知能は正常でありながらも、読み書きに障害がある人たちのことをディスレクシアと言います。
ディスレクシアについては、「ディスレクシアとは何か?:読み書きに困難のある人たちについて考える」を参照して下さい。
読み書きに障害があると、学習での困難さは当然として、日常生活や社会生活など様々な大変さが生じることが考えられます。それは、生活場面の多くで、読んだり・書いたりの必要性が多くあるからです。
その一方で、これまで紙ベースで行っていた仕事もパソコンやタブレットの活用などデジタル化が加速しています。それにより、これまで読み書きに困難さを抱えていた人たちも、こうしたテクノロジーを活用することで生きやすくなってきていると感じます。
私自身、ディスレクシア傾向があるため、日々の生活でテクノロジーを活用することで、学習や仕事などがだいぶ楽になり、本来行いたい活動や、やるべきタスクがだいぶ進むようになりました。
ディスレクシアがあると、一見すると仕事に不利に働くという印象がありますが、ディスレクシアの苦手さをテクノロジーの活用やソーシャルサポートなどで補うことで、むしろ強みが浮き出てくることがあると感じます。
私自身、定型の方とは異なる苦手さがある一方で強みもあると思っています。それは、後々振り返るとディスレクシアだからこその強みであったと思います。
ディスレクシアにも様々な強みがあると言われています。中でも、「空間把握能力」「相互関係性把握能力」「物語理解能力」「シミュレーション能力」といった4つの強みがあると考えられています。
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今回は、ディスレクシアの強みを活かした仕事を紹介していきたいと思います。
今回参考にする資料として、「ブロック・L・アイディ/ファーネット・F・アイディ(著)藤堂英子(監訳)辻佑子・成田あゆみ(訳)(2021)ディスレクシアだから大丈夫!視点を変えると見えてくる特異性と才能.金子書房.」を取り上げていきます。
ディスレクシアの4つの強みについて
はじめに、ディスレクシアの4つの強みを列挙します。
①空間把握能力(Material reasoning):物理的あるいは物質的な世界について把握する能力。つまり、空間内における物、サイズ、動き、位置関係、向き、物体が互いにどう連携するかを把握する能力。
②相互関係性把握能力(Interconnected reasoning):複数のモノや概念、視点などの関係性を見つけることのできる並外れた能力。
③物語理解能力(Narrative reasoning):過去の個人的経験の断片(エピソード記憶)を繋ぎ合わせ「脳内シーン」を構築する能力。
④シミュレーション能力(Dynamic reasoning):エピソードのシミュレーションをもとに、過去や未来を正確に予測する力。
次に、それぞれの4つの強みに適した仕事について紹介していきます。
空間把握能力
①<空間把握能力>の強さを生かした仕事
エンジニア、整備士、建設(電気設備、大工、配管工、建設業者)、数学者、インテリアデザイナー、工業デザイナー、イラストレーター、グラフィック・アーティスト、グラフィック・デザイナー、建築士、医師(外科、放射線科、病理学、心臓病学)、画家、彫刻家、写真家、映画制作者、ディレクター、公園・造園技師/庭師、航海士、パイロット、歯科医、矯正歯科医、歯科衛生士
相互関係把握能力
②<相互関係性把握能力>の強さを生かした仕事
コンピューター/ソフトウェア・デザイナー(ネットワーク、プログラミング、システム・アーキテクチャ)、科学者(動物学、生化学、遺伝学、化学、環境学、地学、恐竜学、物理学、天文学、宇宙物理学)、自然保護活動家、環境活動家、発明家、美術館/博物館のディレクター、ファッション・デザイナー、仕立・縫製職人、舞踏家、振付師、ミュージシャン、俳優、シェフ、歴史学者、政治学者、社会学者、人類学者、哲学者、コメディアン、看護師、施術者、作業療法士、スポーツセラピスト、トレーナー
物語理解能力
③<物語理解能力>の強さを生かした仕事
詩人、作詞・作曲家、小説家、文学者、ジャーナリスト、脚本家、カウンセラー、心理学者、聖職者、コーチ、教師、演説者・セミナー講師、政治家、ゲームデザイナー、法律家(特に告訴、租税法、被告側弁護士・検察、仲裁)、営業、マーケティング、広告、広報
シミュレーション能力
④<シミュレーション能力>の強さを生かした仕事
起業家、CEO、金融(トレーダー、投資家、ベンチャー・キャピタリスト)、中小企業のオーナー、企業コンサルティング、物流、プランニング、会計(税理士、会計コンサルティング、CFO(最高財務責任者))、経済学(特にマクロ経済学)、医師(免疫学、リウマチ学、内分泌学、腫瘍学)、農場・牧場経営者
以上が、著書の中で紹介されているディスレクシアに向いている仕事になります。
こうした強みはディスレクシアの人の中には、1つあるいは複数存在していると言われています。
著者のコメント
こうして上記の仕事を見ると非常にディスレクシアの強さを生かした仕事が多く存在しているのだと感じます。
ディスレクシアというと、どうしても読み書きができないことによりマイナスのイメージを強く持ってしまうこともあるかと思います。そのため、苦手なことをカバーしながらできる仕事を探すという視点が強くなり、職業選択の幅が狭くなってしまいます。
しかし、著書の中では、ディスレクシアという苦手さがあったために、他の部分が強化され、それが後の進路や仕事に繋がったという成功事例が多く載っています。
なかなか、このようなポジティブな視点からディスレクシアというものを取り上げてものは少ないと思いますので、私の中で価値観の転換が生じました。
ディスレクシアの人たちは、定型の方とは異なる脳をしているため、学び方も異なると言われています。大切なことは、ディスレクシアの苦手さばかりに焦点が当たることで、本来秘めている可能性などに議論が及ばないことだと思います。そして、読み書きの苦手さなどから、自己肯定感が低下し、それが将来の可能性を阻害してしまわないようにすることだと思います。
私自身、今後も様々な発達特性を理解していきながら、将来の可能性に繋がるような支援ができるように、日々の療育を大切にしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
ブロック・L・アイディ/ファーネット・F・アイディ(著)藤堂英子(監訳)辻佑子・成田あゆみ(訳)(2021)ディスレクシアだから大丈夫!視点を変えると見えてくる特異性と才能.金子書房.