
自閉スペクトラム症(ASD)には、特徴的な物の見方・捉え方があると考えられています。
自閉スペクトラム症に見られる特徴的な物の見方・捉え方を深く理解する用語として〝学習スタイル″があります。
それでは、自閉スペクトラム症にはどのような物の見方・捉え方をしているのでしょうか?
そこで、今回は、自閉スペクトラム症(ASD)の学習スタイルについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、5つの特徴を通して理解を深めていきたいと思います。
※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。
今回参考にする資料は「内山登紀夫(2025)児童発達支援・放課後等デイサービスのための発達障害支援の基本.日本評論社.」です。
【自閉スペクトラム症(ASD)の学習スタイル】5つの特徴から考える
ここではまず〝学習スタイル″とは何かついて見ていきながら、次に、自閉スペクトラム症に見られる5つの〝学習スタイル″の特徴について見ていきます。
〝学習スタイル″とは何か?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
「物事を理解したり記憶したりして、現実に応用する方法」「物事の理解のスタイルや癖」
〝学習スタイル″にも様々な定義があると言われていますが、著書の内容を踏まえると〝物事の理解や記憶のスタイル″だと言えます。
例えば、外界の情報を捉える際に、文字情報を得意とする人もいれば、音声情報を得意とするなどの違いがあります。
また、物事の全体像を最初に理解した方が内容の理解が進む人もいれば、一つずつ順を追って継次的に処理した方が内容の理解が進む人もいます。
こうした認知(理解・記憶)の違いは人によって異なります。
そして、自閉スペクトラム症(ASD)の人たちには、ある程度、共通した〝学習スタイル″があると考えられています。
ここから先は、自閉スペクトラム症が一般的に苦手とする〝学習スタイル″について、5つの特徴を上げて見ていきます。
苦手とする〝学習スタイル″を理解することで、自閉スペクトラム症の人に関わる支援者はどのような支援や配慮をしていけば良いかの手立てを得ることができます。
自閉スペクトラム症の〝学習スタイル″の5つの特徴
著書には、自閉スペクトラム症の人たちが苦手とする5つの〝学習スタイル″の特徴が記載されています(以下、著書引用)。
暗黙的な学習
聴覚情報の処理(耳から聞いて理解することが苦手)
注意(注意のあり方に特性がある)
実行機能
社会性の認知
それでは、以上の5つの特徴について具体的に見ていきます。
1.暗黙的な学習
以下、著書を引用しながら〝暗黙的な学習″とは何かについて見ていきます。
内部から勉強する、自然に習得されるといった意味合いです
いちいち教えなくても学んでいくこと
著書の内容を踏まえると、〝暗黙的な学習″とは、生活経験を積み重ねていきながら自然と獲得していくものだと言えます。
例えば、状況を見て察する能力や常識などは、人から教えられるというよりも経験則的な学習が強く影響しています。
一方で、〝暗黙的な学習″とは逆の用語に〝明示的な学習″といった学校の勉強や具体的なルールの提示に基づいた学習があります。
ASDの人たちは、〝暗黙的な学習″を苦手としている一方で、〝明示的な学習″を得意としている場合が多いと考えられいます。
そのため、支援の観点として、やるべき行動を具体的に伝える、また、視覚情報を活用して伝えることが有効だと言えます。
2.聴覚情報の処理(耳から聞いて理解することが苦手)
耳から聞いた情報を理解するといった〝聴覚情報の処理の苦手さ″は、ASDの人によく見られる特徴です。
そのため、支援の観点から以下のような支援・配慮が必要です(以下、著書引用)。
短い言葉でゆっくり話しかける
視覚的提示(視覚的支援)
音声理解が苦手なため、音声処理の負荷を減らす必要があります。
そのため、著書にあるように、短い言葉でゆっくりと伝えることが大切です。さらに、絵や文字などできるだけ得意とする視覚情報の活用が有効だと言えます。
3.注意(注意のあり方に特徴がある)
ASDの人の注意の特徴として〝弱い中枢性統合″があります(以下、著書引用)。
強い興味の対象に強く集中し、注意を興味の対象から外して他を見ることが難しく、全体像を見ることが困難です。
森を見ず木を見るといった具合に、物事の細部に着目する傾向、自分の好きな物に注意が向いて離れることが難しくなるなどの注意の特徴(〝弱い中枢性統合″)があります。
例えば、車という全体像を見るより、興味の対象となる車輪に注意が向くなどの特徴があります。
そのため、支援の観点として、必要な情報に注意を向けるために極力不必要な情報を取り除く、または情報量を減らす工夫、視覚情報を活用して注意を切り替えるサポート(1に○○→2に○○などやるべきタスクを継次的に視覚化するなど)が必要だと考えられています。
関連記事:「【自閉症の弱い中枢性統合への支援について】療育経験を通して考える」
4.実行機能
〝実行機能″とは、〝遂行能力″や〝やり遂げる力″と言われています。
実行機能に苦手さを持つASDの人は、特に、〝段取りを立てて実行する力″〝切り替える力″を苦手としています。
そのため、そもそも自分で物事の予定(計画)を立て実行することが難しく、また、必要なことに注意を切り替える難しさがあります(興味の対象に過度に集中するなど)。
そのため、支援の観点として、先の予定を視覚化(スケジュール化)する取り組みが有効だと言えます。
関連記事:「【自閉症の実行機能への支援について】療育経験を通して考える」
5.社会性の認知
〝社会性の認知″とは、〝心の理論″が主に含まれており、ASDの人は心の理論の理解に苦手さがあります。
〝心の理論″とは、「他者の意図、欲求、願望、信念、知識といった心の状態を推論する能力」のことを指します。
例えば、○○さんは自分とは異なる○○の感情・意図を持って行動していることを状況を見て推論できるということです。
こうした推論が難しいと、他者との関わりに困難さが生じます。
そのため、支援の観点として、他者の心情・意図などの心の状態を言語化・視覚化することが有効です。
具体的な方法としては、〝ソーシャルストーリー″や〝ソーシャルシンキング″などのアプローチがあると考えられています。
関連記事:「【自閉症への支援】ソーシャルストーリーを例に考える」
関連記事:「【自閉症児への支援】ソーシャルシンキングを例に考える」
著者の経験談
これまで見てきたASDの5つの〝学習スタイル″の苦手さは、著者がこれまで関わってきたASD児・者において非常によく見られると実感しています。
人は自分と同じように他者も物事を認知していると錯覚することもありますが、特に、ASD児・者と関わっていると、生活上の様々な場面で特徴的な物の見方・捉え方をしていることに気づかされます。
例えば、抽象的・曖昧な指示をすると捉え方が大きくズレること、口頭での伝達をすると伝わっているようで必要な情報が抜け落ちていること、気になることがあるとそのことに固執して他の情報が入ってこないこと、自ら先の予定を計画的に立てる苦手さがあること、他者の心情を直感的に理解する難しさがよく見られます。
こうした特徴の理解は、ASD児・者と関わる頻度が増えれば増えるほど、実感が深まっていくのだと思います。
かつての著者はASD児・者とそれほど定型発達児・者との間には、物の見方・捉え方はそれほど変わらないと思っていましたが、表面上そう見えていただけで、実際の所は大きく異なるのだと経験からも理論からも納得できるようになっていきました。
以上、【自閉スペクトラム症(ASD)の学習スタイル】5つの特徴から考えるについて見てきました。
ASD児・者は、外界の情報に対して、特徴的な物の見方・捉え方をしています、
そして、特徴的な物の見方・捉え方、つまり、〝学習スタイル″を理解していくことは、ASD児・者に携わる支援者がASD児・者への有効な支援・配慮のヒントを得る大きな手掛かりになると言えます。
私自身まだまだ未熟ではありますが、今後も自閉スペクトラム症の認知の世界を深く探求していきながら、より良い療育を目指していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
自閉スペクトラム症に関するお勧め書籍紹介
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内山登紀夫(2025)児童発達支援・放課後等デイサービスのための発達障害支援の基本.日本評論社.