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療育(発達支援)の専門性で大切な心理学的視点と発達的視点

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著者は長年にわたり療育現場で発達に躓きのある子どもたちの支援に携わる仕事をしています。

子どもたちの中には、知的障害、自閉症、ADHDなど様々な特性のある子どもたちがおります。

こうした子どもたちとの関わりを通して難しいと感じる点が多くあります。

例えば、子どもたちの行動の意図がよく理解できない、どのような発達過程を辿ってきたのかがよくわからないなどがあります。

少し専門的な例にもなりますが、こうした視点は、子どもたちのことを突き詰めて考えていくと見えてくる問いでもあります。

それでは、子どもたちの行動の意図や発達過程などを理解していくためには、どのような視点が必要となるのでしょうか?

そこで、今回は、療育(発達支援)の専門性で大切な視点として、心理学的視点と発達的支援から考えを深めていきたいと思います。

 

 

今回参照する資料は「米澤好史(2015)発達障害・愛着障害:現場で正しくこどもを理解し、こどもに合った支援をする:「愛情の器」モデルに基づく愛着修復プログラム.福村出版.」、「木村順(2006)子育てと健康シリーズ㉕:育てにくい子にはわけがある:感覚統合が教えてくれたもの.大月書店.」です。

 

 

療育(発達支援)の専門性で大切な心理学的視点とは?

子どもたちの行動の中には、好ましい行動がある一方で、トラブルに発展する行動、また、大人を困らせる行動などマイナスとされる行動があります。

心理学的視点とは、子どもたちの行動の背景には何らかの意味(意図)があると想定し、その要因を分析する視点でもあります。

ここで発達特性(ASD、ADHD)や愛着障害、感覚の問題を例に考えてみたいと思います。

「何かうまくいかないことがあるとイライラした気持ちを大人にぶつけようとする」、このようなことは子どもたちの行動にはよくあるかと思います。

しかし、“イライラ行動を他者に向ける”、という結果の行動は、出来事の前後の状況などによって行動の背景の意味がその子によって異なることが見えてきます。

 


ASDの場合→いつもやっていた活動が、いつも通りできなかった要因が可能性としてあります。

ASDの場合には、変化よりもいつもと変わらないことをより重視する傾向があります。そのため、人・物・場所など何かいつもと違うことがあったことがイライラの要因である可能性が高いです。

ASD特性は、認知の問題とも言われているため、ASDの認知の特徴を理解していくことが大切です。

 


ADHDの場合→自分の行動がうまくいかないと感情のコントロールが難しいことが要因となり気持ちを爆発させることがあります。

ADHDは、衝動性が特性にあるため、頭の中や行動自体が常に忙しい状態にあるため、冷静に物事を考えたり、事前の約束を記憶に保持するなどが難しいことが多くあります。

そして、ADHDの場合には、こうした感情のコントロールの苦手さから、失敗経験を多く積みやすいとされています。

そのため、感情爆発後にはクールダウン、そして、振り返りを行い、失敗経験を少なくしていきながら、自己肯定感を高めていく対応が大切です。

ADHD特性は、行動の問題とも言われているため、行動に直接働きかける理解と対応が大切です。

 


愛着障害の場合→愛着障害があると、イライラ行動をした結果、行動への修正を試みたり(ADHD的対応)、環境への調整を試みる(人・物・場所などの環境調整:ASD的対応)だけでは改善が難しいことがあります。

愛着障害は、関係性の障害でもあり、さらに詳細に見ていくと感情の問題でもあります。

感情発達が未熟な状態であるため、振り返り困難(良き行動をしても心地よい感情が生まれにくい)などの特徴があります。

 

愛着障害への理解・対応は下記の記事を参照して頂ければと思います。

関連記事:「愛着障害への支援:「愛情の器」モデルを例に

 


感覚の問題の場合→ASDや知的障害などに感覚の過敏さ・鈍感がみられることはよくあります。

感覚過敏があると、生活の中で必要以上の情報を入力してしまい、徐々にイライラ感が高まることがあります。目には見えないものであるため、その子の日々の行動の様子を観察していくことが大切です。

 


併存している場合→発達特性(ASDやADHD)は併存していることがよくあります。また、ASDと感覚の問題もまたよく見られます。

さらに、愛着障害の場合だと、そもそもの発達障害あって二次的に生じているケースや、愛着障害のみの特徴が、ASDやADHDと似た特徴に見える場合もあります。

こうした点を理解するには、後述する発達的視点が必要不可欠です。

大切なことは、状態像をできるだけ正確に理解していくことです。

例えば、愛着障害とADHDへの理解と対応はそれぞれ異なるため、状態像を見余ると支援がうまく進捗しないように思います(特に二次障害が併発して場合には)。

 


以上、療育(発達支援)の専門性で大切な心理学的視点として、ASDの認知特性、ADHDの行動特性、愛着障害の感情の問題、感覚の問題などから、行動の背景にある様々な意図(意味)を分析する手掛かりについて見てきました。

 

一方で、こうした行動は時間において非常に短い期間での分析(理解)が多いと言えます。

その中で、人の行動にはこれまでの積み重ねでできているいる部分も多くあります。

 

 


それでは、次に発達的視点から目の前の行動の分析だけでは見えてこない重要な視点についてお伝えしていきます。

 

 

療育(発達支援)の専門性で大切な発達的視点とは?

人間の発達は、個人と環境の相互性に時間軸を加えて、成長・発達すると言われています。

こうした視点を「発達的視点」とも言います。

発達的視点は発達心理学がベースとなっていますが、発達心理学は、様々なライフステージにおいて、人はどのような発達課題があるのか、どのような発達過程を辿るのか、そして、障害がある場合には発達上どのような特徴があるのかを研究する学問です。

 

それでは、先の心理学的視点に加え、発達的視点が大切だと考える理由について以下、例を上げながら見ていきます。

 


発達障害を理解するということ→発達障害の診断には生育歴が非常に重要となります。

つまり、これまでどのような発達経過を辿ってきており、幼少期から、あるいは小学生の頃から、発達特性が見られていたのかという理解です(環境要因を取り除くため)。

大人になってから見られるようになったなどは環境要因が強いと考えられるため、発達障害以外の要因が考えられます。

 


二次障害を理解するということ→環境要因からの影響を受けて生じるものが二次障害です。つまり、先天的ではなく後天的なものです。

また、先ほども述べましたが、一次障害に発達障害があり、その上に、二次障害が重なっているケースもあります。

二次障害には、愛着障害を中心に、愛着障害と非常に関連性の深い、反抗挑戦症や素行症(ADHDと関連性が高い)や行動障害(知的障害やASDと関連性が高い)などがあります。

 

関連記事:「発達障害の二次障害について:ADHDを例に考える

関連記事:「行動障害と強度行動障害の違いについて-行動障害の背景にあるものとは?-

 

ここで繰り返しになりますが、大切に点は、可能か限り状態像を正確に理解していくということです。

様々な発達障害の理解、二次障害の理解、発達障害+二次障害の理解など、関わる相手の状態像によって理解と対応が異なってきます。

そのため、現状の行動分析(心理学的視点)だけでなく、過去から現在までの発達過程を分析(発達的視点)するということも大切です。

 

 


以上、療育(発達支援)の専門性で大切な心理学的視点と発達的視点について見てきました。

私自身、現場でわからないことは山ほどありますが、今回述べてきたことは子どもたちを理解するために、とても大切なことだと実感しています。

特に、困難な事例を目の前にするとどうしてもその子の状態像を様々な情報をもとに理解していかないと、表面上の理解のみにとどまり、支援も進捗せずに、関わるスタッフも徐々に疲弊してしまうように思います。

私自身、まだまだ未熟ではありますが、子どもたちの状態理解に一歩でも近いずいていけるように、現場での実践と日々の知識の収集を大切にしていきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

米澤好史(2015)発達障害・愛着障害:現場で正しくこどもを理解し、こどもに合った支援をする:「愛情の器」モデルに基づく愛着修復プログラム.福村出版.

木村順(2006)子育てと健康シリーズ㉕:育てにくい子にはわけがある:感覚統合が教えてくれたもの.大月書店.

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