著者は長年、発達障害など発達に躓きのある子どもたちへの療育をしています。
関わる対象は子どもたちだけではなく、保護者との関わりも多くあります。
様々な保護者との関わりの中で、最近よく耳にする〝カサンドラ症候群″の状態になっていると感じる方もいるように思えます。
また、職場環境に限らず、著者がこれまで関わってきた人たちの中にも、〝カサンドラ症候群″なのではないかと感じる人たちが思いのほか多いことも事実としてあるように思えます。
それでは、〝カサンドラ症候群″とはそもそもどのようなものなのでしょうか?
そこで、今回は、カサンドラ症候群とは何かについて、発達障害児者支援の現場から考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「岡田尊司(2018)カサンドラ症候群 身近な人がアスペルガーだったら.角川新書.」です。
カサンドラ症候群とは何か?
以下、著書を引用しながら〝カサンドラ症候群″とは何かについて見ていきます。
典型的なのは、自閉スペクトラム症(アスペルガー症候群)のために、共感性や情緒的な反応が乏しいパートナーと暮らしている人に起きるものである。配偶者、パートナーだけでなく、子どもや同僚等、その人と深いかかわりを持たざるを得ない人にも同じようなことが起こりうる。
著書の内容から、〝カサンドラ症候群″とは、主にパートナーとの関係において、片方の(あるいは両方の)、共感性の乏しさが原因となって生じる心身の不調のことを指します。
原因となるパートナーの特徴には、アスペルガー症候群などが上げられています。
アスペルガー症候群は少し前の診断であり、現在は自閉スペクトラム症といった名称に変更になっています。
自閉スペクトラム症とは、対人コミュニケーションの困難さやこだわり行動などを主な特徴とした発達障害です。
対人コミュニケーションの困難さの中には、相手の心の状態に目を向けにくい傾向があったり、向けた場合でも心の状態の理解に苦手さが見られます。
そのため、相手との共感的理解を通した関係性構築が困難となる場合があります。
また、著書には、配偶者やパートナー以外にも、子どもや同僚など深い関係性を持つ人たちにも〝カサンドラ症候群″は起こる可能性があるなど、深い人間関係を築く必要がある人たちとの間で生じる症状だと考えられています。
参考までに次に、〝カサンドラ症候群″の診断基準について記載しておきます。
カサンドラ症候群の診断基準について
著書の中では、〝カサンドラ症候群″診断基準の要約として以下3つの視点についての記載があります(以下、著書引用)。
①パートナーの少なくとも一方が、アスペルガー症候群など共感性や情緒的表出の障害を抱えていること、②パートナーとの関係において、情緒的交流の乏しさや、激しい葛藤や不満、虐待などがみられること、③心身の不調があらわれていること、の三つになる。
著者の経験談
著者はこれまで療育現場をはじめ、仕事以外の経験からも〝カサンドラ症候群″について考える機会が多くありました。
中でも、発達障害領域の仕事についたことで〝カサンドラ症候群″についての理解が深まったと思っています(少なくともこの用語に出会うきっかけとなりました)。
著者の経験から言えることは、〝カサンドラ症候群″は改善策を何も講じずに行くと、徐々に悪化していき、結果、想像以上に深刻な症状となって後に現れるものだと感じています。
原因の多くがパートナーのアスペルガー症候群などといった生まれもっての発達特性だとすると(もちろん他の要因なども原因になると考えられていますがここではアスペルガー症候群に的を絞ります)、相手の共感的理解が自然と高まることを期待するには無理があります。
しかし、こうした発達特性についての理解がないとついつい期待してしまいます。
厄介なのは、症状が深刻化すると、深刻化に至るまでのパートナーとの負の経験が蓄積してしまっていること、それに相反する形で原因となっているパートナーは何が原因であるかの認識が希薄なため(なぜ相手が怒っているかなど)、こうした両者のズレが大きくなってしまうことが症状の深刻化の状態として考えられます。
そのため、〝カサンドラ症候群″になっている人から見ると、パートナーから共感的理解を得られなかったというマイナスな経験が積み重なっている状態のため、相手に対して怒りの感情を持ち続けているか(様々な過去のエピソードに基づく)、あるいは、とっくに相手に期待することを諦めてしまっている場合が多いと感じます。
このような状態になっている方は著者の身近にもいるため、〝カサンドラ症候群″の深刻さは見過ごすことができないと実感しています。
以上、【カサンドラ症候群とは何か?】発達障害児者支援の現場から考えるについて見てきました。
発達障害児者支援に携わるようになってから著者はだいぶ経ちますが、それでも〝カサンドラ症候群″といった名称を聞き、その実態の深刻さを痛感できるようになったのはここ最近のことです。
振り返って見ると、療育で関わった保護者の中に、そして仕事以外の関わりで出会った人たちの中には、思いのほか〝カサンドラ症候群″で苦しんでいる人たちが多いのではないかと感じるようになりました。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も〝カサンドラ症候群″への理解を深めていきながら、自分ができる保護者支援の在り方を見つめていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
岡田尊司(2018)カサンドラ症候群 身近な人がアスペルガーだったら.角川新書.