
障害児支援の現場にいるとよく聞く言葉に〝障害受容″があります。
この用語は以下の内容を指します。
〝障害受容″は本人だけではなく、家族など周囲の人たちの問題としても捉えられています(保護者の障害受容など)。
一方で、著者の周りにいる障害児・者、そして、その家族を見ていると、〝障害受容は必要なのか?″と考えることがあります。
それは、本人も家族も環境も変化し続ける存在だからです。
つまり、現状の自己を肯定的に受け入れたとしても、時には、再度壁にぶつかったり、気持ちが折れそうになることもあるからです。
それでは、そもそも障害受容は必要なのでしょうか?
そこで、今回は、障害受容は必要なのか?について、臨床発達心理士である著者の経験と考察も交えながら理解を深めていきたいと思います。
※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。
今回参考にする資料は「内山登紀夫(2025)児童発達支援・放課後等デイサービスのための発達障害支援の基本.日本評論社.」です。
【障害受容は必要?】発達障害児・者支援の経験を通して考える
以下、著書を引用しながら見ていきます。
私としては、その診断や特性の理解が必要であって、受容は必ずしも必要ではないと思っています。障害受容という言葉は、だいたいネガティブな文脈で使われています。支援がうまくいかない理由が「障害受容ができていないから」もしくは「親御さんが障害受容しすぎてしまって、子どもを変える努力をしないんです」といった使われ方をして、支援者にとっては便利な言葉のようです。
著書の〝内山登紀夫さん″は著書の中で、障害受容は必ずしも必要ではないこと、そして、障害受容はどちらかと言えば支援者側にとって便利に使用されている用語になっていると述べています。
著者も長年、障害児・者の支援に携わっていますが、支援者からよく聞く言葉に〝○○さんの保護者がまだ障害受容ができていないため支援がうまく進まない″などと言った話を聞くことが少なからずあります。
一方で、当の本人や保護者の側に立つと、〝当事者にならないとわからない不安や苦しみ・割り切れない複雑な思いなどがあるためそう簡単に障害受容は難しいのではないか?″といった思いがあります。
また、著者自身、障害のある家族を持つ身として、上記のような発言を支援者から聞くと、支援者との間に障害に対する理解の溝を感じてしまいます。
それでは、〝障害受容″に対しては、どのような視点・姿勢をもって対応して行けばよいのでしょうか?
この点に関しては、著書の〝内山登紀夫さん″は、障害受容以上に、診断や特性理解が必要と述べています。
つまり、本人・家族がその後の社会生活を送っていく上で、困り感が軽減できる具体的な手立てを考えていくことが大切なため、様々な福祉的なサポートを受けることができる環境の調整及び本人の得意・不得意の理解を把握していくことがなによりも大切だと言えます。
つまり、〝早期発見・早期支援″に繋げていくこと、周囲に理解者を増やしていくことが重要です。
著者もこれまで発達障害児・者との多くの関わりを通して、できるだけ早期から、本人の特性に合った支援を受けている人の方が、その後の適応状態が格段に良いと感じています。
つまり、本人に合った環境・関わり方を整えていくことで、本人・家族が過度な負担を背負わない状態を作っていくこと、その際に、本人・家族との話し合いを通して、障害受容は自ずと進んでいくように思います。
最初から、障害受容を目的とはせず、本人の生きやすさをどう整えていくかという視点に重きを置くことが重要だと言えます。
障害受容のプロセスに関する言及
それでは、最後に〝障害受容″によく見られる障害受容のプロセスについて見ていきます。
障害受容で有名なものとして、〝段階説″や〝慢性的悲哀説″とこれらを統合した〝螺旋モデル″があります。
〝段階説″や〝慢性的悲哀説″に関しては、現在以下のように考えられています(以下、著書引用)。
現在ではさまざまな考え方があり、ケースバイケースで、これらの経過を全員が辿るわけではないと言われています。
つまり、〝段階説″〝慢性的悲哀説″は、こうしたプロセスを辿る人もいる一方で、また別の経過を辿る人もいるといった結論になっています。
さらに、以上の説を統合した〝螺旋モデル″は、障害を受容したり否定したりを繰り返していく中で、徐々に障害受容が進んでいく過程を示したモデルです。
以上、障害受容に関して様々な説・モデルが出ていますが、人によって障害受容のプロセスは異なっているという考えが一番妥当だと言えます。
その背景は、障害の特性、障害の程度、本人の自己理解、家族の価値観など様々なものが複雑に影響しているからです。
繰り返しになりますが、障害受容で大切な視点として、障害受容以上に、本人・家族の生きやすさを具体的に支援していくことにあります。
以上、【障害受容は必要?】発達障害児・者支援の経験を通して考えるについて見てきました。
私たちの心の状態は様々なものから刺激を受けています。
障害受容においても、環境からの影響、本人の考え方などによって、心の状態は大きく揺れ動いています。
こうした心の揺れに対して、寄り添い理解を示す姿勢を持つこともまた支援者にとって求められる素養だと感じます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も本人やその家族の困り感に寄り添いながら、得意なこと・好きなことなどポジティブな点を大いに発見し伸ばしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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内山登紀夫(2025)児童発達支援・放課後等デイサービスのための発達障害支援の基本.日本評論社.