発達障害児・者の中には感覚の問題がよく見られます。
著者が勤める療育現場でも、特定の感覚に過敏さがある子もいれば、特定の感覚には鈍麻(鈍感)さが見られる子もいるなど非常に多様です。
例えば、子どもの鳴き声や工事音には耳をふさぐなどの過敏さ(聴覚過敏)を見せる子がいる中で、切り傷などの怪我をしてもあまり痛みを感じない鈍感な子もいます。
それでは、人によって感覚過敏や感覚鈍麻に違いがある中で両者が併存することはあるのでしょうか?
そこで、今回は、感覚過敏と感覚鈍麻は併存することはあるのか?について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「小嶋悠紀(2023)発達障害・グレーゾーンの子がグーンと伸びた声かけ・接し方大全 イライラ・不安・パニックを減らす100のスキル.講談社.」です。
感覚過敏と感覚鈍麻の併存について:〝同居現象″から考える
以下、著書を引用しながら見ていきます。
感覚の鈍麻性と過敏性をあわせもっている、というケースもあります。
過敏性と鈍麻性が併存している状況を、仮に「同居現象」と名づけておきたいと思います
「極端に過敏な面と、極端に鈍感な面が同居している」というケースがけっこうあることは、よく覚えておいてください。
著書の内容から、感覚過敏と感覚鈍麻の両方が見られるケース(それも極端に)は意外と多くあり、中でも、感覚過敏と感覚鈍麻の両方が併存している状態のことを著書では〝同居現象″と名付けています。
子どもたちの感覚への特徴を見て、例えば、音への過敏さがある=聴覚過敏、味覚への鈍感さがある=味覚鈍麻、という視点に捉われすぎてしまうと、本来可能性のある〝同居現象″に気づけないことがあります。
つまり、この子は感覚過敏な子、感覚鈍麻な子、といった理解になってしまうということです(もちろん、こうしたケースもあります)。
特定の感覚においても、〝敏感さ″と〝鈍感さ″が同時に見られることがあるという視点は発達障害の人の理解を深める上ではとても大切なことだと思います。
それでは、次に〝同居現象″の具体的な事例について著者の経験談を見ていきます。
著者の経験談
放課後等デイサービスに通うAちゃんは自閉症の特徴のあるお子さんです。
Aちゃんには様々な感覚の問題が見られますが、事業所でよく見られるものには、聴覚過敏があります。
Aちゃんは、他児の声(それも特定の他児)が気になり、〝うるさい、静かにしてください″などと話す様子が多く見られます。
時折、耳を抑えるなど、聴覚過敏であると感じる様子は周囲から見てもよく理解できます。
一方で、他児がいる集団内で、Aちゃん自身が大声を上げて笑ったり、話し出すと止まらない様子があります。
周囲から見ると〝うるさい″〝騒がしい″とも思えるこうした光景はAちゃんには自覚症状がないように見えます。
それも、他児から〝さっきはみんなに静かにするように言っていて、Aちゃんも同じことをしているのは変だと思う″といった指摘を受けても、言葉に詰まるなど戸惑う様子を見せるだけです。
つまり、他児の大きな声には過敏に反応するのに、同じように自分が大きな声を出しても自覚障害ないといったことが考えられます。
この状態は、聴覚過敏と聴覚鈍麻が併存している、つまり、〝同居現象″が生じていると考えられます。
他児の声には過敏さが見られる一方で、自分の大声には鈍麻(鈍感)さが見られるという状態です。
以上、【感覚過敏と感覚鈍麻は併存することはあるのか?】療育経験を通して考えるについて見てきました。
これまで見てきた内容から、子どもの中でも、感覚が過敏になる時と鈍麻になる時があるのだと考えさせられます。
そのため、両方の状態が同居するという視点は感覚の問題への理解を深める上でとても大切だと感じます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も、様々な感覚の問題への理解を深めていきながら、その知見を日々の実践に繋げていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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