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【発達障害の強弱・重複(併存)について】療育経験を通して考える

投稿日:2022年6月25日 更新日:

 

日本では発達障害といえば、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)、学習症(LD)などが主な症状としてあります。

また、DSM-5(アメリカ精神医学界の診断と統計マニュアル)の中では、知的障害(ID)も神経発達障害の中に含まれています。

発達障害の状態像は、単一の症状に対して単一的な理解といった以上に、非常に多様性(バリエーション)があると考えられています。

 

それでは、こうした発達障害の多様性についてどのような見方があるのでしょうか?

 

そこで、今回は、発達障害の強弱・重複(併存)について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら理解を深めていきたいと思います。

 

※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。

 

 

今回、参照する資料は「田中康雄(2019)「発達障害」だけで子どもを見ないで:その子の「不可解」を理解する.SB新書.」です。

 

 

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発達障害の強弱・重複(併存)について

以下、著書を引用しながら見ていきます。

僕は、発達障害はある一定の特性をもつ「脳のバリエーション」「脳のタイプ」としてとらえています。(略)「脳のタイプ」である以上、当然その現れ方には強弱があり、多種多様でもあります。さらに日々の成長や環境によって変わることもあります。(略)濃さはみんな一定ではなく、ある特性がとても濃い人もいればとても薄い人もいます。同じ人であっても、生活環境や状況に応じて色濃く見えるときもあれば、あまり目立たないようなときもあります。(略)複数の「発達障害」のタイプが重なり合って現れることも多く、1人の子に診断名が1つだけ、ということになるとは限らないのです。

 

著書の内容から多くのことを学ぶことができます。

まとめると、以下の3点に集約できると言えます。

  1. 発達障害の現れ方には強弱があるなど多様である
  2. 発達障害は重複(併存)している場合がある
  3. 発達障害の特性は成長や環境要因によって変化する場合がある

 

 


それでは、次に、以上の3について見ていきます。

 

1.発達障害の現れ方には強弱があるなど多様である

自閉スペクトラム症(ASD)のスペクトラムとは、連続体のことです。

つまり、自閉特性が強い人もいれば、弱い人もいるなど、その特性は地続きであり、どこかで区切ることはできないといった考え方です。

ASDに限らず、他の発達障害にも同様に強弱が見られます。

著者も、療育経験を通して、同じASDの人でも、特性の強さは大きく違うなど状態像の多様性を実感しています。

例えば、時間へのこだわりがある子(決まった時間に○○をするなど)も、特性の強弱により、強い場合には、きっちり守れない場合はパニックや癇癪になる、弱い場合には、ある程度の変化は許容できるなど、同じ自閉特性があっても違いがあると言えます。

 

関連記事:「【発達障害の特性の「強弱」について】療育経験を通して考える

 

 

2.発達障害は重複(併存)している場合がある

例えば、ASDといった単独の障害であるケースもあれば、ASD+ADHD、ASD+IDなど、様々な発達障害が重複している場合もあります。

重複していると、状態像も多様化しますし、理解や支援のポイントも変わってきます。

著者は、これまでの療育経験を踏まえ、重複しているケースがとても多いのではないかといった実感があります。

例えば、ASDと診断され通所しているお子さんをよくよく見ていくと、多動・衝動・不注意が見られるなど、ADHDの特性が見えてきたお子さんもおります。

もちろん、診断を受けているわけではないので、あくまで憶測ですが、こうした見立てを立てることで、子どもたちの特性からくる困り感を理解し対応する方法が増えていくことも実感としてあります。

あくまで、理解と支援を進めるためにといった、その子のメリットになるということが大切だと言えます。

一方で、理解や支援に繋がることのないやみくもな見立や決めつけはデメリットになりかねないと言えます。

 

関連記事:「【発達障害の発症の頻度と重複(併存)について】療育経験を通して考える

 

 

3.発達障害の特性は成長や環境要因によって変化する場合がある

発達障害の強弱や重複は、成長や環境要因によっても変化します。

例えば、ASDのお子さんも成長や環境要因によって、こだわりの質が変わったり、対人・コミュニケーションがうまく取れるようになることがあります。

また、ADHDの場合は、多動性・衝動性が年齢と共に減り、落ち着いて過ごせるようになるケースも多いと言われています。

こうした特性は治るのではなく、特性への対応がうまく取れるようになったなど、その人が自らの学習により対処方法を獲得することもあれば、周囲が環境を調整することで特性が目立たなくなる場合もあります。

環境調整はとても大切で、例えば、周囲が特定のルールを守るのが当たり前な環境と、大枠のルールはありながらも個々に応じてルールの設定を変えるなど個別対応をしている環境とでは、特性によるマイナス行動が目立つことが後者の方が少なくなります。

著者も療育経験を通して、特性に対して環境調整することでその特性が目立たなくなることや、成長と共に、これまで苦手だったスケジュール管理や忘れ物の管理などを学習し、特性への付き合い方がうまくなってきたと実感するケースも多くあります。

 

 


以上、【発達障害の強弱・重複(併存)について】療育経験を通して考えるについて見てきました。

発達障害といっても個々に応じて状態像に大きな違いあります。

著者は、学生時代は、自閉症とは、○○であり・・・といったテキストを読んで学んできたことが、いざ現場に行くと、自閉症の特性のわかりやすい特徴を大きくまとめたものだったと後々現場を通して学ぶことができました。

それだけ、現場で関わる子どもたちは非常に多様です。

私自身まだまだ未熟ですが、今後も、発達の多様性をさらに理解し、より良い実践ができるように多くの学びをしていきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

田中康雄(2019)「発達障害」だけで子どもを見ないで:その子の「不可解」を理解する.SB新書.

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