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【自閉症児への支援】ソーシャルシンキングを例に考える

投稿日:2024年2月15日 更新日:

 

自閉症(自閉症スペクトラム障害:ASD)の人たちは、〝暗黙のルール″を苦手としています。

暗黙のルール″とは、他者との距離感や人が話している時は静かに聞く、など多くの人が自然と身につけているルールのことを指します。

自閉症の人たちへの〝暗黙のルール″の苦手さをサポートする方法として、〝ソーシャルストーリー″の技法があります。

 

関連記事:「【自閉症への支援】ソーシャルストーリーを例に考える

 

一方で、〝ソーシャルストーリー″には限界があると言われており、その限界を越える支援方法として〝ソーシャルシンキング″があります。

 

それでは、ソーシャルシンキングとは一体どのような支援方法なのでしょうか?

 

そこで、今回は、自閉症児への支援について、ソーシャルシンキングを例に理解を深めていきたいと思います。

 

※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。

 

 

今回参照する資料は「藤野博(編)(2016)ハンディシリーズ 発達障害支援・特別支援教育ナビ 発達障害のある子の社会性とコミュニケーションの支援.金子書房.」です。

 

 

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ソーシャルストーリーの限界について

ソーシャルストーリー″とは、自閉症の人たちが課題となる場面(暗黙のルールに関する内容など)を想定して、問題解決への対応方法を言葉やイラストなど視覚的方法で支援する手法です。

しかし、〝ソーシャルストーリー″には限界があると考えられています。

 

以下、著書を引用しながら見ていきます。

しかし、社会的状況は多様で流動的であり、ひとつの見本がいつでもぴったりあてはまるわけではない。

 

「ソーシャルシンキング」は、社会的場面の意味や力学を当事者自身が考え解き明かしていく点で、ソーシャルストーリーの限界を超える試みとして注目される。

 

ソーシャルストーリー″は、○○の場面には○○の方法、○○の場面では○○さんは○○のように思っているなど、限定した状態・場面を取り上げ、その中での対応方法などが載っています。

しかし、著書にあるように、私たちの社会生活は目まぐるしく変化するため、ソーシャルストーリーの見本がいつも社会生活の文脈に当てはまるわけではありません。

例えば、〝人には挨拶をする″ことを学んだ子どもが場面や状況を考えずに、手当たり次第に挨拶をしていては場合によっては困ることも出てくるかと思います。

このような事態への改善方法として〝ソーシャルシンキング″があります。

 

 

ソーシャルシンキングとは何か?

以下、著書を引用しながら見ていきます。

ソーシャルシンキングとは、人が他者と関わる際にどのようにふるまうべきかについて考えることであり、また、自分自身のふるまい方に他者が与える影響、自身の言動に対する他者の応答、および自分自身の感情、について考えることとされている。

 

著書の内容から、ソーシャルシンキング(Social Thinking:対人的思考)とは、相手の意図や心情を理解し、状況に応じた行動を考え導きだすための方法だと言えます。

ソーシャルシンキングに関する教材は、幼児から成人まで数多く出版されています。

著書には、〝きみはソーシャル探偵!″といった教材が紹介されています。

 

 

ソーシャルシンキングとソーシャルスキルの違いについて

ソーシャルスキルの力を獲得するための手法で有名なものとして、〝ソーシャルスキルトレーニング″があります。

〝ソーシャルスキルトレーニング″を学ぶことで、ソーシャルスキルの技能を高めることも大切ですが、先ほど述べた通り、ソーシャルスキルは時と場合によって、引き出すスキル、使い分けるスキルが異なります。

つまり、目まぐるしく変化する対人関係の中で、スキルの汎用性が重要になります。

 

この点に関して、ソーシャルシンキングとソーシャルスキルの違いから見ていきます(以下、著書引用)。

つまり、ソーシャルシンキングは、身につけたソーシャルスキルを適切に発揮するための前提となるものなのである。

 

著書にあるように、ソーシャルスキルトレーニングによって獲得したソーシャルスキルをうまく発揮するためには、その前提として、ソーシャルシンキングが重要だということです。

場面や状況に応じてソーシャルスキルを適切に発揮するためには、その前提となる対人関係という文脈の理解が大切になり、その意味でも、ソーシャルシンキングはその点を学ぶ上で最適な技法だと言えるのかもしれません。

 

 


以上、【自閉症児への支援】ソーシャルシンキングを例に考えるについて見てきました。

ソーシャルシンキングは、日本ではあまり聞かないものかもしれませんが、全米では特別支援の領域で多く活用されています。

そのため、今後、日本でも普及・発展していく可能性があります。

私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も日々関わる子どもたちの社会性を伸ばしていけるように、ソーシャルシンキングをはじめ様々な技法についても学びを深めていきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 

関連記事:「【〝社会性″と〝ソーシャルスキルトレーニング(SST)″の関係】療育経験を通して大切な視点について考える

 

 


〝ソーシャルスキルシンキング″に関する書籍を以下に載せます。

もし気になるものがあればチェックしてみてください!


 


 

 

 

藤野博(編)(2016)ハンディシリーズ 発達障害支援・特別支援教育ナビ 発達障害のある子の社会性とコミュニケーションの支援.金子書房.

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-ソーシャルシンキング, 自閉症

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