著者は、発達障害など発達に躓きのある子どもたちに療育(発達支援)をしています。
発達障害には、ASD、ADHD、SLD、DCD、IDなど様々なものが包含されています。
ASD(自閉スペクトラム症)には、AS(自閉スペクトラム)といった〝発達特性″が見られ(AS特性)、単発で見られることもあれば、AS特性×ADH特性といったように重複して見られるケースもあります。
一方で、子どもたちには当然ながら、それぞれ異なる〝心″が存在しています。
療育(発達支援)において、いかに子どもたちの〝心″を満たしていけるかが非常に重要だと著者は考えています。
それでは、目に見えない〝心″の存在を私たちはどのように理解しているのでしょうか?
そして、〝心″を深く理解していくためにはどのような視点が必要になるのでしょうか?
そこで、今回は、療育(発達支援)の専門性について、臨床発達心理士である著者の経験談を交えながら、子どもの心を理解する視点について理解を深めていきたいと思います。
心という現象面について
私たちは日々の生活の中で相手の〝心″を理解するためには、目に見える〝行動″を通して理解している所が強くあります。
例えば、喜怒哀楽といった様々な顔の表情、相手に話す時の言葉の内容、何か目的や意図をもって物事に取り組む様子、など様々あるかと思います。
一方で、身体・情動で感じることで相手の〝心″を理解する側面もまた強くあります。
例えば、何となく元気が無い様子を感じる、何となくイライラしている思いが伝わってくる、活き活きしている感じが伝わってくる、など身体・情動で感じる取るという理解の仕方です。
つまり、相手の〝行動″を推測することで〝心″を理解しているのか、身体・情動で〝感じる″ことで〝心″を理解しているのかに違いがあると言えます。
〝心″の存在は私たちの身体・情動で理解するところが大きく、療育(発達支援)の現場において、子どもたちを理解するために、〝感じる力″が非常に重要だと著者は考えています。
心という現象面を理解する視点
10人いれば10人の〝心″が存在しています。
療育(発達支援)の現場において〝心″の多様性を感じるだけではなく、言語化・客観化するなど深く理解していくためには、どのような視点が重要になるのでしょうか?
今回は、1.発達特性、2.発達的視点、の2つを取り上げて見ていきます。
1.発達特性
冒頭で見た〝発達特性″は、療育(発達支援)現場でおいて必要不可欠な知識です。
例えば、ASD(自閉スペクトラム症)のA君を例に見ていきましょう。
A君は時間への〝こだわり″がとても強い子どもです。
時間通りにスケジュールを進めていくことに強い〝こだわり″があるため、予定の遅れや変更に対してイライラしたり時には癇癪を起こすこともあります。
著者はA君と関わり出した当初は時間への〝こだわり″があることを理解はしていたものの、少しの遅れや変更は許容できるだろうと思っていました。
しかし、ある日、少しの遅れからA君のイライラが大爆発してしまいました。
傍にいた著者はまさかこれほどまでの事態になるとは想定していませんでしたが、A君が泣き叫ぶ様子からA君の〝心″の叫びを感じ取ることができました。
そして、〝AS特性″といった〝発達特性″があることも知識・経験として知っていたため、この時、A君の〝心″の背景を深く理解することができたように思えました。
これが仮に、〝AS特性″への理解が乏しければ、泣き叫んだ行動の理由がよく分からなかったかもしれません。
また、苦しそうなA君の様子を感じ取る力が乏しければ、A君の行動の理由を深く探求せずにいたのかもしれません。
このように、子どもの〝心″を感じること、そして、〝心″の理由(背景)を考える視点は、両輪となって関わり手の専門性の向上に寄与していくのだと思います。
また、定型発達児とは異なる理解の枠組みを持って理解・対応する必要性がこうした文脈において強く出てくるのだと思います。
2.発達的視点
〝発達的視点″とは、子どもの〝心″の状態を〝今″だけに起因せずに、過去からの積み重ねによって成り立っているといった時間軸及び環境軸の双方から理解する視点のことを言います。
ここでもまた例を取り上げて見ていきます。
衝動性の高いB君の例です。
B君は自分の感情を抑えることが難しく、些細な出来事で、相手に口を出したり、手を出すことの多い子どもです。
著者はこうした行動の理由として、ADH特性の衝動性が背景にあると考えていました。
しかし、B君の〝心″の状態はどこかいつも不安定であり、イライラ感が強いように感じられました。
つまり、衝動性だけでは説明がつかない何かを感じていました。
そこで、著者はB君の〝今″だけではなく、〝過去″にも目を向けることにしました。
B君の生育歴を見ると、過去の家庭環境からトラウマを抱えている可能性があることを知ることができました。
つまり、ADH特性以上に〝愛着″に問題を抱えていることが要因となり、衝動的行動を取っている可能性が浮上してきました。
〝愛着″の視点が入ったことで、著者はB君の苦しみや〝心″の状態を以前よりも深く理解することができるようになったと思います。
このように、〝発達的視点″を持つこと、つまり、〝今だけに捉われない視点″を持つことで、子どもの〝心″の理解に深く繋がっていると実感しています。
以上、【療育(発達支援)の専門性】子どもの心を理解する視点について見てきました。
療育(発達支援)には、〝オーダーメイドの支援″が必要です。
そのためには、子どもたちの〝心″の多様性を感じ取る目と、その理由を深く探求する目の両方が必要だと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で子どもたちと関わる中で、感性を鍛えていきながら、子どもたちの心を深く探求していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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