医学界においては、知的障害も発達障害(神経発達症)の一部に含まれています。
一方で、日本において、法制度上、両者は別ものとされています。
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発達障害で代表的なものとして、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)、限局性学習症(SLD)などがあります。
知的障害が発達の速度を問題としている一方で、発達障害は発達の質を問題としています。
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それでは、知的障害と発達障害は併存することはあるのでしょうか?
そこで、今回は、知的障害と発達障害は併存するのかについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「本田秀夫(2024)知的障害と発達障害の子どもたち.SB新書.」です。
知的障害と発達障害は併存するのか?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
知的障害と発達障害は、しばしば併存するものなのです。
知的障害がある人のグループでは、一般の人口に比べて、自閉スペクトラム症の特性を持つ人の割合が多いと考えられています。
特に中等度以上の知的障害がある子どもには、自閉スペクトラム症の併存がみられることが多いです。
著書の内容から、知的障害と発達障害は併存することが分かっています。
そして、中でも、知的障害の程度が強いと(特に、中等度以上において)、自閉スペクトラム症が同時に見られる割合が多いと言われています。
また、ADHDにも知的障害は併存すると考えられています。
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著者の療育経験を通して見ても、特に、重度の知的障害児には、自閉スペクトラム症の特徴を有している場合が多いと感じることがあったと言えます。
一方で、療育現場において、障害の併存の視点はまだまだ理解が浸透していないように思います。
そして、障害が併存している場合への対応もまた、今後ますます必要になっていくと考えています。
知的障害と発達障害の併存への対応
以下、著書を引用しながら見ていきます。
知的障害と発達障害のどちらかを優先して支援することはありません。どちらにも同時に対応していきます。
著書の内容から、知的障害と発達障害が併存している場合において、優先順位をつけずに、どちらの特徴についても対応していく必要があると記載されています。
また、一方の特徴が見られる場合には、他の障害が併存していないかどうかも検討していく必要性があるといった記載もあります。
例えば、知的障害がある場合、発達障害の診断がなくてもその可能性も含めて理解・対応していく必要があるということです(逆の場合もあります)。
著者のこれまでの経験を踏まえても、知的障害と発達障害の併存・重複はよく見られるものであり、こうした場合、どちらかの特徴に応じた対応のみでは支援の効果が弱まってしまうと感じています。
例えば、自閉スペクトラム症と診断を受けたAさんには、明らかに境界知能(あるいは軽度知的障害)の特徴がありました。
一方で、Aさんに関わる支援者は、自閉スペクトラム症の対人コミュニケーションの困難さやこだわり行動のみにフォーカスした支援を展開していました。
そのため、Aさんは結果として、偏った支援を受けることになってしまい、境界知能(軽度知的障害)といった本来持っている困り感は残り続けてしまうことになっていきました。
その後、Aさんは知的障害に関する理解と対応を受け始めたことで、徐々に環境にうまく適応していくことができるようになっていきました。
著者は、Aさんのケースを通して、改めて障害の併存・重複への理解と対応はとても大切だと感じるようになりました。
以上、【知的障害と発達障害は併存するのか?】療育経験を通して考えるについて見てきました。
知的障害や発達障害は単独で発症するよりも、併存・重複しているケースの方が多いのではないか?と感じることがあります。
そして、療育に携わる支援者にとって、障害の併存・重複への理解と対応力が今後さらに必要になっていくのだと感じています。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も様々な障害について理解を深めていきながら、障害の併存についても併せて理解を深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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本田秀夫(2024)知的障害と発達障害の子どもたち.SB新書.