〝ワーキングメモリ(working memory)″とは、情報を記憶し、処理する能力のことを言います。〝脳のメモ帳″とも言われています。
ワーキングメモリの機能として、〝言語性ワーキングメモリ(言語的短期記憶)″と〝視空間性ワーキングメモリ(視空間的短期記憶)″とがあり、両者を統合する司令塔的役割が〝中央実行系″と言われています。
ワーキングメモリは様々な発達障害によって違いがあることが研究から分かってきています。
中でも、ADHDの人たち言語性ワーキングメモリと視空間性ワーキングメモリの両方に困難さがあることが分かっています。
関連記事:「【ワーキングメモリとADHDの関係について】療育経験を通して考える」
それでは、ADHDの子どもに対してどのようなワーキングメモリの支援方法があると考えられているのでしょうか?
そこで、今回は、ワーキングメモリを支援する方法について、ADHDを例に理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「トレイシー・アロウェイ・ロス・アロウェイ(著)湯澤正道・湯澤美紀(監訳)上手幸治・上手由香(訳)(2023)ワーキングメモリと発達障害[原著第2版]: 教師のための実践ガイド.北大路書房.」です。
ワーキングメモリを支援する方法:ADHDを例に
著書には、ワーキングメモリを支援する方法として、ADHDにも適応できる〝一般的な方略“とADHDに〝特化した方略”の2つが記載されています。
一般的な方略
以下、著書を引用しながら見ていきます。
ワーキングメモリの負荷を減らすために、指示を短くする
ワーキングメモリの負荷を減らすために、学習や活動の時間を短くする
ワーキングメモリを補強するために、情報を不定期にくり返す
以上の3つが〝一般的な方略“として記載されています。
それでは、次にそれぞれ具体的に見ていきます。
ワーキングメモリの負荷を減らすために、指示を短くする
ワーキングメモリとは、情報を一時的に保持して処理する働きのことです。
そのため、ワーキングメモリに苦手さのあるADHDの人には、ワーキングメモリへの負荷を減らすことが重要です。
例えば、指示内容を短く簡潔に伝えるなどが有効です。
ワーキングメモリの負荷を減らすために、学習や活動の時間を短くする
指示内容を短くする以外にも、学習や活動時間を短くすることもワーキングメモリにかかる負荷を減らす上で重要です。
著書には、長い学習時間よりも、5~10分程度集中して取り組むようにして、その後、休憩を挟むなどが良いと記載されています。
もちろん、年齢やその子の状態に応じて集中できる時間は異なるかと思いますが、心がけたいことは、集中して取り組む時間を短くするということです。
ワーキングメモリを補強するために、情報を不定期にくり返す
ワーキングメモリの機能を強化するためには、リハーサル(繰り返し)が重要だと考えられています。
そして、リハーサルも定期的(決まった日や時間帯など)に行うよりも、不定期に行った方が記憶への定着が良いと考えられています。
特化した方略
以下、著書を引用しながら見ていきます。
視覚的タイマーを使う
頻繁に、または不定期にごほうびを与える
環境の符号化
体を使う
以上の4つが〝特化した方略“として記載されています。
それでは、次にそれぞれ具体的に見ていきます。
視覚的タイマーを使う
ADHDの人は時間を忘れて活動に取り組むことが多くあります。
そのため、予定が崩れてしまうこともよく起こります。
こうした状態を防ぐためにも、視覚的に分かるタイマーを活用することが有効だと考えられています。
頻繁に、または不定期にごほうびを与える
ADHDの人は長期的な報酬よりも目の前の報酬を好む傾向があります。
そのため、学習や活動にうまく取り組めた後に、トークンとなるごほうびを頻繁に与えることが効果的です。
トークンは、シールなどが良く活用されますが、大人がかける褒める声掛けもまた大切だと思います。
そして、報酬は不定期に行うことが効果的です。
環境の符号化
環境の符号化とは、覚えたい情報について、環境を手掛かりに記憶への定着を促すという方法です。
例えば、大人と予定の確認をした場合(新奇な記憶)に、確認をした場所や時間帯、どの大人と確認をしたのかといった周辺情報(環境)を引き出す問いかけをすることが記憶への定着(符号化)を促していくことに繋がります。
体を使う
身体活動と記憶の想起にはポジティブな関連があると言われています。
つまり、身体を動かすことで必要な記憶を取り出しやすくなるということです。
そのため、ADHDの人へのワーキングメモリの支援として、学習や活動中に身体を動かす時間帯を設けることも有効になります。
以上、【ワーキングメモリを支援する方法について】ADHDを例に考えるについて見てきました。
ADHDには言語性・視空間性ワーキングメモリに苦手さがあります。
一方で、ワーキングメモリへの支援を行うことで記憶への定着を促したり、思い出しやすくなるなど、効果的な方法は様々あります。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後もワーキングメモリへの理解を深めていきながら、療育現場でできる支援方法を試行錯誤していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
参考となる書籍の紹介は以下です。
関連記事:「ワーキングメモリに関するおすすめ本6選【中級編】」
トレイシー・アロウェイ・ロス・アロウェイ(著)湯澤正道・湯澤美紀(監訳)上手幸治・上手由香(訳)(2023)ワーキングメモリと発達障害[原著第2版]: 教師のための実践ガイド.北大路書房.