自閉症(ASD:自閉症スペクトラム障害)の中核症状の中に、〝社会性″の困難さがあります。
〝社会性″とは、様々な定義や表現があるかと思いますが、一つ定義を取り上げると、〝人とある対象を共有し、その共有体験を楽しむといった共同行為″だと言えます。
関連記事:「【〝社会性″とは何か?】療育で〝社会性″を育てるために大切なこと」
自閉症児は、こうした〝社会性″の困難さがありますが、そもそも支援を行う必要はあるのでしょうか?
人によっては、苦手なものを無理して伸ばす必要はないと考えている人もいるかもしれません。
そこで、今回は、自閉症児にこそ〝社会性″への支援が必要な理由について、臨床発達心理士である著者の療育経験も交えながら考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「長崎勤・中村晋・吉井勘人・若井広太郎(2009)自閉症児のための社会性発達支援プログラム‐意図と情動の共有による共同行為‐.日本文化科学社.」です。
自閉症児にこそ〝社会性″への支援が必要な理由について
著書の中では、自閉症児は、本来の特性上、人との関わりなど〝社会性″に困難さを持っているため、苦手な〝社会性″を遠ざけるというよりも、将来を見据えて〝社会性″を育てるための支援が必要だと言及しています。
以下、著書を引用しながら見ていきます。
自閉症児でも人とかかわりたいと思っていることが結構ある。ただ、そのかかわり方が独特で「うまくいかない」ことが多いだけであろう。そのために、私たちも自閉症児の「独特の人とのかかわり方」を学ぶ必要がある。また、自閉症児も「通常の人とのかかわり方」を学ぶ必要がある。
著者の内容には、自閉症児は本来〝社会性″の困難さはありますが、人と関わりたくないというものではなく(個人差はあれど)、〝関わり方が独特″だということです。
そのため、自閉症児が周囲と関わりを持ち、関わり方を身につけることはとても大切であり、また、周囲も自閉症児の独特な関わり方への理解を示す必要があるということです。
そのため、自閉症児が持つ人との独特な関わり方を理解し、〝社会性″を育てるための支援を行う必要があるということです。
私たちは、将来的に人との関わり無しでは生きていけませんし、多少不器用で合っても、人に自分の思いを伝えたり、人と一緒に興味関心を分かちあったりすることは、人生をより豊かにしていくものだと思います。
それでは、次に著者の療育経験から、自閉症児への〝社会性″の支援が必要な理由についてお伝えしていきます。
著者の経験談
著者の療育現場には、多くの自閉症の子どもたちが通所してきています。
子どもたちとの関わりを通して感じていることは、著書の引用文にもありましたが、自閉症児の多くは人との関わりを欲している場合が多くあるということです。
もちろん、自閉症スペクトラム障害という言葉からもわかるように、スペクトラム(連続体)ですので、個人差はあります。
しかし、著者が見ている自閉症児の多くは、大人との関わり、子ども同士での関わりを求めてやってくる子が多いという印象があります。
そして、著者の経験から、人との関わりを通して、自閉症児の〝社会性″は育っていくということを実感しています。
その育ちは、興味関心を通して、大人と興味を分かち合うことができたという経験、また、興味のあるルール遊びを他児と一緒に行う〝集団遊び″など、ポジティブな経験がベースとなっていると思います。
人と関わることが楽しい、関わることで世界が広がった、などのポジティブ経験を通して、自閉症児の〝社会性″の基盤が発達していくのだと思います。
関連記事:「【〝社会性″は学習できる】支援の可能性について考える」
以上、【自閉症児にこそ〝社会性″への支援が必要な理由】療育経験を通して考えるについて見てきました。
人は生きていく上で、社会との接点を持ち続ける必要があります。
もちろん、人によって接点の多さ・少なさに違いがあり、どちらが良いというわけではないと思います。
大切なことは、社会との繋がりを持つことがより良い人生に繋がっていくという実感なのだと思います。
その繋がりは、多少不器用であったとしても、それでいいのだと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も人と関わることは楽しいという経験を少しでも子どもたちに持ってもらえるような取り組みをしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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長崎勤・中村晋・吉井勘人・若井広太郎(2009)自閉症児のための社会性発達支援プログラム‐意図と情動の共有による共同行為‐.日本文化科学社.