自閉症への療育には様々な考え方があります。
著者自身、子どもたちや保護者との関わりから療育内容を考えることが多くあります。
子どもたちとの関わりで大切なことは、短期間というより、長期の関わりから見えてくることが多くあります。また、保護者にも色々な方がおり、考え方や育児スタイルも多様であると感じます。
保護者の中には、お子さんに様々な体験を重ねていけるように、できるだけ早期に様々な機関と繋がりを持ち、熱心に取り組んでいる方もいます。
また、どのような機関に繋がれば良いのか迷っている方、繋がってはいるがうまくいかないことが多く不安感が強い方もたくさんおります。
こうした中で、多くの方に共通していると感じるものに将来の育ちを考えた際に、今何が必要なのか、どのような支援方法(育児方法)が必要なのか?といった、将来を見据えての療育内容(育児内容)かと思います。
これは、著者が子どもたちと関わる時にも非常によく考えることです。
つまり、将来の発達がより豊かになるようにどのような支援が子どもたちに必要なのかということです。
そこで、今回は、著者の経験も踏まえ、自閉症の療育で大切なトップダウンの支援についてお伝えします。
今回、参照する資料は、「本田秀夫(2013)自閉症スペクトラム:10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体.SB新書.」です。
トップダウンの支援について
以下に著書を引用します。
自閉症スペクトラムの子どもを育てるときに、2通りの考え方があります。1つは、少しでも標準的な発達に近づけたい、発達を伸ばしたいという、いわゆる「ボトムアップ」的な考え方。それに対して、もう完全に普通にはならないから、できることをしっかり保障して、できないことは無理しないでおこうという、補完的なアプローチがあります。これは「トップダウン」的な考え方です。
著書の内容から、「ボトムアップ」の考え方は、標準的な発達に近づけるために地道にその力を伸ばすこと、「トップダウン」の考え方は、できることとできないところの両方を理解していきながら、できる力を伸ばし、できないところを補助していくという考え方の違いになります。
著者も療育現場で、保護者との関わりから、できるだけ標準的な発達に近づいて欲しいと希望されている方もいますし、一方で、発達の凸凹を理解した前提で、将来を見据えて今何が必要かを考えている方もおります。
私自身、こうした様々な保護者の気持ちを受け止めながら、今できることを精一杯取り組むことを大切にしています。
引き続き、以下に著書を引用します。
幼児期から成人期までフォローアップしてきた専門家の立場から見ると、先が見えていない闇雲なボトムアップ・アプローチは、とても危険です。(略)
トップダウンで育児すること、そして将来の到達点の目安を低めに設定しておくこと。このようなトップダウンの育児論で支援を受けてきた子どもたちが、成人期に最も充実した生活を送れています。
著書の内容から、大切な視点として、何でも計画なく闇雲に取り組むのではなく、ある程度の目標を持って支援を受けるというトップダウンの支援が大切だということです。そして、目標を低めに設定することも重要です。
著者が、療育現場で大変だと感じるのは、少し先の将来を予測しようにもできないケースです。こうしたケースでも、様々なスタッフと将来を見通しながら目標を設定することで、少しずつ取り組みが進むことがあります。
それでは、次に、著者がトップダウンの支援の考え方の重要性を感じた経験をお伝えします。
著者の経験談
小学校高学年のA君の事例です。
私が療育現場を通して、非常に大変だと感じたケースになります。
もちろん私だけではなく、他のスタッフも同様に困難さを抱えていました。何が大変かというと、様々な取り組みをするもその効果が全く見られないということです。
少し進捗したかと思うと、後退するの繰り返しでした。
当時を振り返っての反省点は、A君に対して、目標設定が高かったことと、対応するスタッフでの考え方に相違があったことだと思います。
つまり、スタッフ間で共通した目標設定がされておらず、それに加え、A君へ高望みをしていたように思います。
A君は見たところ能力的には高いものを部分的に持っているため、その高い部分に引っ張られてしまい、ボトムアップ的な支援の繰り返しで能力が伸びると考えていたようにも思います。
しかし、大切だったのは、目に見えにくい苦手な所をしっかりと理解し、できた点・得意な点を認め、しっかりと本人の頑張りを褒めるということでした。
我々スタッフは、A君の苦手な所の情報収集を行い、発達の凸凹を理解していく中で、A君の良さや得意な点をより浮き彫りにしていきました。
こうしたアセスメントを行うことで、ある程度、将来に繋がる軸となる目標が見えてきました。
それ以降、A君への支援には一貫性が出てきました。そして、A君に対して高い要求をすることもなくなってきました。
A君自身も以前よりも、安心して過ごす様子が増えてきました。表情や言動も穏やかになり、自己肯定感も高まったように感じます。
このケースを振り返って見て、改めて目標設定もない闇雲な取り組みは、子どもたち対してデメリットに働くだけではなく、関わるスタッフも精神的に疲弊してしまうと思います。
もちろん、支援において、目標がなかなか定まらないこともありますし、目標設定が少し違っていた、あるいは、目標通りにいかないこともあるかと思います。
こうした中で大切なのは、本人の得意な点や苦手な点を踏まえ(特性を踏まえた理解)、その子に合った決して高くはないが達成見込みのある目標を考えていくことだと思います。
トップダウンの支援は、時には難しく、ある程度の経験値と知識がないと難しいようにも思いますが、療育の専門性とは、子どもたちの発達特性などを理解し、先を見据えて支援方法を考える力であると思います。
私自身、まだまだ未熟ですが、今度も療育現場で子どもたちへより良い支援ができるように頑張っていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
本田秀夫(2013)自閉症スペクトラム:10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体.SB新書.