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【ワーキングメモリとADHDの関係について】療育経験を通して考える

投稿日:2023年11月4日 更新日:

ワーキングメモリ(working memory)″とは、情報を記憶し、処理する能力のことを言います。〝脳のメモ帳″とも言われています。

ワーキングメモリの機能として、〝言語性ワーキングメモリ(言語的短期記憶)″と〝視空間性ワーキングメモリ(視空間的短期記憶)″とがあり、両者を統合する司令塔的役割が〝中央実行系″と言われています。

ワーキングメモリは様々な発達障害によって違いがあることが研究から分かってきています。

 

それでは、発達障害の中でADHDの人たちは、ワーキングメモリにどのような特徴があるのでしょうか?

 

そこで、今回は、ワーキングメモリとADHDの関係について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながらADHDの人が抱えるワーキングメモリの特徴について理解を深めていきたいと思います。

 

 

今回参照する資料は「トレイシー・アロウェイ・ロス・アロウェイ(著)湯澤正道・湯澤美紀(監訳)上手幸治・上手由香(訳)(2023)ワーキングメモリと発達障害[原著第2版]: 教師のための実践ガイド.北大路書房.」です。

 

 

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ADHDのワーキングメモリの特徴について

以下、著書を引用しながら見ていきます。

これらの子どもたちの言語性・視空間性ワーキングメモリの両方に脆弱さがありますが、視空間性ワーキングメモリが特に低い傾向があります。

 

視空間性ワーキングメモリの得点の低さによってADHDの子どもと、そうでない子どもは区別することができます。

 

著書の内容から、ADHDの子どもたちには、〝言語性ワーキングメモリ″と〝視空間性ワーキングメモリ″の両方に困難さが見れると考えられています。

中でも、〝視空間性ワーキングメモリ″がADHDの有無を区別する大きな要因だと言われています。

もちろん、〝視空間性ワーキングメモリ″の低さ=ADHDというわけではありません。

ADHDにおいて、〝視空間性ワーキングメモリ″の弱さが見られることが多いという意味です。

 

 

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著者の経験談

ADHDの特徴には、不注意・多動性・衝動性があります。

著者はこれまでの療育経験の中で、多くのADHDの人たちと接する機会がありました。

その中で、ADHD児・者はワーキングメモリが本当に低いのか?といった疑問もあります。

それは、ADHD児・者の中には、頭の回転が速くワーキングメモリをフル活用して知識を更新し、自分の考えやアイディアを出している人も少なからずいると思うからです。

一方で、本来覚えておくべきことを忘れやすいといった印象もまたあります。

さらに、やるべきタスクが増えると、情報漏れが目立ってくるといった印象もあります。

ADHD児・者と直接話をしている中では、ワーキングメモリに苦手さを持っている印象はあまり受けませんが、生活や学習場面、仕事といったマルチな情報の処理が必要とな状況において、ワーキングメモリの苦手さが目立ってくることもまた事実としてあるように思います。

例えば、ADHD児のA君は、自分の興味のある知識が豊富にあり、著者と興味のある話をする際には、興味のある知識を流暢に話したり、また、新しい発想やアイディアを話ながら思いつく様子もあります。

また、興味のある情報は自分で調べ、直ぐにその情報をアップデートしていく賢さもあります。

一方で、生活面に目を向けると、整理整頓が苦手であったり、学校の宿題を忘れてしまったり、著者が話していた予定をすぐに忘れてしまうこともよくあります。

また、情報量が多くなると、必ずどこかに漏れが生じることがあります。

つまり、特定の領域や状況においては、ワーキングメモリをフル活用している反面、生活や学習といったマルチタスクが必要な場面では、ワーキングメモリをうまく働かせることができていないといった印象を受けます。

 

この要因としては、ADHDの特性が影響していると考えます。

つまり、ADHD特性があることで、様々な刺激に注意が向いてしまい、必要な情報に注意を向け続ける難しさがあるということです。

注意の転導性が高いとも言えますが、様々なことに興味関心が向きやすい強みがある一方で、特定の情報や情報量そのものが多くなると処理に多大な負荷がかかってしまうという弱みがあると感じます。

 

 


以上、【ワーキングメモリとADHDの関係について】療育経験を通して考えるについて見てきました。

ADHDの人たちは、ワーキングメモリに苦手さがあることがわかっています。

その一方で、様々な事に関心を向けたり、特定の領域に過度に集中するなど強みもあると言われています。

こうして見ると、ワーキングメモリも含めた特性が与える弱みは、状況の違いにより強みになるということを実感できます。

私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後もワーキングメモリへの理解を深めていきながら、療育現場で関わる子どもたちにより良い発達理解と発達支援を行っていきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 


参考となる書籍の紹介は以下です。

関連記事:「ワーキングメモリに関するおすすめ本6選【中級編】

 

 

トレイシー・アロウェイ・ロス・アロウェイ(著)湯澤正道・湯澤美紀(監訳)上手幸治・上手由香(訳)(2023)ワーキングメモリと発達障害[原著第2版]: 教師のための実践ガイド.北大路書房.


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