「ワーキングメモリ」とは、情報を一時的に記憶しながら、考えたり行動したりするために活用する認知機能です。学習や日常生活だけでなく、実行機能や発達障害との関係も深く、子どもの発達を理解する上で重要な視点となります。
著者が見ている発達障害児において、ワーキングメモリの弱さや個人差など、特徴的な様子が見られています。そのため、ワーキングメモリの弱さ・特徴を踏まえた支援の視点が大切だと感じています。
本記事では、ワーキングメモリの特徴や実行機能・学習との関係、発達障害に見られる特徴、具体的な支援方法について、わかりやすく解説します。
※本記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有し、発達障害に関連する大量の書籍を読んできた筆者が執筆しています。
ワーキングメモリの理解と支援の全体マップ
本記事では、ワーキングメモリの理解と支援に関して、以下の7つの章に分けて解説していきます。
1.ワーキングメモリとは何か
2.ワーキングメモリと実行機能の関係
3.ワーキングメモリと学習との関係
4.様々な発達障害とワーキングメモリの特徴と支援のポイント
5.ワーキングメモリへの支援の工夫
6.まとめ
7.参考書籍紹介
ワーキングメモリとは何か
ワーキングメモリ(working memory)とは、情報を記憶し、処理する能力のことを指します。脳のメモ帳とも言われています。
私たちは、外界の様々な音声情報・視覚情報を一時的に取り込み、保持(記憶)しながら、次の行動や思考に活用しています。まさに、ワーキングメモリとは、記憶を活用して考えている状態だと言えます。
以下、ワーキングメモリのモデルで有名な図を記載します(Gathercole&Alloway,2008/2009を参照)。

このモデルでは、注意をコントロールし、高次の処理に関わる「中央実行系」があります。
中央実行系の下位システムとして、視空間性の情報の保持を担う視空間性スケッチパット(「視空間的短期記憶」の働き)と、言語の情報の保持を担う音韻ループ(「言語的短期記憶」の働き)があります。
「視空間的短期記憶」と「言語的短期記憶」には、どちらも「短期記憶」が入っていますが、短期記憶は‟記憶(視覚情報・言語情報)”に特化しています。
そして、中央実行系と視空間性スケッチパットが共働した状態を「視空間性ワーキングメモリ」と言い、中央実行系と音韻ループが共働した状態を「言語性ワーキングメモリ」と言います。
つまり、先ほど見た「短期記憶」に加えて「ワーキングメモリ」では、‟記憶+処理”が含まれています(‟記憶”→短期記憶、‟処理”→中央実行系)。
ワーキングメモリの特徴として、一度に保持・処理できる容量には限界があり、年齢による変化が生じること、同年齢集団においても個人差が見られると考えられています。
また、先のモデルで紹介した「視覚情報」と「音声情報」を保持・処理する脳の部位は異なっているため、それぞれ独立して働いていること、相互に補完し合う関係にあります。
そのため、支援の観点で言えば、強い情報処理を活かし、弱い情報処理には配慮する視点が大切だと言えます。
以上の「ワーキングメモリとは何か」の内容は、以下の記事を参照しています。
関連記事:「ワーキングメモリの概要:活用されているモデル・学習や発達障害との関連性について」
視空間性ワーキングメモリ
「視空間性ワーキングメモリ」とは、視空間領域に含まれ、情報を記憶し処理する働きのことを指します。
「視空間的短期記憶」が〝記憶″に特化したもの、例えば、形や位置などの視覚情報の記憶であるのに対して、視空間性ワーキングメモリとは、情報の〝記憶と処理″が含まれます。
視空間性ワーキングメモリの活用例として、散らかっている部屋から必要な物を思い出すこと、以前通ったことのある道や地図を見て目的地へと運転すること、頭の中で図形を回転させること、黒板の文字を見てノートに書き写すなどがあります。
視空間性ワーキングメモリの弱さについて、アセスメントする際のポイントとして、「黒板の視写で何回も過剰に黒板を見る」、「視写スピードがかなり遅い(不器用さの可能性もある)」、「音読の際のチェックポイント(テキストをあまり見ないでも読める→視覚情報を頼らずに聴覚情報をうまく活用している可能性あり)」があります。
支援のポイントとして、「お手本は近くに置く」「赤鉛筆で文章を区切る(文節に区切りを入れる工夫)」「得意な聴覚情報を使う」「書くことを補う(書く分量を減らす・写真やイラストなどの活用)」があります。
以上の「視空間性ワーキングメモリ」の内容は、以下の記事を参照しています。
関連記事:「【視空間性ワーキングメモリとは何か?】学習活動との関連性について考える」
関連記事:「【視空間性ワーキングメモリの困難さへの対応】アセスメントと対応のポイント」
言語性ワーキングメモリ
「言語性ワーキングメモリ」とは、言語領域に含まれ、情報を記憶し処理する働きのことを指します。
「言語的短期記憶」が〝記憶″にのみ特化したもの、例えば、言葉や数などの音声情報の記憶であるのに対して、言語性ワーキングメモリとは、情報の〝記憶と処理″が含まれます。
言語性ワーキングメモリの活用例として、音声から電話番号や暗証番号など覚えること、口頭での指示・説明の理解、長文や長い会話の理解、暗算などがあります。
言語性ワーキングメモリの弱さについて、アセスメントする際のポイントとして、「聞き返してくることが多い」、「相手が話している際にボーッとしていたり、話の最中に手いじりをしたりしている」、「あまり話や発言などが上手でない」があります。
支援のポイントとして、「要点を簡潔に話す」、「指示は短く伝える」、「大切なことは繰り返して伝える」、「全体の後に個別に音声入力支援(全体への周知後にさらに個別で伝える)」があります。
以上の「言語性ワーキングメモリ」の内容は、以下の記事を参照しています。
関連記事:「【言語性ワーキングメモリとは何か?】学習活動との関連性について考える」
関連記事:「【言語性ワーキングメモリの困難さへの対応】アセスメントと対応のポイント」
ワーキングメモリと実行機能の関係
この章では、「ワーキングメモリと実行機能の関係の3つの見方」「ワーキングメモリと実行機能の3つの構成要素の関係」について見ていきます。
ワーキングメモリと実行機能の関係の3つの見方
「実行機能(executive function)」とは、「計画を立て、その計画通りに集中することの維持、別の刺激に飛びつくことを抑制するプロセスに関わっている高次の脳機能」のことを指します。
そして、ワーキングメモリは実行機能とも関連が強いと考えられています。
両者の関係は、研究者によって考えが異なり、大きく以下の1~3の3つの見方があります。
1:ワーキングメモリを実行機能の一部とする見方
2:実行機能をワーキングメモリの一部とする見方
3:ワーキングメモリと実行機能の両者は相補的な関係であるとする見方
研究に携わる人にとって、自分がどの見方を取っているかを理解しておくことは大切です。
また、ワーキングメモリと実行機能の視点を、支援の現場で活用したいと考えている支援者にとっても、両者の関係性は非常にリンクする点があることを把握する意味でも、以上の見方は大切だと考えます。
以上の「ワーキングメモリと実行機能の関係の3つの見方」の内容はこちらの記事を参照しています。
関連記事:「実行機能とワーキングメモリの関係:両者はどのような関係にあるのか」
ワーキングメモリと実行機能の3つの構成要素の関係
実行機能の3つの構成要素には「更新」「抑制」「シフト」があります。
「抑制(inhibition)」で、これは、目標達成に当面関わらない無関連なことを抑制する働きのことでを指します。
「シフト(shift)」で、これは、状況や課題に応じて注意をシフトする働きのことを指します。
「更新(updating)」で、これは、入力されつつある情報を符号化し、モニタリングして、古い情報を新しい情報に置き換える働きのことを指します。
ワーキングメモリは、この3つの構成要素のうち「更新」に位置付けられています。
「更新」とは、新しい情報に注意を向けて、その情報を記憶し処理することです。つまり、新しい情報をアップデートする上で重要な機能だと言えます。
先ほど紹介した、「視空間性ワーキングメモリ」と「言語性ワーキングメモリ」では、‟記憶(短期記憶)+処理(中央実行系)”が含まれると解説しましたが、新しい情報を更新する上で、ワーキングメモリにある‟短期記憶+中央実行系”の要素が大切だと言えます。
つまり、新しい情報をアップデートする上で、実行機能の3要素(「更新」「抑制」「シフト」)のうち、ワーキングメモリといった「更新」の働きが非常に重要になってきます。
そして、「更新」の働きがうまく機能する上で、「抑制」「シフト」の働きもまた大切になってきます。詳しくはこちらの記事で紹介しています:関連記事:「【実行機能とは?】種類・発達・ワーキングメモリ・発達障害との関係・支援方法を総合解説」。
以上の「ワーキングメモリと実行機能の3つの構成要素の関係」の内容はこちらの記事を参照しています。
関連記事:「ワーキングメモリは実行機能の3つの構成要素の中にどう位置づけられるのか?」
ワーキングメモリと学習との関係
私たちの中には、IQが高ければ学業成績が高くなると考えている人も多いのでないでしょうか?
この点について、「学習のピラミッド」から重要な知見を得ることができます(以下、図を記載)。

このモデルでは、ピラミッドの最上位に位置する、学業成績に相当する「3Rs(読み、書き、算数)」の学習を高めるためには、その下に位置する、「行動」、「IQ」、「ワーキングメモリ」が影響するといった図になっています。そして、最も根底にあるのが「ワーキングメモリ」になります。
一見すると、学習に最も影響を与えそうな要素として、IQと考える人も多いと言われていましたが、ワーキングメモリの研究者たちは、学業成績を既定する最大の要因にワーキングメモリが挙げられるということを実証しました。
つまり、学習における3Rs(読み、書き、算数など)の向上において、ワーキングメモリを高めることが重要だと言えます。
一般的に、IQは私たちが既に学んだ知識を測定しているのに対して、ワーキングメモリは、学習潜在能力を測定しています。
著者が子どもの頃には、IQといった知能指数の高低で、勉強のできる・できないが判断されていたように思います。
もちろん、今でもIQを過大評価する傾向があるかもしれませんが、大切なことは、今必要な情報を記憶して、次の考えや行動にどのように活用できるかという力、つまり、ワーキングメモリの働きが大切なことは、よくよく考えれば至極当然なことなのかもしれません。
著者自身、当時苦手な勉強が好きになれたのも、自分のワーキングメモリの特徴についてメタ認知できたことが一つの契機になったのだと考えています。
以上の「ワーキングメモリと学習との関係」の内容はこちらの記事を参照しています。
関連記事:「ワーキングメモリの概要:活用されているモデル・学習や発達障害との関連性について」
様々な発達障害とワーキングメモリの特徴と支援のポイント
この章では、「自閉症のワーキングメモリの特徴と支援のポイント」「ADHDのワーキングメモリの特徴と支援のポイント」「学習障害(ディスレクシア)のワーキングメモリの特徴と支援のポイント」「発達性協調運動障害のワーキングメモリの特徴と支援のポイント」「不安症のワーキングメモリの特徴と支援のポイント」について見ていきます。
自閉症のワーキングメモリの特徴と支援のポイント
自閉症(自閉スペクトラム症:ASD)のワーキングメモリの特徴として、言語性ワーキングメモリの弱さがあります。
特に、知的に遅れのある自閉症の場合には、言語性ワーキングメモリに問題が生じると言われている一方で、知的に遅れのない自閉症の場合には、新規な語彙の獲得や抽象的な理解に大きな負荷がかかります。
支援のポイントとして、「ワーキングメモリの処理負担を減らす(マルチタスク→シングルタスク、抽象的な伝達内容→論理的・機械的な情報での伝達)」、「環境の調整(気になる刺激を取り除く)」があります。
さらに、自閉症に特化した支援のポイントとして、「ルーティン化の活用(構造化)」、「興味関心に新奇な情報を追加する工夫」などがあります。
著者は、これまで多くの自閉症児・者と関わる機会がありましたが、彼らは「視覚情報」に長けている情報処理をしている場合が多いこともあり、視覚的な情報の伝達(予定やルールなど)、そして、非常に興味関心が限定している一方で、興味関心を把握して、そこに新しい情報を付け加える工夫をすることで、新規情報のアップロードがされやすくなると感じています。
また、様々な感覚刺激に敏感なこともあるため、本人が不快な刺激はできるだけ取り除いた後に、新規な情報を伝達する工夫もまた大切だと感じます。
以上の「自閉症のワーキングメモリの特徴と支援のポイント」の内容はこちらの記事を参照しています。
関連記事:「【ワーキングメモリと自閉症の関係について】療育経験を通して考える」
関連記事:「【ワーキングメモリを支援する方法について】自閉症を例に考える」
ADHDのワーキングメモリの特徴と支援のポイント
ADHD(注意欠如多動症)のワーキングメモリの特徴として、言語性ワーキングメモリ・視空間性ワーキングメモリの両方に弱さが見られること、中でも、視空間性ワーキングメモリが特に低い傾向にあります。
支援のポイントとして、「ワーキングメモリの負荷を減らす工夫(伝達内容を短くする、活動・学びの時間を短くする)」、「ワーキングメモリを補強する工夫(必要な情報を不定期に繰り返す)」があります。
さらに、ADHDに特化した支援のポイントとして、「視覚的タイマーの活用」、「トークンなど報酬の活用」、「環境の符号化(覚えたい情報について、環境を手掛かりに記憶への定着を促す方法)」、「体を使う(身体を動かすことで必要な記憶を取り出しやすくなる)」があります。
著者の療育経験を踏まえると、ADHD児は様々な刺激に直ぐに反応するため、ASD児と同様に、事前の環境調整(刺激となるものをできるだけ取り除く工夫)が必要だと感じます。
本人が課題や活動に注意を向ける環境が整った後に、新奇な情報を本人にとって理解しやすい形で伝達することを心掛けています。
以上の「ADHDのワーキングメモリの特徴と支援のポイント」の内容はこちらの記事を参照しています。
関連記事:「【ワーキングメモリとADHDの関係について】療育経験を通して考える」
関連記事:「【ワーキングメモリを支援する方法について】ADHDを例に考える」
学習障害(ディスレクシア)のワーキングメモリの特徴と支援のポイント
学習障害(ディスレクシア:読み書き障害)のワーキングメモリの特徴として、言語性ワーキングメモリの弱さがあります。
「言語性ワーキングメモリ」とは、音声情報を処理しながら保持する働きのことを言います。
つまり、文章を読む際には、文字情報を音声情報に変換する作業が必要となるため、ディスレクシアの人たちは、ここに苦手さがあるため、言語性ワーキングメモリが弱いと言えます。
支援のポイントとして、「視覚的な提示(イラスト・写真の活用)」、「ワーキングメモリの処理負担を減らす(事前に全体像の理解を促すなど)」、「課題の理解・進捗の確認(一つのパラグラフごとに確認するなど)」があります。
さらに、学習障害(ディスレクシア)に特化した支援のポイントとして、「文字と単語の構成要素を自動化(音韻意識の強化)」、「ワーキングメモリの処理速度を速める(短くかつ分かりやすい文章を読む)」、「ワーキングメモリによる処理を減らす(指示する側はゆっくり話す・指示を録音する・情報量を減らす・活動時間の短縮化・宿題を減らすなど)」、「必要な情報についてリハーサルを促す」、「文章理解に関してまとまりのある部分で区切る工夫」があります。
著者はこれまで学習障害児、中でも、ディスレクシアのケースと少なからず関わった経験があります。彼らは言語性ワーキングメモリに困難さがあるため、読み書きにおいて、多大な苦労を強いられることが多くあります。
そのため、学習場面において、本人の言語性ワーキングメモリの弱さへの配慮を中心に、音韻意識の強化、リハーサルの活用、全体像の把握の促し、得意な情報処理で補完する(例えば、視空間性ワーキングメモリなど)対応を取っていきながら、早期から学習意欲を低下させないような支援が必須の課題だと言えます。
以上の「学習障害(ディスレクシア)のワーキングメモリの特徴と支援のポイント」の内容はこちらの記事を参照しています。
関連記事:「知能検査から見たワーキングメモリについて【学習障害との関連性】」
関連記事:「【ワーキングメモリとディスレクシアの関係について】弱さ・強さの特徴について考える」
関連記事:「【ワーキングメモリを支援する方法について】ディスレクシアを例に考える」
発達性協調運動障害のワーキングメモリの特徴と支援のポイント
発達性協調運動障害(DCD)のワーキングメモリの特徴として、視空間性ワーキングメモリの弱さがあります。
そのため、板書や図形問題、体育の授業などで課題が生じることが多く出てきます。
支援のポイントとして、「ワーキングメモリを支援する(スケジュールなど視覚的な提示)」、「活動中のワーキングメモリによる処理を減らす(音声入力ソフトの活用など)」、「掲示物など気が散る視覚情報を極力減らす」があります。
著者の療育現場では、不器用さが生じているケースは比較的多く見られています。その一方で、不器用さといった身体の協調運動の問題は、活動の中で、軽視されやすい印象があります。
また、他の障害との併存(重複)も多いことから、支援のニーズを他の障害とも併せて検討する必要があります。
その中で、書字や道具の使用(ハサミ・コンパス・定規など)への配慮、体育や音楽(楽器を使用した活動)活動での失敗経験の積み重ねによる自己肯定感の低下を、未然かつ早期に防いでいくことが大切だと感じます。
以上の「発達性協調運動障害のワーキングメモリの特徴と支援のポイント」の内容はこちらの記事を参照しています。
関連記事:「【ワーキングメモリと発達性協調運動障害の関係について】困難な特徴について考える」
関連記事:「【ワーキングメモリを支援する方法について】発達性協調運動障害を例に考える」
不安症のワーキングメモリの特徴と支援のポイント
最後に、発達障害とは異なりますが、ワーキングメモリと関連のある「不安症(群)」についても見ていきます。
不安症のワーキングメモリの特徴として、言語性ワーキングメモリの弱さがあります。
その背景には、不安症の基本的な特徴として、常に〝心配″に意識が向いてしまい、ワーキングメモリにもネガティブな影響を与えると考えられています。
言語性ワーキングメモリに弱さが見られる要因として、不安は言語によって処理されるからだと考えられています(一方で、視空間性ワーキングメモリには問題はない)。
支援のポイントとして、「気が散るものを最小限にする(周囲で気になるものはできるだけ取り除く)」、「ワーキングメモリによる処理を減らす(情報を分割して提示)」、「ワーキングメモリの処理への支援(実演から学習を促す・視覚的提示)」、「ワーキングメモリを補強する(記憶したい情報をリハーサルする)」、「ワーキングメモリの負荷を減らす(活動時間を減らす)」があります。
さらに、不安症(群)に特化した支援のポイントとして、「社会不安を減らす(グループワークの活用)」、「社会的な励ましの活用(仲間との交流内で他者に話しかけられるように励ます)」、「ルーティン化する(事前のスケジュール決め)」、「現実的な予測を作る(現実的な計画や目標を一緒に立てていく)」があります。
著者のこれまでの経験を踏まえても、過度に不安が高まると、様々な活動におけるパフォーマンスが低下することは実感としてあります。
そして、不安は言葉の働きが担っているため、言語性ワーキングメモリの弱さとして顕在化してきます。
発達障害児・者の中には、メンタル疾患を発症するケースも多いことから、二次障害の観点からも、不安症への理解や支援の検討もまた大切だと感じます。
以上の「不安症のワーキングメモリの特徴と支援のポイント」の内容はこちらの記事を参照しています。
関連記事:「ワーキングメモリと不安症(群)の関係について」
関連記事:「【ワーキングメモリを支援する方法について】不安症(群)を例に考える」
ワーキングメモリへの支援の工夫
この章では、ワーキングメモリへの支援の工夫について、著者が効果的だと考える練習方法を踏まえて、「暗唱訓練」、「要約する練習」、「シャドーイング」、「読書」、「文章を書く練習」、「会話」について見ていきます。
主に、ワーキングメモリの練習方法になりますが、ワーキングメモリの弱さを同時に補う方法を考えていくことが大切になります。この点については、前の章「様々な発達障害とワーキングメモリの特徴と支援のポイント」を参考にして下さい。
暗唱訓練
「暗唱訓練」とは、文章を読んで、それをそのまま覚えて暗唱する練習方法になります。
この場合、大切なポイントとして、一字一句を正確に言うこと以上に、内容を把握することです。
もちろん、暗唱訓練をする前段階として、音韻意識の練習(文字→音に変換、言葉がどのような音で構成されているかの理解)が必要だと言えます。
著者の療育現場で、音韻意識を高めるトレーニングとして、‟しりとり”をよく活用しています。子どもが楽しんでできるため、とても良い練習内容だと感じています。
練習段階として、音韻意識の練習の後、暗唱訓練へ、そして、その後、次に紹介する要約する練習に繋げていけると良いと考えます。
要約する練習
「要約する練習」とは、自分が読んだ文章の概要をまとめる練習になります。
要約するためには、ある程度、頭の中に話の内容を記憶として保持し操作する力を必要とします。つまり、言語性ワーキングメモリの鍛錬に繋がってきます。
ここで大切なポイントは、要約する内容は、できるだけ本人が興味関心のあるものの方が、効果があると考えます。
人は興味関心を通して、世界を広げ・深めていくからです。また、その喜びや発見を他者と共感したいといった動機が高まると、さらに、探求心を持って自ら文章を読もうとするのだと思います。
シャドーイング
「シャドーイング」とは、ある音声を聞いた直後に音声で真似るという練習方法になります。
例えば、英語学習において、‟アップル(リンゴ)”という音声を聞いた直後に‟アップル”と真似ることであり、練習では、単語→短い文章→少し長めの文章→・・・、といったように徐々に難易度を上げていきます。
シャドーイングといった音で聞き取る→声に出すといった練習方法は、言語性ワーキングメモリ(音声による)を鍛えるトレーニングに繋がっていると言えます。
読書
ディスレクシアの人たちにはとって、読書はワーキングメモリに多大な負荷を要します。
そのため、急に読書する練習以前に、音韻意識の練習や短く分かりやすい文章の読解など、順を追って取り組むことが大切だと考えます。
以上を踏まえて読書は、言葉を通して考える作業であるため、言語性ワーキングメモリの練習にはとても良いと感じます。
要約の練習と同様に、読書においても本人の興味関心を入り口として、内容を覚えること以上に、楽しんで読めること、探求心を大切にした読書選びが大切だと考えます。
文章を書く練習
読みがある程度可能になった場合、次の、文章を書く練習がワーキングメモリを鍛える上で効果的だと考えます。
もちろん、書字に難があれが、タイピングなどの活用も良いと思います。
重要な点は、アウトプットの量を増やすことです。ある程度のアウトプット量が増えてくると、文章の構成や言葉を選ぶ力が鍛錬され、その結果、思考しながら書くといった行為が可能になっていくと考えます。
考えながら書く、頭の中で書きたい情報を記憶にとどめ・操作するといった意味で、これもまさにワーキングメモリのトレーニングだと考えます。
会話
会話もワーキングメモリを多く活用しています。もちろん、会話の場面・内容によってもワーキングメモリにかかる負荷は変化します。
会話においては、相手の話を聞き(情報を一時的に保持)ながら、自分が話す内容を整理(思考)する必要があるため、ワーキングメモリの良い練習になると考えます。
仕事や勉強における説明内容など、一時的に情報を保持する必要がある場合には、メモの活用など、補助ツールが大切になります。
以上の「ワーキングメモリへの支援の工夫」の内容はこちらの記事を参照しています。
関連記事:「ワーキングメモリを鍛えるためには【発達障害児支援の現場から考える】」
関連記事:「大人のワーキングメモリを鍛えるための実践方法について振り返る」
まとめ
ワーキングメモリ(working memory)とは、情報を記憶し、処理する能力のことを指します。脳のメモ帳とも言われています。
ワーキングメモリとは、記憶と処理の両方の働きがあり、視覚情報の記憶・処理の働きを担う「視空間性ワーキングメモリ」と音声情報の記憶・処理の働きを担う「言語性ワーキングメモリ」があります。
ワーキングメモリと実行機能には密接な関係があり、ワーキングメモリは実行機能の「抑制」「シフト」「更新」の3つの構成要素のうち、「更新」の機能に該当しています。
読み・書き・算数といった学習において、学習のピラミッドの図が参考になり、この図から、学習の潜在能力を測る上で、IQ以上にワーキングメモリが最も根底にあると考えられています。
様々な発達障害(ASD・ADHD・LD・DCDなど)において、ワーキングメモリにもそれぞれ特徴的な状態が傾向としてあると言われています。そのため、それぞれのワーキングメモリの特徴を踏まえた上での配慮・支援の検討が必要になります。
ワーキングメモリの練習方法には、「暗唱訓練」、「要約する練習」、「シャドーイング」、「読書」、「文章を書く練習」、「会話」など、日々の生活の中で実施できるものもあり、本人の発達段階や興味関心を踏まえた練習の工夫が大切だと考えます。
参考書籍紹介
今回の記事内容をさらに深める上でお勧めする書籍紹介記事を以下に載せます。
実行機能を含め発達障害領域を網羅的に学びたいと考えている人には次の書籍紹介記事がお勧めです:関連記事:「臨床発達心理士が厳選:発達障害を理解するための体系的読書ガイド【完全版】」。
ワーキングメモリの理解に関するお勧め書籍紹介はこちらで紹介しています:関連記事:「【臨床発達心理士が厳選】ワーキングメモリに関するおすすめ本:初級~中級者向け」。
実行機能の理解に関するお勧め書籍紹介はこちらで紹介しています:関連記事:「【臨床発達心理士が厳選】実行機能に関するおすすめ本:初級~中級者向け」。

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