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心の理論 自閉症

自閉症の心の理論について考える

投稿日:2020年6月18日 更新日:

自閉症の人たちは相手の意図や気持ちをくみ取ったりすることが苦手とされています。

こうした相手の意図や気持ちの理解を説明する領域として、「心の理論」が昔から知られています。

私自身、職場で自閉症の方と関わることが多いため、こうした「心の理論」の理解は非常に重要だと思っています。

「心の理論」を学ぶ前後では、自閉症の方の行動特徴の見方もだいぶ変わったかと思います。

 

そこで、今回は、自閉症の心の理論に焦点を当てて、その概要についてお伝えしていこうと思います。

 

 

今回参考にする資料として、別府哲・小島道正(編)「「自尊心」を大切にした高機能自閉症の理解と支援」と子安増生著「心の理論」を参照していきます。

 

 

 

心の理論について

心の理論(theory of mind)とは、狭義には「他者の意図や信念を推論する理論」のことを言います。

ここで「理論」という言葉を使うのは、次の理由があります。

一つ目に、科学において個々の「現象」は見えるが「理論」は見えないのと同じように、個人の一つ一つの「行動」は見えるが、その背後の「心」は見えないからです。すなわち、「心」は「現象」というよりも心の中でつくりあげられる「理論」としての性質が強いからです。

二つ目に、科学で一度「理論」を構成すれば、様々な「現象」の予測がつくようになるのと同じで、人の「心」についても、一度それについて「理論」を構成すれば、その人の次の「行動」が読めるようになるからです。

こうした「心の理論」が自閉症の領域において、研究されるようになります。有名なものとして、1985年にバロン・コーエンという研究者が提唱した「心の理論」障害仮説があります。これは、自閉症児は「心の理論」の獲得に障害を持つというものです。

そして、こうした「心の理論」を測定する課題として、有名なものに誤信念課題があります。誤信念課題とは、「他者の心を理解する能力」を調べる課題です。

誤信念課題にも様々ありますが、もっとも有名なものに「サリーとアンの課題」があります。

内容は以下です。

①サリーがビー玉を自分のカゴに入れる。

②サリーが部屋を出ていった後で、アンがビー玉を別の場所(自分の箱)に隠す。

③その後、サリーが部屋に戻ってくる。

④子どもに、「サリーはどこを探すでしょうか?」と尋ねる。

という内容です。ちなみに正解は、「サリーのカゴ」になります。この課題を正解するためには、「サリー」という「他者」の誤った信念を理解しなければいけません。

こうした誤信念課題ですが、定型発達児の場合ですと、4歳頃から通過します。つまり、「心の理論」は4歳頃から獲得されます。一方、自閉症児ですと、4歳を超えても誤信念課題を通過しないことが証明されています。

それでは、自閉症児は「心の理論」の獲得ができないのでしょうか?

こうした問いに対しても、研究によって、自閉症児は、言語発達年齢がおよそ9歳を超えると、誤信念課題を通過することがわかっています。つまり、定型発達児と比べると遅れながらも、言語発達に伴い、「心の理論」を獲得できるということになります。

その後、より高次の「心の理論」の研究が行われます。二次の誤信念課題というもので、二次誤信念課題とは、「他者の心を表象する別の他者の心が理解できる」ということを測定する課題です。より具体的に言うと、「他者の心をイメージしているさらに別の他者の心(信念)を理解する」能力を調べるものです。

二次の誤信念課題は、定型発達児だと、児童期中期から可能とされており、自閉症児に関しては、通過が難しいとされています。

こうした結果から、バロン・コーエンらは、自閉症の中核的障害が「心の理論」であると主張しています。

以上が、「心の理論」の概要になります。

 

 

著者のコメント

私自身、自閉症児・者との関わりを通して、彼らが相手の意図や信念などの汲み取りに難しさが見られたことを実感する場面がよくありました。

こうした「心の理論」に関する経験を、経験という形にして閉じずに、知識を持って深く理解しようとする姿勢は重要であると思います。

そして、「心の理論」にも段階があり、高次の「心の理論」になると、様々な状況において、様々な人物間でのやり取りを、人物の気持ちを推測しながら読み解く必要がでてきます。自閉症児・者のこうした情報処理の困難さを「心の理論」という視点で理解することは、彼らの社会生活の困難さを理解する上で、非常に多くの学びがあったように思います。

しかし、これまでの経験から言えることは、けっして自閉症児・者と気持ちが通い合わないわけではありません。その気持ちの通い合うところが少し特徴があるという認識で私は理解しています。

今後も、社会一般でマイノリティとされている自閉症への理解に関して、私自身まだまだ未熟ではありますが、現場と知識とをもって理解していこうとする姿勢を持ち続けたいと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

文献

別府哲・小島道正(編)(2010)「自尊心」を大切にした高機能自閉症の理解と支援.有斐閣選書.
子安増生(2000)心の理論:心を読む心の科学.岩波書店.

 
 
 

心の理論“を深く知るためのおすすめ本は、以下の記事を参照して頂ければと思います。

関連記事:「心の理論に関するおすすめ本【初級~中級編】

 

-心の理論, 自閉症

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