ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)は、日常の行動レベルでは似て見えることが少なくありません。
例えば、忘れ物の多さやミスの多さ、衝動的行動、対人関係のつまずきなどは共通して見られるため、同じように捉えられてしまうこともあります。一方で、その背景にある認知や情報処理のあり方は大きく異なると考えられています。
本記事では、「忘れる」「ミスの多さ」「衝動的行動」「対人関係」の4つの視点から、似ているようで異なるASDとADHDの行動の背景を整理していきます。
※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。
今回参照する資料は、「岩波明(2017)発達障害.文春新書.」です。
【ASDとADHDは似ている?】忘れ・ミス・衝動・対人関係からみる“似て非なる”行動の背景
それでは、「忘れる」「ミスの多さ」「衝動的行動」「対人関係」の4つの視点から、似ているようで異なるASDとADHDの行動の背景を整理していきます。
何かを「忘れる」という行為について
忘れ物が多い、何かをすぐに忘れるといえば、ADHDに非常に多い特徴です。ADHDの特徴の不注意は、代表的な内容として忘れ物さがあります。そして、ADHDの不注意は成人期以降も特徴が残る人が多いとされています。
それでは、ASDには忘れ物や何かを忘れるといった特徴はあるのでしょうか?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
ADHDでは、不注意によって、会社の日報の提出を忘れることがよくある。一方、ASDにおいても同様のことが見られるが、これは、日報を出すという行為は社会的に重要であるという認識が欠けているために生じる。つまりASDの人は、常識的には必要な場合においても、自分が重要だと考えないことについては無視しやすいのである。
著書の内容から、ASDにも忘れるという行為はよく見られると記載されています。しかし、ADHDとは背景要因が異なります。ADHDが不注意の特性から忘れるという行為が生じます。
一方、ASDは自分にとって重要性の高い部分が記憶に残りやすく、社会的な重要度などの理解が難しいことから、忘れるという行為に繋がることがあるということです。
著者の周囲にもこのような人が多く見受けられます。成人のASDの人は、自分の興味関心についての記憶力が非常に高く、また、機械的な記憶力、視覚映像の記憶が強いため、一見すると記憶全般が強いというイメージがあります。
しかし、業務のエラー(忘れてしまう)が多いこともよく見られます。その背景は、会社において、業務の優先は何かといった判断が難しく、その結果、お願いしていた業務を忘れてしまうことが生じていることがよくあります。
つまり、その人にとっての重要な業務と周囲が求める業務の優先度(重要度)が異なるため、忘れてしまったという結果に繋がったということです。
このように、忘れるという行為一つとって見ても、ASDとADHDには類似の特徴があるも、背景要因が異なることが理解できます。
「ミスの多さ」について
ADHDの発達特性の一つでもある不注意により忘れるものが多くなったり、ミスやエラーが起こるのはよく知られている特徴の一つです。
このようなミスの多さは、ADHDの特徴は注意の配分が難しいことや、一つの箇所に注意を持続することが難しい(すぐに他の刺激に注意が向く)などの特徴があるからです。
それでは、ASDはどうでしょうか?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
ADHDにおいては、不注意症状の反映であるとともに、目の前の「刺激」を優先して本来のタスクをおろそかにした結果である。一方、ASDにおいては、その行動についての重要性や必要性を感じていない場合、ミスを繰り返しやすい。
著者の内容から、ADHDはもともと持っている不注意の特徴からミスが生じることがあります。
一方、ASDは、自分にとって業務内容などが重要ではない、必要ではないという認識の違い、理解の違いから生じるということです。これは、先ほどの忘れるという行為と行動の背景は同じと考えられます。
つまり、ASDの人にとって、社会的に望まれる行為の理解が難しいことからミスが生じる、あるいは、自分の興味関心などを優先するためにミスが生じるということです。
「衝動的行動」について
衝動性はADHDに代表的な特性の一つです。衝動性と言えば、例えば、思いついたら相手のことを気にせず、急に話に割って入ったり、自分が話したいことを一方的に話し続けることがあります。
こうした行為は、ASDにも見られる特徴かと思いますが、違いはあるのでしょうか?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
ADHDにおいては、このような行動は衝動性の表れであり、思いついた事を言わずにいられないことが原因である。一方、ASDでは、自分が自由勝手に話をしていいのかどうか、状況を認識していないことが多い。このため、相手や周囲の状況が目に入らず、一方的に自分の話を続けることになりやすい。
著書の内容から、ADHDの衝動性は、場面にもよるがASDにも見られるということです。しかし、背景要因は、ADHDはもともとの発達特性からくるのに対して、ASDは、場面や状況理解の難しさから生じるといった違いがあると言えます。
「対人関係」について
対人関係を円滑に行うためには、相手との「距離感」の認識がとても大切です。ASDは対人における「距離感」がもともと苦手だとされています。
そのたえ、急に距離を縮めたり、離れたりと適度な「距離感」を保つことが難しいとされています。
それでは、ADHDはどうでしょうか?ASDとの違いはあるのでしょうか?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
ADHDの人は、(略)安定した友人関係を継続することは難しい。というのは、彼らはきちんと道筋を立てて考えることをあまりせずに、衝動的に他人を傷つけるようなことを言いがちだからである。これに対して、ASDにおいては、社会的な距離感がわからずに、他人に必要以上になれなれしく接することが起こる。これは、相手に対する配慮の不足が原因である。
著者の内容から、ASDにおいては、もともと持っている発達特性から対人関係といった距離感の理解が難しいとされています。
一方、ADHDは特性からくる衝動性が影響して(一方的な言動など)、他者との関係を結ぶことやその維持が難しいなど対人面でASD同様に困難さを抱えることがありますが、背景要因は異なるということです。
ADHDの衝動性は、デメリットとしては上記の内容がありますが、メリットとしては、新しい対人関係を築きやすい、話が面白いなどの特徴もあります。
以上、【ASDとADHDは似ている?】忘れ・ミス・衝動・対人関係からみる“似て非なる”行動の背景について見てきました。
こうして振り返ってみると、両者の違いを見分けることが難しい場面が様々な個所であるのだと思います。しかし、似てはいるものの背景要因は異なるという理解が大切だと思います。
私自身、ASDとADHDの理解をさらに深めていく中で、両者の特性の違いを理解していくことで、よい良い配慮や支援に繋げていきたいと思っています。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
似ている行動特徴を持つASDとADHDの違い見分ける上でポイントとなる点については以下の記事で紹介しています。
関連記事:「【ASDとADHDの違い】対人コミュニケーションとこだわりから理解する見分け方」
ASDとADHDには「過集中」が特徴してよく見られます。「過集中」に関する両者の違いについてはこちらで紹介しています:「【何かに没頭する行動とは?】ADHDの過集中についてASDとの違いも交えて考える」。
岩波明(2017)発達障害.文春新書.


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