著者は、現在、放課後等デイサービスで療育に携わっています。
療育現場には、発達障害といった知的障害やASD、ADHDなど発達に躓きのある多くの子どもたちが来ています。
放課後等デイサービスは、学校や年齢の違う子どもたちが関わる場としても機能しており、放課後の居場所としての役割(ゆっくり過ごしたい・レイスパイトなど)や、集団活動を通して、他児と関わる機会を多く持つことができます。
著者は、長年の放課後等デイサービスでの経験を通して、発達障害への支援を考え際に、コミュニティ支援・ネスティングの視点がとても大切だと実感しています。
そこで、今回は、著者の放課後等デイサービスでの療育経験を交えながら、発達障害への支援について、コミュニティ支援及びネスティングをキーワードにお伝えします。
今回、参照する資料は「本田秀夫(2013)子どもから大人への発達精神医学:自閉症スペクトラム・ADHD・知的障害の基礎と実践.金剛出版.」です。
コミュニティ支援・ネスティングとは何か?
コミュニティとは、地域社会あるいは共同体のことを言います。
そのため、コミュニティ支援とは、特定の地域社会の中で共同体として、活動できる場を提供することです。
それでは、ネスティングとは何でしょうか?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
発達障害の人たちは、自分の活動拠点となるコミュニティを独力で確保することがしばしば困難である。そこには、一人ひとりの人たちに対して、活動拠点となるサブ・コミュニティを計画的に配置し、コミュニティの中に入れ込んでいく、という臨床テーマが設定できる。この、活動拠点となるサブ・コミュニティを個別に配置するための評価~方針立案~実践の一連の作業を筆者は「ネスティング」と呼ぶことにした。
著書の内容から、コミュニティ支援が共同体としての活動場所の提供といった比較的広い概念であるのに対して、ネスティングは、サブ・コミュニティといったいくつかの活動拠点をコミュニティの中で本人に合わせて設置していくというイメージだと考えられます。
例えば、学校といったコミュニティの中では本人が好きなパソコンクラブといったサブ・コミュニティに所属する、放課後は地域の中の○○将棋クラブといったサブ・コミュニティに所属する、また、複数ある放課後等デイサービスの中でサッカーに特化した放課後等デイサービスといったサブ・コミュニティに所属するなど、本人の興味関心に応じた複数のサブ・コミュニティを組み合わせていくといったイメージが考えられます。
ネスティングは、入れ子構造といった意味合いがありますので、大きなコミュニティの中に様々なサブ・コミュニティが組み込まれているというイメージがあります。
それでは、次に著者が勤める放課後等デイサービスといった居場所の中で、ネスティングの視点から、大切だと考える発達障害への支援についてお伝えします。
発達障害への支援について-ネスティングの視点から-
繰り返しになりますが、著者は放課後等デイサービスで発達に躓きのある子どもたちを支援しています。
こうした子どもたちの中には、一人でゆっくりと放課後過ごしたい人もいれば、他児との関わりを非常に欲している子もいます。
後者についてはネスティングの視点はとても役立ちます。
つまり、他児との関わりを非常に求めている〇○君にあったサブ・コミュニティを放課後等デイサービスでどのように作っていくかが課題になるということです。
サブ・コミュニティは、その子にあった環境をいかに創造するかということがとても大切なため、やみくもに場所があり人がいれば良いというわけではありません。
以下、著書を引用します。
ネスティングの鍵となるのは、共通の認知発達と興味を介したサブ・コミュニティづくりである。(略)事前に個別の評価を行って認知発達と興味を詳細に把握し、これらにおいて共通項の多いメンバーからなる小集団を形成することによって、構成メンバー全員が十分な理解と興味をもって意欲的に参加できる集団活動のプログラムを遂行することが可能となる。すなわち、ネスティングによって、本人の発達水準や興味に応じた活動が集団の中でも保障しやすくなる。
著書の内容から、ネスティングで大切なことは、認知発達と興味の二軸をもとに集団を作っていくという視点です。こうした視点から、集団の中で興味を持って意欲的に行動することが可能になると考えられます。
また、著書の中では、ネスティングによって、行動障害の予防や自尊心の向上や社会参加の動機付けなどにも寄与すると述べています。
それでは、最後にネスティングをキーワードに、著者の療育現場から発達障害の支援についての経験談をお伝えします。
著者の経験談
著者が勤める放課後等デイサービスでは、ボール遊びや戦いごっこなど体を使って元気に遊ぶ子が多くおります。また、工作遊びも一人でじっくりやる子もいれば、他児の様子を見ながら一緒に作る子もいます。
このように、集団遊びを欲している子が多いといった現状があります。
我々スタッフは、こうした子どもたちのニーズに応えていけるように、一人ひとりの子どもたちの状態像の理解をとても大切にしています。
それは、前述した、認知発達と興味関心からの理解もあります。
他児と関わりたい思いが強い子をどのように繋げていけるかを考える際に、認知発達と興味関心がある程度共通している必要があると実感してます。
認知発達とは、理解の程度のことです。
例えば、同じ種類の遊びが合っても、ルールの内容などは変わってきます。こうしたルールを理解できる能力は認知発達の影響を大きく受けます。
興味関心が共通していることは言うまでもなく、人と人とを繋ぐ重要なものになります。
著者が見ている子どもたちが集団遊びでうまくやっていくには、認知発達と興味がある程度共通しているとうまくいくといった実感があります。
また、こうした集団遊びの中で、放課後の過ごしが安定したり、自分のエネルギーを発散できたり、他児との関わり方を学ぶなど多くの利点があると感じています。
療育で大切なことは、子どもたち一人ひとりが何を欲しているのか?どのような環境を設定すれば安心しかつ楽しく過ごすことができるのかを創造していくことだと思います。
その際に、ネスティングの視点はとても参考になります。
以下、再び著書を引用します。
本稿では自閉症スペクトラムを中心に述べたが、このアイディアは発達障害全般で有効であると思われる。
著書の内容から、ネスティングは、ASDの支援として有効であるが、それ以外の発達障害においても有効であることが考えられるということです。
著者の療育現場にもASD以外の発達障害のある子どもたちが多くおります。
あるいは、様々な障害が重複しているケースもありますが、こうした子どもたちは、興味関心を通して、うまく繋がる場合が多くあります。
さらに、認知発達がある程度共通しているとさらにうまく繋がることができるといった印象があります。
そのため、ネスティングの考え方は、発達障害全般においても有効であると思います。
関連記事:「療育の成果について-仲間関係を通して-」
関連記事:「療育の成果について-放課後の居場所の大切さについて-」
以上、発達障害の支援について、ネスティングの視点を中心に述べてきました。
私自身、まだまだ発達障害への支援の力量は不足していますが、今後も子どもたちが何を欲しており、それに対してどのような環境を作ることができるのかといった視点も大切にしていきながら、学びと実践を継続していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
本田秀夫(2013)子どもから大人への発達精神医学:自閉症スペクトラム・ADHD・知的障害の基礎と実践.金剛出版.