
療育現場において、非認知能力をどのように伸ばしていけば良いかで思い悩んだことはありませんか?
ここ最近〝非認知能力″が注目されるようになってきています。
認知能力とは、言語能力や思考力、記憶力といった一般的な知能のことを指します。
一方で、〝非認知能力″には、創造性や好奇心、興味・関心、意欲、自主性、主体性、自制心、自信など様々なものが含まれています。
かつての著者は療育において、非認知能力を育てることが重要だと知りながらも、実際のところどのように支援をしていけば良いか分からずにいました。
今回は、実体験+理論+書籍の視点から、非認知能力を中心に据えた療育の新しい視点に関する理解と支援のヒントについてお伝えします。
※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。
目次
1.認知能力への支援に限界を感じていた著者のエピソード
2.非認知能力を理解する理論・書籍
3.非認知能力への支援の意味・効果が見えてきた著者の経験談
4.まとめ
1.認知能力への支援に限界を感じていた著者のエピソード
私たちは、学校や仕事において、認知能力(言語力・記憶力・思考力)を働かせながら生活しています。
また、学校や社会における能力の指標として、学力など認知能力を重視した評価が取られることが多くあります。
こうした背景も踏まえて、かつての著者は療育現場で関わる子どもたちに〝認知能力″を伸ばす関わりを重視していたところがありました。
つまり、非認知能力といった評価しにくい点ではなく、認知能力といった〝○○の能力が○○程度伸びた″といった比較的可視化しやすい点を重視していたように思います。
もちろん、認知能力を伸ばすこと自体悪いわけではありませんが、実際に、療育現場で子どもたちと関わっていると、認知能力以外の側面、つまり、〝非認知能力″の豊かな育ちが様々な場面で見られることが徐々に体感できるようになってきました。
さらに、非認知能力の育ちが、認知能力の育ちを後押していると感じるほど、非認知能力が重要だと感じるようにもなってきました。
つまり、認知能力の育ちにフォーカスした療育には限界があり、むしろ、非認知能力の育ちに可能性を見出し始めました。
一方で、いざ、非認知能力について深く考え始めると、非認知能力とは実際のところ何か?その後の、人生でどのような役割を持つのか?どのようにして育まれていくのか?など分からない点が多く出てきました。
そうした中で、非認知能力に関する様々な書籍を学び、日々、子どもたちとの関わりを通して、より非認知能力が持つ重要性を実感するようになっていきました。
2.非認知能力を理解する理論・書籍
それでは、非認知能力の理解を深めていく上で、著者が非常に参考になった書籍を以下に紹介していきます。
書籍①「佐々木信一郎(2021)発達障害児のためのモンテッソーリ教育.講談社.」
書籍②「森口佑介(2023)10代の脳とうまくつきあう 非認知能力の大事な役割.ちくまプリマ―新書.」
書籍③「篠原郁子(2024)子どものこころは大人と育つ:アタッチメント理論とメンタライジング.光文社新書.」
書籍④「関西発達臨床研究所(編)高橋浩・山田史・天岸愛子・若江ひなた(著)(2024)非認知能力を育てる発達支援の進め方 「きんぎょモデル」を用いた実践の組み立て.学苑社.」
以上の書籍を踏まえて、著者が非常に参考になったキーポイントとして、1.過去の偉人と非認知能力との関連性、2.非認知能力とはそもそも何か?、3.非認知能力が及ぼす将来への影響、4.愛着と非認知能力の関連性、5.非認知能力の高め方です。
それでは、次に、以上の5つのキーポイントについて具体的に見ていきます。
1.過去の偉人と非認知能力との関連性
〝モンテッソーリ・マフィア″という人たちがいます。
〝モンテッソーリ・マフィア″とは、モンテッソーリ教育を受けることで、創造性を発揮している組織、派閥、集団のことを意味しており、過去に多くの偉人たちを輩出しています。
例えば、ビル・ゲイツ(マイクロソフト創業者)、スティーブン・ウォズニアック(アップルの共同経営者)、マーク・ザッカーバーグ(フェイスブック創業者)、ジェフ・ベゾフ(アマゾン創始者)などがいます。
モンテッソーリ教育を受けた〝モンテッソーリ・マフィア″の特徴として、〝創造性″が大きな特徴としてあげられます。
この点について、書籍①を引用しながらさらに深堀していきます。
創造性以外にも大切な力を挙げています。それは、好奇心、興味・関心、意欲、自主性、主体性、自制心、自信などです。これらの力を最近の心理学では、非認知能力といっています。
彼らを世界のリーダーにしたのは、非認知能力であるということです。さらに、この非認知能力は、モンテッソーリ教育によって育てられたと彼らは語ります。
著書の内容から、モンテッソーリ教育により非認知能力が高まることで、モンテッソーリ・マフィアが輩出されたと言えます。
そして、非認知能力には、創造性以外にも、好奇心、興味・関心、意欲、自主性、主体性、自制心、自信など様々なものがあります。
非認知能力は、現代において大きな成功を収める上で、また個々がより良い人生を送る上で非常に重要な能力だと言えます。
著者は、モンテッソーリ・マフィアという言葉を知ることで、これからの時代において、非認知能力を育てることは、個々人が能力は発揮し、豊かな人生を送る上で非常に重要なことだと考えるようになりました。
2.非認知能力とはそもそも何か?
先に見た〝非認知能力″とは、創造性や好奇心、興味・関心、意欲、自主性、主体性、自制心、自信などのことでした。
これらの能力は非常に多岐にわたっているため、ここから先は、もう少し〝非認知能力″を整理して見ていきたいと思います。
それでは、以上の点を踏まえて、次に書籍②を引用しながら〝非認知能力″とは何かについて見ていきます。
著者なりの表現になりますが、「目標を達成する力」、「自分に向き合う力」、「他人とつきあう力」です。
書籍②の執筆者である〝森口佑介さん″は、〝非認知能力″を1.「目標を達成する力」、2.「自分に向き合う力」、3.「他人とつきあう力」の3つに分類しています。
- 「目標を達成する力」とは、実行機能(自制心)・粘り強さ・やる気が該当しています。
- 「自分に向き合う力」とは、自尊心(あるがままの自分を肯定する感情)・自己効力感(自分ならできるという感覚)が該当しています。
- 「他人とつきあう力」とは、感情知性(自他の感情を理解し、日々の行いに活かす力)・向社会的行動(親切心)が該当しています。
以上の3つの要素に落とし込むことで、療育現場で関わる子どもたちがどの程度の非認知能力を有しているかを検討する良い判断材料になると著者は感じています。
3.非認知能力が及ぼす将来への影響
それではなぜ〝非認知能力″が注目されるようになったのでしょうか?
この点に関して、〝非認知能力″が将来ポジティブな影響を次の点で及ぼすと考えられています(以下、著書②引用)。
1つは、人生の幸福度に直結する可能性があるということです。
もう一つの重要な点は、教育や支援によって変えることができるかもしれないという点です。
著書の内容から、〝非認知能力″は、人生の幸福にポジティブな影響を及ぼすこと、そして、教育や支援によってその能力を高めることが期待できることが注目されるようになった理由だと考えられています。
私たちの幸福は、健康や仕事、人間関係、経済状況などによって左右されます。
そして、非認知能力はこうした幸福に影響を及ぼす要素に強く関連していると言えます。
また、一般的に認知能力は生涯かけてあまり変わらないと考えられていますが、非認知能力は教育や支援によって変えることができると考えられています。
こうした点が、非認知能力が注目されるようになったこと、つまり、非認知能力を育てることは将来にポジティブな影響を及ぼすものだと言えます。
このように、非認知能力が将来に良い影響を及ぼすことを理解しておくことで、療育において、非認知能力を育てることの意味がよりはっきりと見えてくると思います。
4.愛着と非認知能力の関連性
それでは、愛着と非認知能力の関連性について、書籍③を引用しながら見ていきます。
概観すると、安定したアタッチメント関係を持つ子どもには、不安定なアタッチメント関係を持つ子どもよりも、社会情緒的能力の発達に優れている様子が見られます。
アタッチメント関係は、「非認知能力」の領域において影響を持ってくるというのが、現在の研究が示していることだと考えられます。
著書にある〝社会情緒的能力″とは、〝非認知能力″のことを指します。
そして、安定した愛着関係は不安定な愛着関係よりも非認知能力が優れている、そして、愛着関係は非認知能力の領域に影響を及ぼすことが分かってきています。
著者の実感としても、子どもに関わる大人(親・保育者・先生など)が温かい眼差しや子どもの思いを推測して反応する力が高いと、子どもの情緒は落ち着き、より良い安着関係が築けていると実感しています。
そして、こうした環境で育った子どもは、目標を達成する力や自他に向き合う力が高いように思います。
つまり、非認知能力の高さに愛着関係が影響しているのだと感じます。
安定した愛着関係が、発達初期の養育者との関係性に大きく左右されることを考えると、非認知能力の中核的な要素して〝愛着″が持つ意味合いは非常に強いと言えます。
5.非認知能力の高め方
〝非認知能力″の高め方は様々あると思いますが、ここでは、〝遊び″を中心に見ていきたいと思います。
それでは、この点について書籍④を引用しながら見ていきます。
「非認知能力」がどのように育つのかについての研究も進み、その多くが遊びの重要性を指摘しています。まさに「子どもは遊びで育つ」という言葉の通りです。
遊びの中でも特に重要とされているのが、子どもたちが「自発的主体的に行う遊び」です。簡単に言えば、「やりたいことを思いっきりやる中で非認知能力は育っていく」ということです。
著書にあるように、〝非認知能力″の育ちは〝遊びを通して育つ″ところが多くあることが分かってきています。
それだけ子どもにとって遊びが持つ役割は大きいと言えます。
そして、遊びの中でも、〝自発的″〝主体的″といった自らやりたいことを思いっきりやり通すことが〝非認知能力″を育てる上でとても重要だと考えられています。
著者の療育でも〝遊び″は中核的な役割を担っています。
そして、子どもたちは遊びを通して、自らやりたいことを発見し、主体的に行動し、物事をやり遂げようとしたり、また、他者と協力していく中で、自他の感情を深く理解できるようになったり、他者に対して親切に接する様子も増えていくと感じています。
そのため、遊びこそまさに、非認知能力の育ちにおいてとても重要だと言えます。
3.非認知能力への支援の意味・効果が見えてきた著者の経験談
これまで見てきた〝非認知能力″に関する知識を療育現場に取り入れていく中で、次のような支援の意味・効果が見えてきました。
それは、〝遊び″を通して子どもたちが〝非認知能力″を高めていくことを実感できるようになったことです。
その際のキーワードが〝やってみたい!″という主体性です。
著者が見ている子どもたちは、遊びに対して、非常に主体的に取り組む様子が見られます。
その中には、ごっこ遊びなどイマジネーションに富んだ遊び、秘密基地作りなどの創作遊び、折り紙やお絵描きなどの製作遊び、自然に触れる遊びなど様々な遊びがあります。
こうした遊びは、最初はシンプル・単調なことがよくあります。
例えば、一体一の戦いごっこを何度も繰り返すこと、同じような基地を繰り返し作ること、同じ折り紙をいくつも作ること、砂や水遊びをエンドレスで触り続けるなどがあります。
一見すると、こうした姿はあまり変化がないように思えるかもしれませんが、長い期間をかけて関わり観察していくと、変化への素地がしっかりと育まれていることが多く、ある時期を過ぎると遊びの質が変化してくることが非常によく観察されます。
例えば、様々な他児を巻き込みストーリー性を持たせるなどのごっこ遊びへの展開、様々なバリエーションのある秘密基地への展開、様々な折り紙が折れるようになっている、自然の中で虫や植物を観察したり、砂や水を使ってトンネルやダムが作れるようになっているなど、様々な発展が遊びの中に見られます。
こうした様子・変化にこそ〝創造性″や〝目標を達成する力(例:粘り強さ・やる気)″といった非認知能力の育ちが見受けられます。
そして、遊びを達成する機会が増えていくことで、〝自分に向き合う力(例:自己効力感)″もまた育まれていくように思います。
さらに、遊びは単独で行う場合もあれば、様々な他者と一緒に行う場合もあります。
そのため、他者との関わりを通して、〝他人とつきあう力(例:感情知性・向社会的行動)″もまた育まれていくのだと思います。
このように、子どもは今を楽しみ・主体性を持って取り組む〝遊び″を通して、様々な〝非認知能力″を高めていくことができるのだと実感しています。
私たちが大人になっても、意欲的に創造的に行動することは人生を豊かにしていくのだと思います。
その根底を支えているのが、今回見てきた〝非認知能力″だと言っても間違いないと思います。
4.まとめ
認知能力とは、言語能力や思考力、記憶力といった一般的な知能のことを指します。
一方で、〝非認知能力″には、創造性や好奇心、興味・関心、意欲、自主性、主体性、自制心、自信など様々なものが含まれています。
創造性など非認知能力の力を社会で発揮している人たちの中には、モンテッソーリ教育を受けた人たちが多くいると言われています。
発達心理学者の森口佑介さんは、〝非認知能力″を1.「目標を達成する力」、2.「自分に向き合う力」、3.「他人とつきあう力」の3つに分類しています。
非認知能力は、人生の幸福にポジティブな影響を及ぼすこと、そして、教育や支援によってその能力を高めることが期待できるなどの理由から、ここ最近注目されるようになってきています。
愛着研究を踏まえると、安定した愛着関係は不安定な愛着関係よりも非認知能力が優れている、そして、愛着関係は非認知能力の領域に影響を及ぼすことが分かってきています。
〝非認知能力″の育ちは〝遊びを通して育つ″ところが多くあることが分かってきています。
遊びの中でも、〝自発的″〝主体的″といった自らやりたいことを思いっきりやり通すことが〝非認知能力″を育てる上でとても重要だと考えられています。
書籍紹介
今回取り上げた書籍の紹介
- 佐々木信一郎(2021)発達障害児のためのモンテッソーリ教育.講談社.
- 森口佑介(2023)10代の脳とうまくつきあう 非認知能力の大事な役割.ちくまプリマ―新書.
- 篠原郁子(2024)子どものこころは大人と育つ:アタッチメント理論とメンタライジング.光文社新書.
- 関西発達臨床研究所(編)高橋浩・山田史・天岸愛子・若江ひなた(著)(2024)非認知能力を育てる発達支援の進め方 「きんぎょモデル」を用いた実践の組み立て.学苑社.
この他、〝非認知能力″について専門的かつ網羅的に学びたい人にとっては「非認知能力の発達: 生涯にわたる変化と影響」がお勧めです。