自閉症の人たちの中には、感覚過敏や鈍感さといった感覚の問題が多くみられます。
例えば、大きな物音が苦手、ツルツル・ベタベタなどの特定の触感が苦手、○○の食材は味覚としては苦手などがあります。
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もちろん、感覚の苦手さは誰にとってもあるかと思います。
一方で、自閉症の人たちの感覚の問題は生活に困難さが生じるレベルとなることもあります。
感覚の問題にも、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚、前庭感覚、固有覚など様々なものがあります。
それでは、自閉症の感覚過敏でよく見られる、触覚・味覚・嗅覚過敏にはどのような特徴があるのでしょうか?
そこで、今回は、自閉症の触覚・味覚・嗅覚過敏について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「熊谷高幸(2017)自閉症と感覚過敏 特有な世界はなぜ生まれ、どう支援すべきか?.新曜社.」です。
自閉症の触覚・味覚・嗅覚過敏について
著書の中には、自閉症の触覚・味覚・嗅覚についてのアンケート調査結果が記載されています。
以下、引用しながら見ていきます。
人に触られるのを嫌がる
服の感触などを気にする
水、砂、泥などに触れるのを嫌がる
好きな感触(水など)を求めて遊ぶ
食べ物の好き嫌いが多い
物のにおいをさかんに嗅ぐ
著書のアンケート結果を見ると、自閉症の人たちには、触覚・味覚・嗅覚まで様々な感覚過敏の問題が見られます。
それでは、上記のアンケート結果内容についてそれぞれ説明していきます。
「人に触られるのを嫌がる」は、自閉症の人たちに非常によく見られるものです。皮膚と皮膚の接触に回避的になることは、その後、親子間でのスキンシップの低下や愛着形成にまで影響していきます。また、こうした背景には、肌感覚の過敏さだけではなく、人という存在における独特な認知をしていることも関連しています。
「水、砂、泥などに触れるのを嫌がる」と「好きな感触(水など)を求めて遊ぶ」の二つは、自閉症の人たちによく見られるます。両者は相反する内容ですが、自閉症の人たちには、特定の感覚への過敏さがあると同時に、一度、特定の感覚を受け入れたり、慣れてくると没頭して遊ぶといった特徴もまたあります。
「食べ物の好き嫌いが多い」は、味覚や感触、嗅覚なども過敏さが相まって、偏食が見られる自閉症の人たちは多くいます。これも、前述した触覚過敏同様に、一度、その感覚を受けいれると、その後は、食べ物の好き嫌いの内容が変化していくことがあります。
「物のにおいをさかんに嗅ぐ」は、自閉症の人たちによく見られるもので、嗅覚過敏とも言われています。人が気にしないようなにおいに敏感になったり、様々な物のにおいを嗅いだり・嗅ぎ分けるのもまた特徴としてあります。
それでは次に、著者の療育経験から自閉症の触覚・味覚・嗅覚過敏についてお伝えしていきます。
著者の経験談
著者のこれまでの療育経験から自閉症の人たちには非常に多くの触覚・味覚・嗅覚過敏が見られます。
特に、未就学児は愛着形成などスキンシップを通した関わりが大切になりますが、肌の接触に過敏(触覚過敏)な子はこうした関わりが難しいのもまた特徴としてあります。
そのため、こうした触覚過敏さがあるという背景を認識しながら、少しずつ時間をかけてスキンシップを取っていけると良いかと思います。
実際に著者も、以前は皮膚接触に回避的だった子どもが、年単位で抱っこなどスキンシップを多くとれるようになり情緒が安定し、大人との信頼関係ができてきたケースもあります。
触覚過敏でよく見られるものに、水や砂、泥など特定の感覚への回避や逆に没頭する行動もよく見られます。
感覚過敏を理解した関わりで大切なことは、子どもたちの一人ひとりの好む感覚と苦手な感覚を理解し、苦手な感覚は無理に慣れさせようとしないことです。
著者が以前見ていた子どもの中には、粘土という特定の感覚が苦手な子がいました。しかし、道具を使って少しずつ楽しく遊ぶ中で、触れるようになってきました。最終的には、手を使ってダイナミックに粘土をこねるまでになっていきました。
偏食(味覚過敏など)もまた自閉症の人たちにはよく見られるものです。著者が以前いた職場の園でも給食の時間になると、好き嫌いが顕著に分かれる子が多く、なかなか食が進まない、食べるものが非常に限定されている子もいました。
しかし、時間をかけて受けいれられる食べ物を増やしていき、食べられるレパートリーが増えていった子も多くいます。
触覚過敏同様に、無理に強制することはNGとして、少しずつ受け入れられるような関わり・工夫が大切だと思います。
嗅覚過敏もまた自閉症の人たちにはよく見られます。においに過敏で、部屋のにおい、人のにおいなどの変化に直ぐに気がつき、中には、そのにおいの影響で体調や情緒に影響が出る子もいます。
こうした、様々な感覚過敏の子どもたちとの関わりを通して大切なことは、無理にその感覚に慣れさせようとせず、少しつずつ苦手な感覚を受け入れられるような工夫をしていくことだと感じます。
そして、その前提として、これまで述べてきた様々な感覚の問題を理解していくことが重要だと思います。
以上、自閉症の触覚・味覚・嗅覚過敏について【療育経験を通して考える】について見てきました。
感覚の問題は非常に奥が深いものだとこの記事を書いていて思います。
私たちは、自分の感覚を頼りにして様々な情報を取り込んでいます。
こうした自分の感覚が他の人の感覚と大きな隔たりがあるという認識が、特に感覚過敏のある人たちとの関わりでは大切です。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場を中心に、感覚への問題の理解と支援方法についても考案・実践をしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
熊谷高幸(2017)自閉症と感覚過敏 特有な世界はなぜ生まれ、どう支援すべきか?.新曜社.