療育(発達支援)を長年行っていると、子どもたちの成長を実感する機会に多く出会うことがあります。
こうした出会いは、療育(発達支援)の〝成果″を感じる時でもあります。
もちろん、療育(発達支援)の成果は、複合的な要因が影響していることが多いため、特定の因果関係からは語ることができない難しさがあります。
一方で、〝○○の発達が大きく影響して○○の成果が出た可能性がある″〝○○の支援が大きく影響して○○の成果がでた可能性がある″といった仮説を立てることも可能だと言えます。
そして、長期的な子どもとの関わりを通して、この○○に当てはまるものが徐々に見えてくることがあります。
さらに、多くの事例を通して、仮説の精度を高めていくことが可能になっていきます。
それでは、療育(発達支援)の成果を感じる時として、どのような事例があるのでしょうか?
そこで、今回は、療育(発達支援)の成果について、臨床発達心理士である著者の経験談から、異年齢での遊びの発展をキーワードに理解を深めていきたいと思います。
【療育(発達支援)の成果】異年齢での遊びの発展をキーワードに考える
事例:小学校高学年のA君(当時)
A君は4年生の頃に著者が勤める事業所に通所を始めた子どもです。
A君の当時の印象として、物静か、自己の発信が少ない、他児との交流が少ない、といったイメージがありました。
また、どちらかと言えば、自分よりも年上の子どもについていく様子が多いことから、リーダー(高学年生)として周囲を引っ張っていくよりも、リーダーについて行くことが多くありました。
一方で、A君には、年下を思いやる優しさが時折見られることもありました。
そして、A君が高学年になるにつれて、その様子は増えていきました。
しかし、A君は、最高学年(6年生)になると、これまで引っ張っていた高学年児童が卒業したことで、事業所に来るモチベーションが徐々に低下する様子も見られていました。
著者は、様々な年齢層が関わる事業所において、A君の持ち味が発揮する方法を考えていきました。
それでは、次に、異年齢での遊びの発展をキーワードに支援の経過をお伝えしていきます。
異年齢での遊びの発展に対する支援から見たA君の変化
著者は様々な遊びの中で、A君を集団遊びに引き寄せる声掛けをしていきました。
A君は集団遊び(異年齢集団)を通して、楽しい経験・成功経験を積み上げていきました。
その中で、遊びの内容ややり方を年下の子どもに丁寧に優しく伝える様子も増えていきました。
そのようなA君の様子を見て、著者は即座に肯定的なフィードバックをしていきました。
もちとん、年下の子どもから見ても、A君の存在は優しいお兄さんといったイメージが定着していったのだと思います。
A君は、徐々に年下の子どもと関わることに楽しさを見出していきました。
それは、ごっこ遊びやルール遊びで年下の子どもに遊びの説明を自発的にするようになったり、普段の活動の中で世話をする様子が増えていったからことらも、そう感じることができます。
こうした変化は、おそらく、A君が元々持っていた世話好きな性格に加えて、これまでA君が年上の子どもたちの背中を見て学んだことを、今度はA君自身も行えるようになったのだと思います。
まさに、異年齢での遊びの良さは、年上から年下の子どもに、遊び方などの知識や情報の継承・伝承にあるのだと言えます。
もちろん、A君は、同年齢との関わりもさらに強固に築いていくことができました。
6年生になり、リーダー的存在になってきたA君は、自己を主張する頻度も増えていきました。
また、集団内で問題が生じると、解決策を考える提案までする様子も見られることが出てきました。
異年齢での遊びが発展していく中で、異年齢集団における自分の役割を認識したり、年齢も含めて、自分とは異なる考えを持つ様々な人がいることを学ぶことができていった様子もあります。
例えば、○○君はまだ1年生だから難しいかもしれない、○○君は○○したいと思っているかもしれない、など、年齢も含めて他児の持つ力、また、他児の行動の背景を推測する様子も増えていきました。
そして、A君は、様々な他児との多様な遊びに楽しさを感じることができるようになったこともあり、事業所に来る動機がとても高まっていきました。
著者は、まずは、事業所がA君にとって安全・安心感が持てる場所になっていることを前提に、年齢を超えた様々な他児が交流することに大きな意味・価値があるといった実感が日に日に高まっていきました。
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以上、【療育(発達支援)の成果】異年齢での遊びの発展をキーワードに考えるについて見てきました。
以前と比べて現在は、地域社会が衰退していく中で、様々な年齢層が交流する機会が減ってきているだと思います。
それは、様々な年齢層が関わることから、多くの学びを得る機会の喪失に繋がっているとも言い換えることができます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も異年齢集団の遊びの意味・価値について、療育での実践を通して学びを深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。