発達理解・発達支援・ブログ

人間の多様な理解と支援を目指して!

治療 発達障害

【発達障害の治療について】○○療法以上に重要な理解と共感を通して考える

投稿日:2022年6月2日 更新日:

 

発達障害の治療には様々なものがあります。

治療する上で重要なのが問題を見極めることです。

そして、その問題が生物学的要因か?心理学的要因か?社会的要因か?を見分けることがその後の治療(支援)においてとても大切な視点になります。

 

関連記事:「発達障害の治療について-生物学的・心理学的・社会的の3視点から考える-

 

それでは、問題が心理学的要因の場合には○○療法といったアプローチが有効なのでしょうか?

 

今回は、発達障害の治療について、心理学的要因へのアプローチとして理解と共感の重要性について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながらお伝えします。

 

※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。

 

 

今回、参照する資料は「本田秀夫(2013)子どもから大人への発達精神医学:自閉症スペクトラム・ADHD・知的障害の基礎と実践.金剛出版.」です。

 

 

スポンサーリンク

 

 

【発達障害の治療について】○○療法以上に重要な理解と共感を通して考える

著書の中では、心理学的要因への対応として以下の視点の重要性を述べています(以下、引用)。

「何とか療法」を正式に習得していなくても適切な治療は十分可能である場合が多いとすら思っている。

 

本人の心理学的要因の比重が大きい場合が心理療法の対象となるのであるが、この場合も、「何とか療法」を安易に採択する前にやれること、やらねばならないことはある。なかでも最も重要なのが「理解と共感」である。

 

著書の内容から、発達障害の治療として、心理学的要因の影響が強い場合には、○○療法を選択する以前にやれることがあり、そのために重要なのが「理解と共感」ということになります。

○○療法といった何か特別な技術を習得し実践する以前に、非常にシンプルではありますが、「理解と共感」という視点がとても大切だということです。

しかし、この「理解と共感」は言葉にすると単純そうですが、実際に行おうとすると非常に難しく、かつ、重要だという部分が多く出てきます。

 

 


それでは、以下に著者の療育経験を踏まえて「理解と共感」からのアプローチについて深堀していきたいと思います。

 

著者の経験談

著者は児童発達支援センターや放課後等デイサービスなどで、発達に躓きのある子どもたちの支援に携わっています。

その中で、難しいケースも多くあります。

今回は、当時未就学だった、ほとんど発語のない重度の自閉症のAさんとの関わりを取り上げたいと思います。

Aさんとの関係づくりはとても苦慮しました。

Aさんとの関係づくりで大切だと実感したことは、Aさんの興味関心を理解することでした。

Aさんの好きなことは、絵本や紙芝居などのある特定のページやフレーズなどでした。

○○の本が好きというわかりやすいものではなく、○○の本の○○の箇所といった非常に限定された部分でした。

しかも、読み方やイントネーションなどにもこだわりがありました。

Aさんとの関係が少しずつできてきたのはこうした細かな部分への興味に著者が気づいたことが始まりだったと思います。

こうした興味関心からの関わりを、試行錯誤を繰り返しながら深めていく中で、次第に興味関心をベースに共感できたという体験が増えていきました。

こうした体験の蓄積が信頼へと繋がります。

Aさんとの療育経験を振り返って見て思うのは、関係づくりの難しさを背景に持つ人に対して(心理学的要因の一つ)、○○療法といった何か特別な技法を活用しなくても、日々の関わりの中で、相手の行動や意図を理解しようと努力しながら、共感できたという経験を多く持つことが、関係づくりには重要であると実感することができました。

「理解と共感」は、相手の世界を深く知ろうとする過程の中で深まり、理解していく過程において共感も多く生じるのだと思います。

こうして相手のことを深く知ろうという行為が、発達障害領域において非常に大切なことだと思います。

 

もちろん○○療法といった専門技術が悪いわけではありません。

重要なのは、何か特別な技術を活用しなくても、発達障害の治療としては有効である場合が多くあるということです。

今後も多様な発達を理解していきながら、個々に応じた支援ができるように実践からの学びを大切にしていきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

本田秀夫(2013)子どもから大人への発達精神医学:自閉症スペクトラム・ADHD・知的障害の基礎と実践.金剛出版.

スポンサーリンク

-治療, 発達障害

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

【発達障害の発症の頻度と重複(併存)について】療育経験を通して考える

  発達障害(神経発達障害)には、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠如多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)、発達性協調運動障害(DCD)、知的障害(ID)など様々な症状が含まれてい …

【発達障害児が大人の注意を理解していく過程】療育経験を通して考える

  療育現場で子どもたちと関わっていると、子どもたちの問題行動(問題とされている)に頭を悩ませる場合が多くあります。 例えば、自分の思い通りにいかないと癇癪を起こしたり、他児を叩くなど、私が …

子供たちが複雑な環境に身をおくことの意味:発達支援の現場からポジティブに考える

私が現在働いている事業所には、発達につまずきを抱える子供たちが来ています。 子供たちの状態像も様々で、自閉症、ADHD、知的障害、ダウン症やそれらが重複したケースなど実に多様です。また、年齢層も1~6 …

発達障害の生きづらさを考える:少しのズレが大きなズレを生む

発達障害の方の中には一見何が障害なのか?なぜ困っているのか?など周囲からわかりにくいタイプの方々がいます。 そういった方の中には、診断がついていないが発達障害傾向のある場合など、ある特性が目立つタイプ …

発達障害の早期発見・早期支援について考える

発達障害への認識が社会の中に広がり、多くの人たちがその内実について知る機会が多くなっています。 ご家庭での気づきや周囲の人からの指摘もあり、自分の子供が発達障害の疑いがあるのではと心配される人も多いか …