感覚統合は、私たちが日常生活をスムーズに送るために欠かせない働きであり、発達障害児の感覚の問題を理解する上でも重要な視点です。
著者は療育現場で発達障害児・者が見せる様々な行動に対して、感覚統合の理論から多くの支援のヒントを得ることができました。
本記事では、感覚統合とは何かという基礎から、その目的や意味を整理し、実際の支援にどのようにつながるのかを分かりやすく解説します。
※本記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有し、発達障害に関連する大量の書籍を読んできた筆者が執筆しています。
【感覚統合とは何か?】発達障害児の感覚の問題を理解するための基礎と支援の全体マップ
本記事では、発達障害児の感覚の問題を理解する上で「感覚統合(理論)」を踏まえた理解の基礎と支援に関して、以下の8つの章に分けて解説していきます。
1.感覚統合とは何か?
2.触覚について
3.固有覚(固有感覚)について
4.前庭感覚(平衡感覚)について
5.ボディイメージと運動企画について
6.感覚支援のポイント
7.まとめ
8.参考書籍紹介
感覚統合とは何か?
ここでは、「感覚統合とは何か?」と「感覚統合の目的」について見ていきます。
感覚統合とは何か?
「感覚統合」は、アメリカの作業療法士エアーズ(Anna Jean Ayres,1923~1988)という人が考えた理論で、「脳に入ってくる様々な感覚情報を目的に応じて整理し、秩序だったものに構成すること」とされています。
もう少し別の表現を使うと、感覚統合(療法)では、全ての発達の基盤を「感覚」から捉え、感覚の躓き・偏りに対して、発達を促す(統合する)アプローチを取っていくことで、感覚・動作の改善・発達を促進するものだと考えられています。
感覚統合では、様々な感覚(視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚・固有感覚・前庭感覚など)が徐々に発達・連動していくことで、身体イメージ(ボディイメージ)が統合されていき、そして、識別機能の発達(原始系<識別系、ラテラリティの発達など)や抽象思考(自尊心・想像力など)といったより上位の発達に繋がっていくと考えられています。
発達障害児・者の中には、感覚が未発達であったり、うまく統合されていないことがよくあります。そのため、発達障害を別名「感覚調整障害」と表現されることもあります。
感覚統合の目的
感覚統合(療法)の目的は、自分の力を理解していくこと、そして、自立した力を育てていくためだと言えます。
例えば、ジャングルジムの頂上に登りたいことへの憧れをもった子どもがいたとしましょう。一方で、この子どもには感覚の問題があり、ジャングルジムを登る上で様々な課題が見られています。
このケースに対して、ジャングルジムに登る上で必要な感覚とは何か?どの感覚や統合で躓いているのか?といった理解を前提として、その上でどのようなアプローチ(感覚統合療法)を活用していけば、この子どもの目標を達成できるのかを考えていくことが必要になります。
感覚統合(療法)のアプローチを取ってくことで、目標が達成される過程において、自己の身体感覚に対する多くの気づきを得ることができ、そして、自立への道を少しずつ歩むことができます。
以上の「感覚統合とは何か?」と「感覚統合の目的」の内容は以下の記事を参照しています。
関連記事:「【感覚統合の基礎】キーワードで整理し、療育経験から理解を深める」
関連記事:「【発達障害を理解する視点】〝感覚調整障害″をキーワードに考える」
関連記事:「【感覚統合とは何か?】目的から理解する基本と支援の考え方」
触覚について
ここでは、様々な感覚のうち「触覚」について見ていきます。内容としては、「触覚の発達の重要性」と「原始系と識別系」に分けて見ていきます。
触覚の発達の重要性
触覚の発達の重要性とは、触れるものが増える=安心できる場所が増える→世界の拡張に繋がっていき、そして、触れる人が増える=安心できる人が増える→安全基地の増加に繋がっていくといった意味があります。
一方で、感覚に問題(触覚過敏など)があると、触れる経験が少なくなり、世界の広がりの妨げになることがあります。また、触れる人が少ない(スキンシップがうまくとれないなど)と、安全基地がうまく確立できないといったことにも繋がっていきます。
スキンシップの重要性についてはこちらで紹介しています:関連記事:「療育におけるスキンシップの重要性」。
それだけ、世界の拡張・安全基地の増加において、触覚という生の感覚体験が持つ働きは重要だと言えます。
原始系と識別系
触覚の発達を理解する上でも「原始系(原始感覚)」と「識別系(識別感覚)」の理解は大切です。
「原始系」とは、本能的な情報を司っている皮膚感覚の働きを指し、例えば、熱いお湯やチクチクした痛みを感じる物に触れた際に、思わず手を引っ込める働きがあります。
「識別系」とは、触れた物の「素材」や「かたち」「大きさ」を「触り分け」たり、自分の体のどの「位置」に触れているかなどを感知するときに用いられている触感の働きを指します。
識別系は原始系が発達することで、徐々に外界の世界を判断することで育ってくる感覚(様々なものや人に触れる経験を通して)であり、、視覚・聴覚・味覚・嗅覚が該当すると言われています。一方で、原始系は、固有感覚・前庭感覚・触覚が該当しています。触覚に関しては、識別系と原始系の両方を担っています。
原始系は識別系が発達しても残る部分がある一方で(原始系<識別系)、原始系の触覚機能が過剰に反応してしまうこともあります。これを「触覚防衛反応」と言います。詳しくはこちらで紹介しています:関連記事:「感覚統合で大切な触覚防衛反応について【療育経験を通して考える】」。
以上の「触覚について」の内容は以下の記事を参照しています。
関連記事:「【なぜ触覚の発達は大切なのか?】療育経験を通して考える」
関連記事:「感覚統合で大切な原始系と識別系について【触覚の発達について考える】」
関連記事:「【識別感覚と原始感覚について】発達障害児支援の現場を通して考える」
固有覚(固有感覚)について
ここでは、「固有覚(固有感覚)とは何か?」と「固有感覚の種類」について見ていきます。
固有覚(固有感覚)とは何か?
「固有覚」とは、別名「深部感覚」とも言われ、関節の角度から感じ取ることのできる感覚と筋肉の伸縮(伸縮速度)から感じ取ることのできる感覚を指します。
例えば、目を閉じて手を開いた上に本を置いてもらったとしましょう。その上に少しずつ本を足していくと目を閉じていても重りが増えたことが分かります。これは重りが増えてことで、関節の角度や筋肉の収縮に影響が出ることで、そこから感じる感覚の変化、つまり、固有覚が機能しているからこそ感知できる働きだと言えます。
その他、階段の上り下りや荷物の持ち運びなどにおいて、固有覚が無意識的に機能しているからこそ自然と歩く速さ・力加減などを調整することができると言えます。
一方で、固有覚に問題があると、力加減の調節がうまくできずに物を乱暴に扱ったり、体の動きにぎこちなさが生じることがあります。
固有覚の問題としては、「過敏性」と「低反応」と言った特徴があると言われています。詳しくはこちらで紹介しています:関連記事:「【固有感覚の過敏性と低反応の特徴について】療育経験を通して考える」。
固有感覚の種類
固有感覚には4つの種類があると言われています。
「重量感覚」とは、荷物など物を持った時に重さを意識する感覚を指します。
「運動感覚」とは、走る(歩く)時の加速度や方向を意識する感覚を指します。
「位置感覚」とは、身体の関節や筋肉の位置を意識する感覚を指します。
「抵抗感覚」とは、押したり、押されたりする時に意識する感覚を指します。
固有感覚の4つの種類を見ても分かるように、私たちはこうした感覚をほぼ無意識的に自然と行っていると言えます。そのため、感覚の問題を抱える子どもと関わる際には、固有感覚といった原始系の理解を深めることが大切だと感じます。
以上の「固有覚(固有感覚)について」の内容は以下の記事を参照しています。
関連記事:「感覚統合で大切な固有覚とは【療育経験を通して考える】」
関連記事:「【固有感覚について】発達障害児支援を通して考える」
関連記事:「【固有感覚にはどのような種類があるのか?】4つの種類を通して考える」
前庭感覚(平衡感覚)について
「前庭感覚(平衡感覚)」とは、文字通りバランスを取るための感覚を指します。
例えば、椅子に登って物を取ろうとする、足場の悪い山道を歩くといった動的なバランスから、椅子に座って作業をやり続けるといった静的なバランスまで、体幹機能と連携しながら私たちは日々無意識的にバランスを取って生活しています。
前庭感覚の不足は「多動」とも関連してくると言われています。簡単に言えば、不足した感覚刺激を自ら様々な行動で補うことで多動に繋がることがあります。こうした行動を「自己刺激行動」と呼びます。
先に紹介した固有感覚と前庭感覚の不足は様々な「自己刺激行動」に繋がってきます。詳しくはこちらで紹介しています:関連記事:「【自己刺激行動とは何か?】固有感覚と前庭感覚をキーワードに考える」
「自己刺激行動」は、関わる人によっては行為を止めようとすることがありますが、重要な点は「なぜこうした行為をするのか?」といった背景の理解です。こうした理解を深める上でも、感覚統合の知識は非常に役立つと考えます。
また、「前庭感覚」の育ちは、右利き・左利きといった「ラテラリティ」の発達に影響していきます。詳しくはこちらで紹介しています:関連記事:「感覚統合で大切な「ラテラリティ」とは【「ラテラリティ」の意味・発達時期・発達要因について考える】」。
以上の「前庭感覚(平衡感覚)について」の内容は以下の記事を参照しています。
関連記事:「感覚統合で大切な前庭感覚(平衡感覚)について【療育経験を通して考える】」
関連記事:「【前庭感覚について】体幹機能との連動を通して考える」
ボディイメージと運動企画について
「ボディイメージ」とは、「生理的・身体的な自己像」を指し、ボディイメージは様々な感覚(触覚・固有覚、前庭感覚)を統合していく過程において発達していくと考えられています。
例えば、ジャングルジム遊びでは、鉄の棒を掴む(触覚)、登る(固有覚)、バランスの維持(前庭感覚)といったボディイメージに必要な感覚が含まれています。こうした遊び(活動)を通して子どもは自らのボディイメージを発達させていきます。
「運動企画」とは、簡単に言えば、身体の動かし方を計画する力を指し、ボディイメージと強い関連があります。
例えば、アスレティック系の遊びでゴールに向かおうとした際に、運動企画により、ゴールに向けて一つひとつのコースをどのように攻略していけば良いかを計画していきます。例えば、動きの範囲、力加減やスピード、タイミング、手順などがあります。
この際に、ボディイメージがうまく機能することで、計画通りに一つひとつのコースをクリアすることに繋げていくことができます。
運転で例えると、ボディイメージが車体感覚、運動企画が車を目的地まで運転すること(運転技術を含め)だと言われています。
ボディイメージがうまく育っていないと、物の使用や全身運動において「不器用」さが見られたり、身体イメージを多く使用する活動を回避するなど生活に支障が出てきます。
そのため、これまで見てきた「触覚」「固有覚」「前庭感覚」への理解と統合の視点、つまり、感覚統合の知識を深めて実践していくことが大切だと考えます。
以上の「ボディイメージと運動企画について」の内容は以下の記事を参照しています。
関連記事:「感覚統合で大切なボディイメージについて【療育経験を通して考える】」
関連記事:「感覚統合で大切な運動企画について【ボディイメージとの関連から考える】」
感覚支援のポイント
ここでは、著者の経験を踏まえて、「触覚の支援のポイント」「固有覚の支援のポイント」「前庭感覚の支援のポイント」について、身近でできる感覚支援のポイントについて見ていきます。
触覚の支援のポイント
「触覚の支援のポイント」として、原始系<識別系を優位にしていくことを意識した関わりが必要になります。
例えば、公園遊びで代表的な「砂遊び」は、「識別系」の機能の活性化と、「手の器用な動き」を引き出すことが有効だと考えられています。
その他、著者は療育現場で、粘土、小麦粉粘土、スライム、片栗粉、水、泥、絵の具、など様々な感触遊びをしてきました。子どもたちによって、好きな感覚が異なるため、好きな感覚や遊び方の工夫が大切だと感じます。
また、直接手で触れることが難しい子どもには、道具を使用したり、手袋の使用などの工夫もありだと感じます。もちろん、無理に触らせることはしないようにしていました。中かには、「触覚防衛反応」が見られる子どももいるため慎重な関わりが必要だと考えます。
固有覚の支援のポイント
「固有覚の支援のポイント」として、力加減の要素を取り入れた活動の工夫が必要になります。
著者はかつて療育施設に勤めていたことがありましたが、巧技台を活用したアスレチック遊びはとても効果があると感じていました。それは、巧技台の段差や向きを変えることで、難易度を容易に変えることができるため、子ども発達段階に合わせた支援が可能になるからです。
その他、ジャングルジムや鉄棒、綱引き、相撲ごっこといった、握る・つかまる、引っ張る、押す系の遊びは、子どもが楽しんでできる要素が多いためとても有効だと感じます。
綱引きや相撲ごっこは支援者が力加減を調節することで楽しさにも工夫の幅が広がる余地が大いにあると感じます。
また、固有覚や次に見る前庭感覚が不足すると、「自己刺激行動」が生じるケースもあります。この場合、「自己刺激グッズ」といった例えば、プッシュポップやハンドスピナー、バランスボールやハンモックなどの活用も有効だと感じます。
前庭感覚の支援のポイント
「前庭感覚の支援のポイント」として、バランス感覚を育てていく上で体全身を使った活動が有効です。
バランス系の遊びでは、ブランコ、トランポリン、滑り台、ジャングルジムなど様々なあります。
こうした全身運動が比較的必要となる遊びでは、「平衡感覚」が活性化され、それによって、「姿勢調節」機能や「目を動かす」機能の育ちに貢献し、また、「自己刺激行動」の改善にも効果があると考えられています。
遊びの内容(遊具の種類の違い)によって、例えば、上下の揺れ、左右の揺れ、前後の揺れなど異なるバランス感覚が必要となる遊びの発展の面白さもあると感じます。
また、こうした遊びは、「前庭感覚」だけではなく、先に見た「触覚」や「固有覚」などその他、様々な感覚機能の発達にも貢献していきます。
そして、「ボディイメージ」や「運動企画」のように、様々な感覚が統合されていくことで、より難易度の高い感覚・運動の発達に繋がっていきます。
以上の「感覚支援のポイント」の内容は以下の記事を参照しています。
関連記事:「【発達障害児の感覚支援】公園遊びでできるアプローチ―遊具別の効果を解説―」
関連記事:「【前庭感覚への支援方法:遊具の活用例】療育経験を通して考える」
関連記事:「【発達障害児支援で大切な感覚支援】自己刺激行動と感覚過敏を例に考える」
まとめ
感覚統合とは、「脳に入ってくる様々な感覚情報を目的に応じて整理し、秩序だったものに構成すること」だと考えられています。
感覚統合の目的として、「自分の力を理解していくこと、そして、自立した力を育てていくため」にあります。
感覚統合を理解する上では、人間の発達の基盤となる原始系の感覚(触覚・固有覚・前庭感覚)の理解を深めることが大切です。
そして、感覚統合療法では、人間の原始系の感覚の問題の特徴と支援の在り方について学ぶことができ、以上を踏まえた上で、より高次な感覚の統合へと人を育てていくアプローチのヒントを学ぶことができます。
参考書籍紹介
今回の記事内容をさらに深める上でお勧めする書籍紹介記事を以下に載せます。
感覚統合を含め発達障害領域を網羅的に学びたいと考えている人には次の書籍紹介記事がお勧めです:関連記事:「臨床発達心理士が厳選:発達障害を理解するための体系的読書ガイド【完全版】」。
感覚統合・感覚の問題の理解に関するお勧め書籍紹介はこちらで紹介しています:「【臨床発達心理士が厳選】感覚統合に関するおすすめ本:初級~中級者向け」。
自閉症には様々な感覚の問題が見られます。自閉症の理解に関するお勧め書籍紹介はこちらで紹介しています:「【臨床発達心理士が厳選】自閉症に関するおすすめ本:初級~中級者向け」。
自閉症児の感覚の問題の理解と支援に関するまとめ記事はこちらで紹介しています:関連記事:「【自閉症児の感覚の問題と支援】特徴・原因・アセスメントから実践まで療育現場から解説」。
本記事では取り上げていない内容も豊富に紹介しているため、感覚の問題に関する理解と支援に関する知識をさらに深めたい人には、ぜひ読んで頂ければと思います。

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