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ADHD 実行機能

ADHDの実行機能について:実行機能の3つの要素と療育での実践を通して考える

投稿日:2020年5月3日 更新日:

実行機能”とは、〝遂行能力”や〝やり遂げる力″のことを指します。

私たちは、日々の生活の中で、物事を計画立てて実行しながら、うまく日常生活を送っています。

一方で、ADHDなど発達障害の人の中には、実行機能がうまく働かない場合もあります。

 

それでは、ADHDと実行機能にはどのような関係があるのでしょうか?

 

そこで、今回は、実行機能の概要と、臨床発達心理士である著者の療育現場での実践を踏まえて、ADHDと実行機能の関係について理解を深めていきたいと思います。

 

 

今回参照する資料は「中島美鈴(2018)もしかして、私、大人のADHD?:認知行動療法で「生きづらさ」を解決する.光文社新書.」「湯澤正道(編著)(2018)知的発達の理論と支援:ワーキングメモリと教育支援.金子書房.」です。

 

 

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実行機能の概要:3つの構成要素を例に

以下、書著を参考に実行機能について見ていきます。

実行機能とは、計画を立て、その計画通りに集中することの維持、別の刺激に飛びつくことを抑制するプロセスに関わっている高次の脳機能のことを言います。

実行機能には以下3つの要素があります。

1つ目として、抑制(inhibition)で、これは、目標達成に当面関わらない無関連なことを抑制する働きのことです。

2つ目として、更新(updating)で、これは、入力されつつある情報を符号化し、モニタリングして、古い情報を新しい情報に置き換える働きのことです。

3つ目として、シフト(shift)で、これは、状況や課題に応じて注意をシフトする働きのことです。

 


以上の3つの要素について学校を例に見ていきます。

休み時間に友達と楽しく遊んでいたがチャイムがなり遊びを切り上げて教室に戻る➢シフト

教室に戻り授業が始まるも隣の子がまだ騒いでいるなど気になる刺激はあるが注意を授業に向ける➢抑制

授業が始まり先生が新しいことを教えてくれる(知識のアップデート)➢更新

という感じになります。

つまり、新しい情報を覚える更新が働くためには、そこに注意を向ける気持ちの切り替え(シフト)や気になる他の刺激を気にしない(抑制)が重要になります。

 

 

ADHDと実行機能の関係について:著者の療育実践を例に

ADHDの人たちには、次のような〝実行機能の困難さ”があると考えられています。

・計画を立てて行動することが苦手

・やるべきことを先延ばしにする

・目的をもって行動していてもすぐに他に注意がそれてしまう

このようなADHDの人の実行機能の困難さに対して、実行機能がうまく機能するための環境調整など足場づくりが必要だと考えられています。

 


それでは、次に、著者の療育現場におけるADHD傾向のある小学生男子A君の事例を紹介していきます。

 

A君とはかれこれ2年以上の付き合いになりますが、著者が最初にA君と出会ったのは、A君が小学校1年生の頃です。

A君は、何かに取り組み始めてもすぐに他に注意が向き、本来何をしていたのかを忘れたり、時間を見ながらその日の行動を決めるのが非常に苦手なお子さんでした。

そのため、いつも帰り際はバタバタしており、やりたかった遊びも思うようにうまくできないことも多く見られました。

著者や他の職員は、A君の実行機能の苦手さを考え、いくつか対策をとりました。

 

まず、その日にしたいことの予定の確認です。

これはA君が決めるということを前提にその日の時間などを考慮して大人と相談していきます。

その日の予定や、やりたいことを最初に決めておくと途中で注意がそれたときの声掛けが入りやすいことが多く見られます。

 

次に、A君が集中できる環境の調整です。

A君がやりたい活動に応じてできるだけ集中できる環境を調整します。

環境調整はこうした物的な環境だけではなく、A君のことを理解し楽しく遊んでくれる大人や共通の興味のある子供など人的環境も重要になってきます。

 

次に、注意がそれたときや終わりの時間が近づいたときの時間の確認と活動の目途の確認です。

A君はどうしても他の人がすることや物音などにすぐに反応し注意がそれるので、A君が取り組んでいた活動に戻してあげる声掛けが必要になります。

その際に、残り時間を確認するように声をかけることが多いです。

これによりA君が大人の声を聞き入れ注意を戻すことが多いからです。

また、後半には活動の目途を考えその日の活動の終わりを考える、終わらなければ次回の予定も併せて考えるなどの対応を行ってきました。

 

最後に、できた過程をほめるです。

A君が集中して取り組んだ過程や活動内で作ったものへのフィードバックを与えるということです。

 

こうした取り組みは、最初にすべて案を出せたわけではありません。

A君が何かに取り組む際の困難さへの対応方法を考えていった結果だと思います。

こうした取り組みを継続することで、A君は今では自分がやりたいことを自分で考え、時間を見ながら行動する様子が増えてきました。

まだまだ注意がそれることが多いため声掛けなどは必要としますが、帰り際のバタバタした様子は少なくなり、帰り支度を時間内に終えることも増えてきました。

そして、活動に満足感をもって終える様子も増えてきました。

 

 


我々は、何か目標や目的に対して、計画し注意を持続していきながら、新しいことを学習していきます。

ADHDなど実行機能に困難さを抱える人たちはこのプロセスがうまくいかないことが多く見られます。

そうした失敗体験の繰り返しは自尊心の低下などにも繋がります。

実行機能の困難さがどの場面で見られ、どう解決すべきかを把握することが大切であり、そのためには、実行機能についての理解とそれを生活という文脈の中で考えるといった応用力が必要なのだと思います。

まだまだ手探りですが、今後も現場レベルから子供たちのつまずきとそれに対する支援方法を考えていこうと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

中島美鈴(2018)もしかして、私、大人のADHD?:認知行動療法で「生きづらさ」を解決する.光文社新書.

湯澤正道(編著)(2018)知的発達の理論と支援:ワーキングメモリと教育支援.金子書房.

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