著者は長年、発達障害など発達に躓きのある子どもたちへの療育(発達支援)をしてきています。
療育の中で大切なキーワードとして、〝療育的視点″があります。
〝療育的視点″とは、簡単に言えば、子どもたちそれぞれの状態像を把握・理解すること(→評価)、そして、評価に基づいて仮説を立てていく視点だと言えます。
仮説には、大きく〝原因仮説″と〝支援仮説″とがあります。
〝原因仮説″とは、子どもの行動の〝なぜ″に対応して仮説を立てる方法です。
〝支援仮説″とは、子どもの行動に〝どのように″に対応して仮説を立てる方法です。
それでは、療育現場で子どもたちが見せる様々な行動に対して、原因仮説を立てることは、どのような意味において必要になってくるのでしょうか?
そこで、今回は、発達障害児への療育で大切な療育的視点について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、原因仮説を通して理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「木村順(2006)子育てと健康シリーズ㉕:育てにくい子にはわけがある:感覚統合が教えてくれたもの.大月書店.」です。
原因仮説はなぜ必要なのか?
最近の著者の放課後等デイサービスの例を取り上げて考えていきたいと思います。
小学校低学年のA君の例です。
A君は、喜んだ時など、様々な活動の中で快の刺激を得た場合など、手をブラブラさせて喜びを表現することが多くあります。
A君は、ピアノを弾いたり、ボール遊び、プラレールやトミカの立体駐車場を自分で組み立てるなど、手を使った遊びもよく行います。
一方で、A君は、おやつの袋などをうまく開けることができない、スプーンやフォークなどは使えるも、どこか不器用さを感じる様子が見られていました。
そんなA君を見た著者は、もしかすると手をブラブラするのは、手をうまく使うことができないために(他の様々な能力と比較して見ても)、そのような動きで喜びを表現しているのではないか?といった仮説が見えてきました。
また、A君はこれまでの活動の中で、手をたくさん使った遊びを経験してこなかった可能性もあります(それには様々な理由があるかと思います)。
そのため、著者は紙粘土を使ってA君を遊びに誘ってみました。
粘土などの感触遊びは、手をダイナミックに使うなど、手の発達が促進される遊びの一つだからです。
A君は、紙粘土に触ること自体には、抵抗を見せずに、直ぐに紙粘土に手を伸ばし触りはするも、そこから直ぐに粘土をおいて別のおもちゃへと注意が向いてしまいました。
そこからも何度かA君に紙粘土を使って遊びに誘い掛けるも、A君は、触りはするもほとんど興味がない様子でした。
ここで、著者は、A君が手をブラブラする一つの原因(〝なぜ″)に対して、手の機能が未発達であるのではないか?といった〝原因仮説″を立てました。
つまり、手の機能が発達していれば、粘土遊びをもっとダイナミックに行うことができるのではないかという考えに基づいています。
もちろん、仮説ですので、正解ではありません(間違っている可能性もあります)。
一方で、〝原因仮説″を立てることは、A君の発達について、さらに深い理解へと繋げていくことができること、さらに、A君の発達に見合ったより質の高い支援へと繋げていける可能性が出てきます。
そして、仮説を立てるためには、A君の様々な情報について、把握することが前提として大切になってきます。
A君の発達の状態像を理解しようといった意識がより強くなると言えます。
原因仮説を考えることの意味について
療育現場で子どもたちと関わっていると、様々な〝なぜ″に出会うことがあります。
子たちが取る行動は一見すると似ていたとしても、行動の背景は異なる場合が多くあります。
そのため、療育的視点(子どもたちそれぞれの状態像を把握・理解すること(→評価)、そして、評価に基づいて仮説を立てていく視点)を活用して、〝原因仮説″を立てていくことが、子どもの理解と支援においてとても大切です。
〝療育的視点″を鍛えていくためにも、発達に関する様々な知識と現場での経験のストック量が必要です。
著書には、ジグソーパズルの例が記載されていますが、先に見たA君の例で言えば、〝なぜA君は手をブラブラさせて喜びを表現するのか?″といった問いに基づき、手の発達に関連する情報(知識・経験)を集めていくことで、A君の手の発達に関する情報がジグソーパズルのように完成されていきます。
そうなると、徐々に、A君が見せる手の動作・運動に関する〝なぜ″の正体が仮説として浮かび上がってくることがあります。
そして、その〝なぜ″に対する仮説、つまり、〝原因仮説″を立てることで、A君の行動・発達をさらに深める視点を獲得していけるのだと思います。
もちろん、〝原因仮説″を含む療育的視点は、子どもに関わる人たちで共有できる有益な視点でもあります(仮説に至る根拠があるため)。
一人の人(スタッフなど)の主観に閉じた理解が続いてしまうと、子どもの発達を客観的に理解することから遠ざかってしまう場合があります。
支援は子どもを支える全ての人によって行われるものだといった共通認識を持ちながら、〝療育的視点″を現場に取り入れていくことはとても大切だと思います。
以上、【発達障害児への療育で大切な療育的視点①】原因仮説を例に考えるについて見てきました。
子どもが見せる様々な行動に対して〝なぜ″の視点を持ち、〝なぜ″の視点を深めていくことで、〝○○ができるようになるためには、その前提として○○の力が必要″といった気づきや理解を深めていくことができます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も子どもの発達に関する知識と経験を学んでいきながら、療育的視点の持つ意味を追求していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「療育的視点について-現場の「なぜ」に応えるために-」
関連記事:「【発達障害児への療育で大切な療育的視点②】支援仮説を例に考える」
木村順(2006)子育てと健康シリーズ㉕:育てにくい子にはわけがある:感覚統合が教えてくれたもの.大月書店.