知的障害とは、知的水準が全体的な発達よりも低く、かつ、社会適応上問題がある状態のことを言います。
最近では、知能指数よりも社会適応上の問題といった観点から捉えられる傾向が強くなっています。
関連記事:「知的障害と発達障害の違いについて」 「境界知能とは何か?療育現場の実体験を通して考える」
知的障害の方は、全体的な発達がゆっくりであるといった特徴があります。そのため、同年齢よりも様々な面で遅れが見られます。
それでは、全体的な発達がゆっくりであるとは具体的にどのような特徴のことを指すのでしょうか?
そこで、今回は著者の療育経験も交え、知的障害の特徴についてお伝えします。
今回参照する資料は、「徳田克己・水野智美(監修)(2020)健康ライブラリーイラスト版:知的障害/発達障害のある子の育て方.講談社.」です。
以下、著書を引用しながら様々な特徴について説明していきます。
①言葉の遅れ
多かれ少なかれ、知的な発達に遅れがある子どもには言葉の遅れがみられます。聞いてわかる言葉(理解言語)が増えるのに時間がかかり、意味のある言葉を話し出す時期も遅れます。
知的に遅れがあれば、言葉の発達にも遅れが生じることが多くあります。
言葉の遅れは、幼児期の発達相談などで上位にくるなど行動上周囲から気づかれやすいものです。
著者の療育現場でも、知的に遅れがあるお子さんは理解言語や表出言語がゆっくりであるため、説明は短い言葉でその子の発達に合った(理解できる)水準での伝えを大切にしています。
少しずつですが、言葉の発達も療育などを通して年々伸びているお子さんも多くおります。
②記憶することが苦手
一度にたくさんのことは覚えられません。一つのことでも、一度聞いただけではすぐに忘れてしまいがちです。
記憶量には限りあります。知的に遅れがあると、記憶の容量にも制約を受けることが多くあります。
著者の療育現場でも、知的に遅れがあるお子さんは、特に、一度に複数のことを話すと混乱したり、すぐに忘れてしまうことがよく見られます。
そのため、記憶の苦手さを補う支援が重要です。
例えば、口頭では短く伝える、複数の内容の伝えはできるだけ避ける、また、視覚的なメモなどを活用し記憶を補う取り組みも必要です。
生活経験が増してくると、その繰り返しで定着してくることが多いため、普段のルーティン活動は重要だと思います。
関連記事:「知的障害児の理解と支援-療育経験を通して「記憶」の面から考える-」
③抽象的理解が難しい
今、目の前にあるものや、具体的なものを認識することはできますが、見えないもの、抽象的なことは理解しにくくなります。
抽象概念の理解とは、例えば、“くるま”を例にした場合、“軽自動車”などのサイズの違い、“赤いくるま”などの色の違いといったように、共通性や類似性、差異性などを理解することです。
著者の療育現場でも、知的に遅れがあるお子さんには、抽象的な理解がなかなかうまくできない子が多くおります。
そのため、具体物などで伝えるようにしています。例えば、工作を遊びで○○を作りたいと子どもが言ってきたときに、言葉で○○のイメージを伝えながら、写真や絵に描くなど視覚的な伝えを示すことでより具体的なイメージが付きやすくなります。
④自分で考えて行動することが難しい
状況を理解し、目的に合った行動がなにかを判断しにくいため、今、なにをすればよいかわからないことが多くあります。とくに初めてのこと、いつもと違うことにはとまどいが大きくなります。
知的に遅れがあるお子さんたちは、繰り返し取り組んだことには力を発揮できる場面が多くあります。
一方、普段と違う場面や内容にはとても敏感です。関わるスタッフの違い、遊ぶ環境の違いなどに不安感を抱くことが療育現場でもよく見られます。
そのため、できるだけ安心できるいつもと同じ環境を整える中で、選択肢を与えて自分で選び成功したといった、小さな成功経験を重ねていくことが、自分で判断し行動していくためには大切だと感じます。
⑤飽きることが多い
集中力が続きません。理解する力の弱さも影響します。
飽きるということはよくあります。何か活動をしても長く集中することが難しいため、手持ち無沙汰になる様子がよくあります。
そのため、著者の療育現場では、短い時間である程度集中して取り組める活動内容を考えたり、それらを複数組み合わせたり、短い時間でも本人の“できた”、“楽しかった”を生み出せるように関わりや環境を工夫しています。
⑥理解に時間がかかる
言葉の理解が不十分であることが影響します。
前述した言葉の発達の遅や記憶の容量などとも関連しています。
著者の療育現場では、知的に遅れがあるお子さんには、理解に時間がかかるといった印象がありますが、長い年月をかけて関わる中で着実に理解する力が高まっているといった実感があります。
⑦その他
おむつがとれない 筋力の発達がゆっくり 太りやすい 痛みや暑さ・寒さなどの感覚が鈍い 手先が不器用 運動が苦手
その他で取り上げたものの中で、特に著者の療育現場で目立つのが、感覚と運動の問題です。
感覚の過敏や鈍感さ、そして、全身運動や細かな手先の不器用さが目立つ事例もよく目にします。
感覚面に関しては、感覚統合理論が役立ちます。
そして、運動面に関しては、これも時間をかけて日々の生活の中で練習していく中でその能力は着実に高まっていくといった実感があります。
練習の中で大切なことは、本人が楽しんで取り組めるようなものを選ぶことがとても大切だと思います。つまり、体を使うことが楽しいと思えることです。
以上、知的障害の特徴についてお伝えしてきました。
知的障害の方は、全般的な発達がゆっくりであるため、様々なところに躓きが見られます。
しかし、日々の生活の中でそこ子に合った関わりや環境を設定することで、着実にできることが増えていきます。
大切なことは、不確定要素をできるだけ作らず、安心感のある環境の中で体験からの学びを大切にすることだと思います。
私自身、まだまだ知的障害の理解が未熟ですが、今後も様々な発達の要素を理解していきながら、質の高い療育を目指していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
徳田克己・水野智美(監修)(2020)健康ライブラリーイラスト版:知的障害/発達障害のある子の育て方.講談社.