療育現場で発語が見られるようになってきた子、あるいは発語のようにも思える言葉を発したケースなどこれまで多くの事例を見てきましたが、そのような子どもたちの発達を説明することは容易ではないと感じます。
太田ステージはこうした子どもたちの発達について段階を踏んで理解できるように構成されています。
今回は、言葉の理解が進む時期に焦点を当てて、そうした段階によく見られる認知の発達として、太田ステージからの説明と私の療育現場での体験などをお伝えしていこうと思います。
今回参照する資料は「立松英子(2009)発達支援と教材教具 子どもに学ぶ学習の系統性.ジアース教育新社.」です。
「言葉の理解が進む時期」について:太田ステージから
太田ステージでは発達の節目を、StageⅠ~StageⅣに分類しています。
発達初期の感覚運動期(StageⅠ)は「手段と目的の分化」の時期のことを指します(感覚運動期については、「感覚運動期について太田ステージから考える」に記載しています
)。
次に来るのが「シンボル機能の芽生え」の時期であり、太田ステージではStageⅡに該当します。シンボル機能とは、目の前に存在しないものを思い浮かべたり、相手の気持ちを理解するような働きのことです(太田ステージについては、「太田ステージから障害児の発達を考える」に記載しています
)。
この時期はピアジェ理論でいう感覚運動期の後半に当たります。定型発達児だと18~24ヶ月に相当します。。
それ以前の子どもたちのコミュニケーション手段は、泣く、手差し、手引きなどが多く見られますが、StageⅡでは、子どもたちは盛んに指さしや身振りを使って、自分の発見を他者と共有するようになります。そして、日常生活で使う物の名称も分かってきます。
この何かを共有する指差しは叙述の指さしと言われており、物には名前があるということを発見したという指標になります。一方、何かがしたい、欲しいなどの要求の指さしもあります。これらは、感覚運動期から見られる行動ですが、StageⅡではよりこうした行動が顕著になります。
このようにStageⅡでは、子どもは他者と指差しや身振りを通じて物の名称などを共有していきます。そして、定型発達児においては、すぐに通過してしまうと言われています。
著者の体験談
私がいた療育施設の子どもたちも、この段階になると指さしや身振りを使って“先生教えて”、“読んで”といように聞いてくる子も多くいました。
例えば、以前は絵本のイラストを何となく見ていた子が、大人が読み聞かせを繰り返しすることで、絵本に描いてある食べ物やキャラクターなどを指さして、私の顔を見ながらたずねてくる様子が増えました。
そうした行為に対して、私がこたえると(物の名称などを言う)、次からつぎへと指さしをしてきて質問のレパートリーがどんどん増えてきたケースもあります。そして、こうしたやり取りを継続していくことで、話せる言葉も増えていきました。言葉は他者と何かを共有することで獲得するのだと身をもって学ぶことができました。
ただ、すべての子がこうした経過を辿るわけではなく、例えば、発声器官などの発達も影響してくるため、そうした部分の成熟も言葉を話すためには必要になりますので他の視点も大切です。
子どもたちが指差しなどを通して興味関心の幅を広げる様子は現場にいて活きいきと感じることができます。遊びの内容も徐々に変わっていきます。また、簡単な声掛けであれば理解も可能になります。
言葉の世界が広がると世界は大きく変わると思います。そういった意味で、物には名前があるという発見はとても大切であり、それ以前の、感覚と運動の世界の認識を拡張させることが関わりとして非常に重要だと思います。
今後も理論や知識を現場に取り込みながら、子どもたちの発達を深く理解していきたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
立松英子(2009)発達支援と教材教具 子どもに学ぶ学習の系統性.ジアース教育新社.