「〝心の理論″とは、他者の意図、欲求、願望、信念、知識といった心の状態を推論する能力」のことを言います。
心の理論には、一次の心の理論から二次の心の理論へと発達していくなど、発達段階があります。
一次の心の理論は、人物の行動の背後にある意図や心情の理解ができる段階なのに対して、二次の心の理論は、人物間の関係性も踏まえたより複雑な心を理解する段階といった違いがあります。
心の理論が発達していく中で、〝うそ″の発達も見られます。
それでは、そもそも人はなぜ〝うそ″がつけるようになるのでしょうか?
そこで、今回は、人はなぜ〝うそ″がつけるようになるのか?について、心の理論の発達から考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「子安増生(編)(2016)「心の理論」から学ぶ発達の基礎-教育・保育・自閉症理解への道-.ミネルヴァ書房.」です。
人はなぜ〝うそ″がつけるようになるのか?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
うそをつくには、相手に真実とは違うことを思い込ませなければならない。これは、相手の心に誤信念を生み出すことに相当する。
著書の内容では、〝うそ″をつくには、相手の心に誤信念(誤った知識や心情など)を意図的に伝えることが必要であるとの記載があります。
そして、〝うそ″は心の理論の発達でいう〝一次の心の理論″を獲得する4~5歳頃に見られるとされています。
一方で、一次の心の理論に見られる〝うそ″は、その場限りのものが多く、本来、〝うそ″は時間をおいても周囲との関係性の中で辻褄を合わせていく必要があります。
それでは、この点についてさらに深く見ていきます。
以下、引き続き著書を引用しながら見ていきます。
うそがその場限りで終わるということは稀で、一度ついたうそがばれないためには、その後もつじつまを合わせる必要がある。ここで、二次の心の理論が重要となる。「「自分が知っていること」を相手が知っている」かどうかを理解し、相手の予想のさらに上をいくことができるからである。
著書の内容から、二次の心の理論の発達により、その場限りの〝うそ″ではなく、〝うそ″を一貫させ、辻褄を合わせて周囲に見破られない力が身に付いてくると考えられています。
また、著書の中では、〝うそ″に対して向社会的行動への言及もしています。
例えば、誕生日プレゼントで自分が欲しかったものとは異なるものをプレゼントされた場合、それが例え嬉しくはなくても、相手の好意を大切にする思いから〝うそ″をつくことがあります。
また、友人の服装が似合っていないと思っていても、ストレートに似合っていないとは表現せずに、相手を傷つけない別の言い方などをすることも向社会的な〝うそ″だと言えます。
著者の療育現場には、発達障害など発達に躓きのある子どもたちがいます。
こうした子どもたちの心の理論の発達を見ていて感じることは、二次の心の理論の発達の獲得のハードルが高いということです。
一次の心の理論の獲得は、定型発達児よりも遅れて獲得すると言われていますが、二次の心の理論となるとそう簡単にはいきません。
療育でも子どもたちは時々〝うそ″をつきます。しかし、その〝うそ″はその場限りのものであることが多く、他の人が話に加わってくると、はじめについた〝うそ″の整合性をとることは難しくなります。
また、〝うそ″がつけなく、思ったことをストレートに言ってしまう子どももいます。
これはこれで正直ものであるというポジティブな見方もできますが、他者とトラブルに発展してしまうこともあります。
そのため、人の発達において、〝うそ″にも見られるように、二次の心の理論の発達はとても大切なものであると感じます。
そして、心の理論の発達には、言語能力の発達を高めること、具体的には物語などを通じて様々な人物間の関係性や人の背後にある意図や心情などの理解を育てていくことが大切だと考えられています。
以上、【人はなぜ〝うそ″がつけるようになるのか?】心の理論の発達から考えるについて見てきました。
心の理論には発達段階があります。
そして、自閉症など発達に躓きのある子どもたちは、獲得時期が遅れたり、心の理解のプロセスが定型発達児とは異なることも分かってきています。
私自身、療育をしているため、心の理論の重要性を理解はしているものの、まだまだ知らないことも多く、勉強不足だと感じることがあります。
今後も、より良い発達理解と発達支援を目指していくために、心の理論への理解もさらに深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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子安増生(編)(2016)「心の理論」から学ぶ発達の基礎-教育・保育・自閉症理解への道-.ミネルヴァ書房.