全般的な発達の遅れや、特定の学習の領域に困難さを抱える人たちが多くいると言われています。
また、顕著な遅れはないが、少しの発達の遅れや違いが大きな困難さに繋がるケースもあります。
これらの人たちの中には、知的障害や境界知能、そして、学習障害の人たちが多くいることが分かってきています。
それでは、学習を中心に、様々な社会生活に困難さを及ぼすこれらの障害には、どのような違いがあるのでしょうか?
そこで、今回は、知的障害・境界知能・学習障害への理解と対応の違いについて理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「本田秀夫(2022)学校の中の発達障害:「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち.SB新書.」です。
知的障害・境界知能・学習障害への理解の違いについて
知的障害とは
知的障害とは、全般的な発達の遅れに加え、社会環境への不適応状態も合わせて見られる人たちのことを言います。
知能指数で言うと、IQが70を下回ることが一つの指標とされています。
最近では、IQ指標より社会生活への適応度からの判断・評価を重視する傾向が強くなっています。
関連記事:「知的障害と発達障害の違いについて」
境界知能とは
境界知能とは、IQが平均100なのに対して、IQ71~85の人たちが該当します。
最近でいうと、「ケーキの切れない非行少年たち」等の著書で社会的な認知が高まりました。
境界知能というと、一見すると、“分かっていそう”、“理解してそう”、“やっていけそう”、といった曖昧さがあるため、曖昧さゆえの困難さが逆に周囲からみてのわかりにくさに繋がることが多くあります。
関連記事:「【境界知能とは何か?】知的障害との違いと著者の経験を通して考える」
学習障害とは
学習障害とは、全般的な発達の遅れ(知的な遅れ)はないが、読み書き計算など、特定の領域に困難さがある人たちのことを言います。
知能障害との大きな違いは、“全般的な知能指数に遅れはない”、そして、“特定の領域に困難さが見られる”の二つが抑えるべき点になります。
学習障害の中でも特に有名なのが、読み書き障害といったディスレクシアの人たちです。
読みが苦手であると必ずといってもいいほど書きにも障害が見られます。
最近では自閉症やADHDに遅れながらも、研究が進んでいるのが現状です。
関連記事:「学習障害とは何か?その定義について考える」
関連記事:「ディスレクシアとは何か?:読み書きに困難のある人たちについて考える」
知的障害・境界知能・学習障害への対応の違いについて
知的障害への対応
以下、著書を引用します。
知的障害の子には、平均的な教え方をするのではなく、よりわかりやすい指導を心がける必要があります。
著書の内容から、知的障害への対応としては、その子に合った指導です。
さらに、知的障害のある子どもは、抽象的な理解を苦手としています。
なので、学校の勉強が高度になると理解が難しい面が多く出てきます。
できるだけ、生活経験からの学びを重視した方が理解が進みます。
生活経験(体験を重視した)の繰り返しにより、体で学んだことは応用が利きますし、知的障害のある子どもは繰り返しを得意としている子も多いため、決まったパターンで繰り返すことでの定着が重要です。
境界知能への対応
以下、著書を引用します。
知的障害ほど遅れが目立たないとはいえ、学校の勉強が難しい状況が続くことで登校意欲が下がることや自信が低下することが珍しくありません。知的障害に準じたわかりやすい指導が必要です。
著書の内容から、境界知能への対応も、知的障害と同様にわかりやすい指導、つまり、その子にあった指導が必要です。
その子に合った指導とは、平均的・標準的な指導よりも個別指導を重視する(あるいはうまく組み合わせる)といったものです。
境界知能への難しい面は、一見するとできると思われてしまうこと、本人もその状態に気づくことは難しいため、そうした理解のされにくさや周囲との合わなさが長期化することで、本人の学習への意欲や自信の低下に繋がってしまうことです。
どの障害もそうですが、できるだけ早期にその子の合わせた環境を整えていくことが大切です。
学習障害への対応
以下、著書を引用します。
学習障害の子の場合にも、全体的にわかりやすく指導することは大切ですが、読み書きや計算の特性を理解してサポートすることが、より重要になります。
著書の内容から、学習障害に対しては、特定の苦手な領域に対する指導です。
読み書き計算は、学年が上がるにつれて難しくなります。また、文章理解も抽象度が上がり、応用度も増していきます。
低学年時には、それほど遅れが目立たなくても、高学年になると顕著な遅れを示すこともあります。
そのため、読みに対しては、音声読み上げソフトを使用する、電子機器によって漢字にルビをふる、文章の概要を最初に説明するなどの配慮が必要です。
書きに関しては、タイピングを使用するなど代替ツールを使用することも重要です。
宿題の分量を減らしたり、周囲から“ずるい”と思われないような合理的配慮も行っていく必要があります。
そして、学習が積み重ならないことによる、意欲の低下を早期に防ぐという視点も重要です。
以上、知的障害・境界知能・学習障害への理解と対応の違いについて見てきました。
特別支援教育が進む中、様々な障害への理解と対応も進んでいると感じます。
一方で、日本の学習は周囲に合わせるといった標準化が強いことも特徴としてあります。
今後、様々な障害に対する学習方法や学習環境の違いを作っていきながら、多様な学びが当たり前になる社会に期待したいと思います。
私自身、療育現場に関わるものとして、子どもたち一人ひとりに応じた個別の理解や対応方法について、実践からの学びを深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
本田秀夫(2022)学校の中の発達障害:「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち.SB新書.