発達障害児の中には、感覚の過敏さや鈍感さといった感覚の問題を併せ持っているケースが多いとされています。
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それでは、様々ある感覚の問題を理解していくためには、どのような視点が大切となるのでしょうか?
そこで、今回は、発達障害児の感覚の問題を理解する視点として、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「岩永竜一郎(編著)(2022)ハンディシリーズ 発達障害支援・特別支援教育ナビ 発達障害のある子の感覚・運動への支援.金子書房.」です。
発達障害児の感覚の問題を理解する視点
著書の中には、5つの視点が紹介されています(以下、著書引用)。
(1)支援者自身の感覚特性を知る
(2)問題がある感覚は
(3)過剰反応か過小反応か感覚探求か
(4)感覚の問題と関連する「4A」
(5)環境を評価する
それでは次に、以上の5つそれぞれについて見ていきます。
(1)支援者自身の感覚特性を知る
人間の感覚は人それぞれ多様です。
人によって得意な感覚と苦手な感覚があるかと思いますが、自分と似た感覚の場合は比較的理解しやすいかと思います。一方で、自分と異なる感覚は理解が難しいように感じます。
著者が勤める療育現場には、当事者スタッフも多くいますので、著者は自分が子どもの感覚を理解できない場合には、当事者スタッフの声を頼りにすることがあります。
○○の音が苦手、○○の触感が苦手など、苦手な感覚が聞けるだけでなく、それに対する対処方法なども知ることができます。
こうした他者との間で感覚情報を共有していきながら、自分の感覚を知っていくことが子どもたちの理解に繋がっていくと思います。
(2)問題のある感覚は
人間の感覚は、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、前庭感覚、固有覚、内臓感覚など、様々なものがあります。
以下、著書を引用します。
その中でどの感覚に問題があるのかを評価し、支援しなければならない。
感覚の問題は、ほとんどの児で一つの感覚だけでなく、複数の感覚に見られる。
著書にあるように、問題となる感覚を知ること(評価すること)が支援において大切になります。そして、問題となる感覚にも個人差が多くあるため、複数の感覚への評価が必要になります。
著者が見ている子どもたちにも、苦手な感覚は多様であり、中には多くの感覚になんからかの困難さを持っているお子さんもおります。
一方で、ある特定の感覚に強い過敏さがあるお子さんもいるなど、関わっていて感覚の問題は非常に個人差があるのだと感じます。
(3)過剰反応か過小反応か感覚探求か
以下、著書を引用しながら見ていきます。
支援を行う上で問題がある感覚が、過剰反応なのか過小反応なのかを評価しなければならないが、一人の子どもにおいても過剰反応と過少反応の感覚が混在する。また、一つの感覚の中でも、過剰反応、過小反応の両方の行動を示す児が多いため、その判断は難しい。
著書の内容には、過剰反応と過小反応といったどの感覚にどのくらいの過敏さと鈍感さがあるのかを評価することが大切だと記載されています。
一方で、ある特定の感覚の中に、過剰反応と過小反応の両方が混在している子もいるため、評価が難しいことがあるとも記載されています。
実際に、著書が見ている療育現場の子どもたちを見ていても、聴覚に非常に強い過敏さ(過剰反応)があるが、その音の質によっても受け入れられる音とそうでない音があるお子さんもおります。
また、特定の触感が苦手でも、砂や水など好きな感覚遊びには没頭するようなお子さんもおります。
こうした、特定の感覚の中に、過敏さと鈍感さが混在している様子は現場にいても確かに見られるものだと思います。そのため、状況や場面を含めた観察がとても大切なのだと感じます。
また、著書の中では感覚探求への評価の重要性も指摘しています。
感覚探求とは、自ら能動的に不足している感覚情報を取り入れることです。例えば、自らの手をひらひらさせたり、コマのようにくるくると回る行動などがあります。
著者が見てきた子どもの中にも、高い所を何度も登ろうとするなど、不足した感覚を自ら取り込もうとするお子さんもいたため、こうした子どもたちがなぜこうした行動を取っているのかという感覚からの理解はとても大切だと感じます。
(4)感覚の問題と関連する「4A」
感覚の問題は他の以下の4Aと関連することがあるとされています(以下、著書引用)。
感覚の問題は、覚醒(Arousal)、注意(Attention)、情動(Affect)、行動(Action)の4つのA(4A)と関連する。
著者が見ている子どもも、ただ単に感覚の過敏さが影響して本人が苦しんでいるということだけに収まらずに、感覚の問題が様々なことに影響してくるのだと実感しています。
例えば、聴覚過敏のある子が、苦手な音を聞くと、その音の発生源となっているものが、例えば、他児である場合には、その子を叩こうとする行動に走ることがあります。
また、情動もネガティブなものに変容し、イライラ感や怒り、不安などの感情が高まっていきます。
このように、感覚の問題は、他の様々なものへと関連づくものだと考えられています。
(5)環境を評価する
感覚の問題は、場面によっても強度や頻度などが異なります。
例えば、学校や園などは人が多くいるため、苦手な声や、大きな音など、家庭にはない感覚を感じる場面があるかと思います。
また、学校や園には、砂場や水など特定の刺激を多く取り入れることのできる場所があるのもまた、感覚への反応の異なる要素かと思います。
このように、環境によっても刺激となる対象は変わってくるため、環境を評価していくことも大切だと考えられています。
以上、発達障害児の感覚の問題を理解する視点について見てきました。
感覚の問題は、言葉にしにくい無意識的な反応も多くあるため、理解や評価が難しいことが一つの特徴としてあるように思います。
そのため、今回取り上げたように、いくつかの感覚の問題を理解する視点を持っておくことは大切なことだと考えます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も感覚の問題への理解を深めていけるように、現場での子どもたちの観察に加え、知識のアップデートも継続していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
岩永竜一郎(編著)(2022)ハンディシリーズ 発達障害支援・特別支援教育ナビ 発達障害のある子の感覚・運動への支援.金子書房.