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【自閉症(ASD)は治るのか?】自閉症(ASD)の治療と支援について考える

投稿日:2022年6月16日 更新日:

 

自閉症(自閉症スペクトラム障害:ASD)とは、対人・コミュニケーションの困難さと限定的興味と反復的(常同)行動を主な特徴としています。

ASDには、様々な治療や支援方法があります。

例えば、認知行動療法、ペアレントトレーニング、ソーシャルスキルトレーニング、構造化などが有名です。

 

それでは、こうした治療や支援によってASDは治るのでしょうか?

 

今回は、著者の療育経験も踏まえて、ASDの治療と支援について考えていきたいと思います。

 

※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。

 

 

今回、参照する資料は「大島郁葉(編)大島郁葉・鈴木香苗(著)(2019)事例でわかる思春期・おとなの自閉スペクトラム症:当事者・家族の自己理解ガイド.金剛出版.」です。

 

 

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【自閉症(ASD)は治るのか?】自閉症(ASD)の治療と支援について考える

以下、著書を引用します。

自閉スペクトラム症には、今のところ、自閉特性そのものをなくす治療法はありません。(略)自閉スペクトラム症の症状は、日常生活のさまざまな場面で、「困ったこと」として現れます。この状態は、自閉スペクトラム(AS)の特性にDisorderが加わったASDの状態と言えるでしょう。一方、自閉スペクトラム症の支援では、自分に合った、困ったことへの対応の仕方を見つけることを指します。

著書の内容を踏まえると、そもそも自閉症の特性自体をなくす治療はなく、ASにD(Disorder)が加わった状態において、個々に応じた支援方法を見つけていくことが重要だと言えます。

Disorder(障害)が加わることは、つまり、日常生活において困り感が持続的に生じていることを言います。それも、自分の力で打開が難しい状態です。

つまり、ASDのDがない状態のAS(自閉スペクトラム)は、自閉の特性がある状態であるため、これだけでは障害とはなりません。

むしろ、自閉特性は場合によっては強みとして活きることが多いにあります。

 

引き続き著書を引用します。

支援について解説するにあたり、わたしたちが最も大切にしている考え方があります。それは、自閉スペクトラム症の治療や支援の目標は、自閉特性をなくすことではないということです。自閉特性をもちながら、必要なサポートを周りから受け、豊かな生活を送ることが目標になるのです。

著書の内容から、ASDの治療や支援は、特性をなくすことではなく、特性の強みを活かすこと、また、苦手な面を周囲の力をかりながら自律的に楽しく人生を送ることが大切な目標になると言えます。

そのため、治療や支援によって、特性をなくすことを狙いとするのではなく、特性の強みや弱みを本人と周囲が理解していくなかで、特性への配慮や日常生活の困り感をサポートを受けることがとても大切だと言えます。

 

 


それでは次に著者の体験談も踏まえて、ASDの治療や支援についてお伝えします。

 

著者の体験談

著者は長年、療育現場でASDなど発達障害のあるお子さんたちと関わってきました。

その中で感じたことは、特性は時に大きな強みになること、特性があっても豊かな人生が送れるという実感です。

ASの特性は、時に強まったり弱まったりしながらも、なくなることはありません。

なくなるというよりかは、特性との付き合い方がうまくなっていくという印象です。

ASの特性があると、何か興味のあることに没頭したり、そうした興味関心から世界が広がるお子さんも多くいます。

何か興味のあることが見つかり、その興味に没頭している姿や表情はとても生き生きとしています。

何かに没頭する力はASの人の得意な能力の一つだと思います。

こうした興味が将来的に仕事に繋がることもありますし、趣味になることもあるかと思います。

著者は、子どもたちのASの特性を大事にしていきながら、生活の中での困り感や最低限社会の中で生きていくための力をつけるサポートを心掛けています。

そのため、ASDの治療や支援として、何か特別なことをしているという実感はあまりありません。

それよりも、日々の生活を支える、困ったことを既存の社会の枠を一度外して一緒に悩み考えるように心掛けています。

 

関連記事:「自閉症療育で大切な視点-社会参加に必要な能力:「自律スキル」と「ソーシャルスキル」-

 

 


以上、ASDの治療や支援についてお伝えしてきました。

発達障害は、個人の生物学的要因から生じている要素もありますが、社会が作りだしている要素も大いにあります。

私自身、既存の社会の枠やルールなどが当たり前に正しいこと、常識などとは思わずに、常に物事を疑う習慣を持ち続けていきたいと思います。

これまでの当たり前、みんなんの当たり前は、ある個人において当たり前ではないからです。

今後も、より良い発達理解と発達支援を目指して日々の実践から多くの疑問を見つけていきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

関連記事:「ASDの治療について-有効な治療は何か?-

関連記事:「ASD特性への配慮の重要性について-青年期・成人期を見据えて-

 

大島郁葉(編)大島郁葉・鈴木香苗(著)(2019)事例でわかる思春期・おとなの自閉スペクトラム症:当事者・家族の自己理解ガイド.金剛出版.

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