。

他者との関わり方の介入」としては、相手の立場・状況などを具体的に伝えていくこと(○○している時は、話はできないなど)、声のかけ方のモデリング(話をしても良いかの確認の仕方など)、聞き手・話し手を交換しながら行うロールプレイの練習などがあります。

このアプローチは、著者は非常によく療育現場で活用しています。相手の状況理解への促し、声げかの仕方、コミュニケーションのターンテーキングの仕方など様々な要素に分解できます。

療育現場では、状況・文脈が刻々と変化していきますので、「他者との関わり方の介入」に関して、いくつかの要素に分解していきながら、支援する視点を持つことが大切だと感じます。

会話のルールなどを伝える」としては、会話の始め方、会話の広げ方、会話のルールなどを伝えていく方法です。ある意味テクニック的なものだとも言えます。

著者は中でも会話の広げ方において、双方の興味関心が一致するところを把握して、そこから会話を広げていけるような関わりをよく取っています。

特に自閉症児・者は共通の興味関心があることで、会話が一気に発展することがあるため、この視点はとても大切だと感じます。

「会話がうまく続かない」ことへの支援に関して参考になる記事は以下で紹介しています。

関連記事:「【ソーシャルスキルで大切な一方的な会話への対応】会話が一方的な発達障害児への対応方法

関連記事:「【会話が一方的な発達障害児への対応】応用行動分析学の視点を通して考える

 

比喩や冗談などの理解が難しいことへの支援のポイント

ここでは、「相手の意図(冗談)を丁寧に伝える」について見ていきます。

相手の意図(冗談)を丁寧に伝える」としては、相手の冗談や噓の背景を分かりやすく伝達することが大切です。

もちろん、自閉症児・者は比喩や冗談といった複雑な他者の言動の意図の汲み取りが難しいため、理解も発達段階によって難しい場合があります。

そのため、著者は日頃から噓や冗談を言い合える関係性を大人・子ども間、そして、子ども同士の間で作っていくことを大切にしています。

その他、嘘や冗談に対して直ぐにイライラしないように、日頃から、自尊心・自己肯定感、そして、自己コントロール力を育てていくことは大切な視点だと感じています。

「比喩や冗談などの理解が難しい」ことへの支援に関して参考になる記事は以下で紹介しています。

関連記事:「【ソーシャルスキルで大切な冗談が通じないことへの対応】冗談がわからない発達障害児への対応

 

友人関係の維持が難しいことへの支援のポイント

ここでは、「同じ特性を持つ子ども同士の関わり」と「他の子どもとの遊びが発展するよう仲介する」について見ていきます。

同じ特性を持つ子ども同士の関わり」としては、対人関係支援において、子どもの特性も考慮しながら、興味関心の世界を把握していき、そして、興味関心の世界を通して子ども同士を繋いでいくといった視点がとても重要です。

特に自閉症児は、興味関心の幅が狭く、非常にマニアックな傾向があるため、興味関心が一致するポイントを見つけると、対人交流が深まることがよくあります。

他の子どもとの遊びが発展するよう仲介する」としては、子ども同士の興味関心といった共通点を探していきながら、興味関心を活用して、大人が子ども同士の関わりを仲介することで遊びを発展させていく方法もとても有効です。

先に見た内容について、大人が遊びをリードするような介入の仕方が対人関係の維持・発展においてとても大切だと感じます。

以上の2つを意識して支援を進めていくことで、対人関係の維持・発展に大きく寄与した例はこれまで著者の療育現場で多く見られています。また、以上の内容を可能にする上で、大人との信頼関係の構築もまた必須の内容だと感じます。

「友人関係の維持が難しい」ことへの支援に関して参考になる記事は以下で紹介しています。

関連記事:「【発達障害児への対人関係支援】気をつけるべきポイントについて考える

関連記事:「【発達障害児に見られる対人関係が発展しない場合の対応】6つのポイントを通して考える

 

 

まとめ

自閉症(自閉スペクトラム症:ASD)の診断基準の一つとして、「社会的コミュニケーションおよび相互関係における持続的障害」、つまり、簡単に言えば「対人コミュニケーションの問題」があります。

対人コミュニケーションの問題は、幼少期から様々な特徴として現れ、生涯に渡り特徴の強度は異なるものの持続する可能性があります。

そのため、発達早期から個々に応じた対人コミュニケーションの特徴と、それに応じた配慮・支援が必要になります。

適切な支援が行われていくことで、自閉症児・者の対人コミュニケーションのスキルを高めていくことは可能だと言えます。

 

 

参考書籍紹介

今回の記事内容をさらに深める上でお勧めする書籍紹介記事を以下に載せます。

自閉症を含め発達障害領域を網羅的に学びたいと考えている人には次の書籍紹介記事がお勧めです:関連記事:「臨床発達心理士が厳選:発達障害を理解するための体系的読書ガイド【完全版】」。

自閉症の理解に関するお勧め書籍紹介はこちらで紹介しています:「【臨床発達心理士が厳選】自閉症に関するおすすめ本:初級~中級者向け」。

自閉症を含め発達障害への支援に関するお勧め書籍紹介はこちらで紹介しています:関連記事:「【臨床発達心理士が厳選】発達障害の支援に関するおすすめ本:初級~中級者向け」。

 


今回取り上げた「自閉症児の対人コミュニケーションの理解と支援」を含めた自閉症に関するまとめ記事を以下で紹介しています。

関連記事:「自閉症(自閉スペクトラム症:ASD)の理解と支援:療育実践を踏まえて解説【完全版】

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