自閉症児の〝感覚過敏″の問題で思い悩んだことはありませんか?
例えば、強い光が苦手、ツルツル・ザラザラ・ヌルヌルした触感が苦手、大きな音が苦手、特定の味が苦手など様々な過敏さが自閉症児(者)には見られることが分かっています。
それも、普段の日常生活に強く支障が出ることもよくあります。
自閉症児(者)と豊富な関わりのある著者は、自閉症児が持つ感覚過敏の問題で悩むことがよくあります。
そして、かつての著者はどのような支援が有効であるか試行錯誤の状態でした。
今回は、現場経験+理論+書籍の視点から、自閉症児の感覚過敏への支援のヒントをお伝えします。
※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。
目次
1.感覚過敏に関するエピソード
2.感覚過敏を理解する理論・書籍
3.支援の経過と結果
4.まとめ
1.感覚過敏に関するエピソード
今回は、自閉症児のAちゃん(当時、小学校4年生)の放課後等デイサービスでのエピソードを紹介します。
Aちゃんには、様々な感覚過敏の問題が見られていました。
中でも、特定の他児の声を苦手とすることが多く、よく〝うるさい!″と言い、その状態が長期化すると激しい癇癪・パニックを起こすこともよくありました。
放課後等デイサービスでは、様々な子どもたちが同じ建物内で過ごすため、どうしても他児との接触が避けられないことがあります。
また、感覚過敏の問題は、当事者でないと、その苦しみ・辛さの実感が難しいことが多く(可視化できないため)、当時の著者はどのような支援が必要なのか試行錯誤の状態でした。
2.感覚過敏を理解する理論・書籍
自閉症児の感覚過敏の問題の理解と支援に関して苦慮している中で、非常に参考になった書籍があります。
その書籍とは、以下の二つの書籍です。
書籍①「岩永竜一郎(2014)自閉症スペクトラムの子どもの感覚・運動の問題への対処法.東京書籍.」
書籍②「前田智行(2021)子どもの発達障害と感覚統合のコツがわかる本.ソシム.」
まずは、書籍①を通して、感覚の問題(感覚調整障害)には4つのタイプがあることを理解しました。
それは、「低登録」「感覚探求」「感覚過敏」「感覚回避」の4つです。
つまり、〝感覚過敏″は、4つの感覚の問題の中の一つに該当しています。
こうした感覚の問題の全体像を理解することで、自閉症児が持つ、感覚の問題はどこに該当(種類・程度)しているのかといった見当をつけることでより良い支援へと繋げていくことができます。
さらに、著書には、感覚の問題は大人になるにつれて、割合として減っていく傾向があると記載されています(個人差在り、感覚の育ち、対処法の学習などによって)。
そのため、大切なことは、早期から具体的な支援策を考えていくことだと言えます。
次に、書籍②を引用しながら、感覚過敏(感覚回避も含め)に対する基本的な支援のポイントを見ていきます。
感覚過敏は「過剰に入力してしまう」、あるいは「防衛反応が発動している状態」ですので、子ども1人ひとりに刺激量を調整する工夫が必要となります。
識別感覚を優位にする方法です。
識別感覚を活発に働かせると、原始感覚が抑えられ感覚過敏が弱まります。
また、識別感覚は「自己選択」をするときも発動されます。
著書②の引用で大切な視点は、環境調整以外に識別系を育てるといった視点、許容できる感覚を把握して少しずつ感覚を育てていくといった視点(識別系を育てること)だと言えます。
実際、かつての著者は感覚過敏(感覚回避も含め)の問題は、全て苦手な感覚を避けられる・軽減できるような〝環境へのアプローチ″の視点しか持っていませんでした。
一方で、感覚は少しずつではありますが育てることができるといった視点(〝個人へのアプローチ″の視点)を持つことは、とても新しい発見でした!
そのため、著者は長期的な展望を持って、感覚の問題へのアセスメントに加えて、〝環境へのアプローチ″を前提として、そこに〝個人へのアプローチ″を加える支援の視点が重要だと考えるようになっていきました。
3.支援の経過と結果
Aちゃんは、4つの感覚の問題の中で、〝感覚過敏″と〝感覚回避″が非常に強く見られることが分かってきました。
ちなみに、〝感覚過敏″とは、感覚刺激に対する反応が強いことです。
〝感覚回避″とは、感覚刺激に対する反応が強く、感覚刺激から遠ざかる対処行動をとることを指します。
そのため、支援の視点として、まずは〝環境へのアプローチ″、つまり、苦手な音を軽減できる工夫をしていきました。
例えば、個別の外出活動を設ける(ドライブ・散歩など)、個別の空間を整えるなど、極力苦手な他児と距離を遠ざける工夫をしていきました。
さらに、〝個人へのアプローチ″もとっていきました。
例えば、どのような音が苦手であるのかをAちゃん自身と確認したり、それに対して、今どのような解決策があるのかを一緒に考えていくようにしていきました。
こうしたやり取りを進めて行く中で、Aちゃんは、苦手な音に対する悩みを大人に相談しにくる様子が増え(時には紙に書いて伝えてくる)、いつ・どこで・何をして過ごすと安心できるのかが少しずつ分かるようになっていきました。
また、イヤーマフを持参してくるなど、自分でできる対処法なども考えてくるようになりました。
Aちゃんが小学校6年生になる頃には、苦手な音に対する過敏さはだいぶ減少していったように思います。
その結果、関わることのできる他児・同じ空間で過ごせる他児も増えていきました。
大切なことは、苦手な音を軽減できる工夫に加えて、感覚を育てるといった視点を持つことだと思います。
それは、自分自身で感覚刺激をコントロールできるといった経験を積み重ねていくことだとも解釈できます。
時間はかかりますが、Aちゃんのその後の長い人生を考えた場合において、とても価値のある取り組みだと感じています。
4.まとめ
自閉症児(者)には、様々な感覚の問題があります。
まずは、感覚の問題(感覚調整障害)のタイプを理解していく中で、どのような感覚処理をしているのかを把握していく必要があります。
その上で、〝環境へのアプローチ″と〝個人へのアプローチ″の両方の視点を持ちながら支援を継続していくことが重要です。
書籍紹介
今回取り上げた書籍の紹介
- 「岩永竜一郎(2014)自閉症スペクトラムの子どもの感覚・運動の問題への対処法.東京書籍.
- 前田智行(2021)子どもの発達障害と感覚統合のコツがわかる本.ソシム.
感覚統合に関するお勧め書籍紹介
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