「〝心の理論″とは、他者の意図、欲求、願望、信念、知識といった心の状態を推論する能力」のことを言います。
自閉症(自閉症スペクトラム障害:ASD)の人たちは、心の理論の獲得に困難さがあると言われています。
そして、自閉症の人たちは、定型発達の人たちと比べると心の理論の獲得時期が遅れることが分かっています。
それでは、自閉症の人たちはどのようなプロセスで他者の心の状態を理解できるようになるのでしょうか?
そこで、今回は、心の理論から見た他者理解のプロセスについて、自閉症を例に考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「子安増生・郷式徹(編)(2016)心の理論 第2世代の研究へ.新曜社.」です。
自閉症児者の他者理解のプロセスについて
著書には、〝誤信念課題″といった心の理論の課題をどのように通過するのかといった内容が〝定型発達児″と〝自閉症″それぞれについて記載されています。
〝定型発達児″においては、①誤信念課題に正答できないレベル→②誤信念課題に正答できるが正答の理由付けができないレベル→③誤信念課題に正答でき理由付けも正答できるレベルの段階があるとされています。
そして、②と③のそれぞれのレベルについて以下のような用語で説明しています。
以下、著書を引用します。
②は、理由は言えないが何となく相手の心が理解できるという直感的心理化(intuitive mentalizing)
③は「◎だから△と考える」という命題による理由づけが可能である命題的心理化(propositional mentalizing)
それでは、〝自閉症″の〝誤信念課題″の通過から他者理解のプロセスについて見ていきます。
以下、著書を引用しながら見ていきます。
知的障害のない自閉スペクトラム症児は、②を示す者がおらず、①から直接的に③へ発達するという、定型発達児とは異なる発達プロセスを示したのです。
著書の内容から、〝自閉症″の他者理解のプロセスは、①誤信念課題に正答できないレベル→③誤信念課題に正答でき理由付けも正答できるレベルという発達経路を辿るということになります。
つまり、②誤信念課題に正答できるが正答の理由付けができないレベルの段階を踏まずに、①から③に移行するといったことが〝定型発達児″との違いとしてあります。
〝定型発達児″では、通常、一次の心の理論を獲得する時期が4~5歳頃と言われています。
一方、〝自閉症児″は、9歳頃と言われています。それも、実年齢が9歳というわけではなく、言語発達年齢が9歳頃だと考えられています。
このことから、〝自閉症″において、言語の発達が他者の心の状態を理解する上で非常に大切だということが言えます。
先に、見た直感的心理化(②のレベル)を通らず、命題的心理化(③のレベル)へと辿る根拠として、〝自閉症″の人たちは、他者の心の状態を直感的に推論しているわけではなく、言語で説明することでロジックによって理解していると考えられます。
こうした他者理解の様子は、著者がこれまで関わってきた自閉症の人たちを見ても該当すると感じることがあります。
例えば、自閉症の人たちは、どちらかというと感覚的・直感的に相手の心を理解しているというよりも、○○の行動の背景には、○○の感情があった、○○の行動意図があった、など言語で置き換えて理解している様子が多く見られるからです。
一方で、直感的心理化による推論も行っていると感じることもありますが、この点については、まだ明らかにされていないブラックボックスになっているところだと思います。
今後、心の理論研究が進んでいく中で、新たな知見が出てくる可能性もあります。
以上、【心の理論から見た他者理解のプロセス】自閉症を例に考えるについて見てきました。
著者は療育現場で自閉症児と関わる機会が多くありますが、彼らと関わっていて感じることは、他者の心の状態に意識を向ける傾向が少ないということ、そして、向けたとしても独自の解釈をしているなどがあります。
そのため、支援において大切にしていることは、他者と何かを一緒に共有していく経験の蓄積、それに合わせて、他者の心の状態を言葉で説明していくことだと思っています。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も自閉症への理解を深めていきながら、様々な知見を現場に応用できる目を養っていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【心の理論から見た他者理解のプロセス】定型発達を例に考える」
子安増生・郷式徹(編)(2016)心の理論 第2世代の研究へ.新曜社.