発達障害(神経発達症)とは、簡単に言えば、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)、学習症(SLD)など、様々な生得的な発達特性(AS、ADH、SLなど)に加え、環境への不適応状態(障害:Disorder)が見られる状態のことを言います。
発達障害児支援には、発達特性を踏まえた様々な支援方法があります。
発達障害の中でも、ASDの子どもは、目には見えない相手の心の状態を読み取ることに苦手さがあります。
そのため、支援において〝伝え方の工夫″が必要になってきます。
それでは、支援において必要となる伝え方にはどのような方法があると考えられているのでしょうか?
そこで、今回は、発達障害児支援で大切な伝え方の工夫について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、損得での説明を例に理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「前田智行(2024)「できる」が増えて「自立心」がどんどんアップ!発達障害&グレーゾーンの子への接し方・育て方.大和出版.」です。
伝え方の工夫:損得での説明を例に
子どもの中には、危険行為や社会的に悪い行為をしても、他者が迷惑をしていることがよく分からない場合があります。
例えば、ボール遊びの際にボールを廊下に向けて投げ続ける、登ってはいけない高い所に登る、他者が不快と感じる言動を一方的に話続ける、など著者がこれまで目にしてきた対応に苦慮したケースの一例です。
こうした行動に対して、単純に注意して、その場で一度止めたとしてもまた繰り返し行うことがよくあります。
あるいは、〝なぜダメなのか?″と逆に疑問を提示してくることもあります(中には、様々なロジックを駆使して自分の行為を正当化しようとする場合もあります)。
こいうした行動の背景には、様々な要因があると思いますが(感覚刺激を求めること、記憶の保持が難しいことなど)、今回は〝伝え方″にフォーカスして対応方法を見ていきます(以下、著書引用)。
損得を基準とした伝え方は、気持ち/感情に関係なく、デメリットが明確なため、「それはしないほうがいい」と理解するのが簡単になります。
損得+気持ちをセットにして伝えると良いでしょう。
まずは、〝損得を基準とした説明″があります。
つまり、論理で伝えていく(○○すると○○になる)など、メリット・デメリットを伝えていく方法が有効です。
例えば、高い所(事業所の塀)に登る際には、怪我をする危険性があること、塀が壊れると弁償の可能性があるなどデメリットを伝えることです。
著者がこれまで対応したケースには、大人との信頼関係がしっかりと育まれているケースにおいては、デメリットを伝えることで比較的スムーズに行動が変わるといった印象があります。
一方で、〝愛着に問題がある″など、信頼関係の点で難ありの場合には、まずは子どもとの信頼関係の構築が優先的な課題になってくると感じています。
愛着に問題がある子どもに〝損得を基準とした説明″を伝えたとしても、伝える相手が変わるとうまく浸透しないことなど、行動の変容(行動の定着)がそれほど期待できない印象があります。
ここで、〝信頼関係″について少し深掘りしてみていきたいと思います。
著者がこれまで対応したケースで、〝伝え方の工夫″で効果を発揮する最大の要因は、大人との〝信頼関係″にあると感じています。
つまり、社会的に悪い行いをした場合に、善悪やメリット・デメリットを伝えることも必要ですが、伝えた内容に対して納得できるかどうかには、誰が言ったかどうかが強く影響しているのだと感じています。
私たちの身に置き換えても、同様のことが言えるかと思います。
私たちは、伝えられた内容が仮に同じであったとしても、○○の人の言うことなら素直に納得できるも、○○の人の言うことなら聞けないなど、内容以上に誰が言ったかどうかで納得感に違いがでることがよくあります。
これは何も、他者の心の読み取りが苦手な自閉症の人においても似た傾向があると感じています。
つまり、〝損得を基準とした説明″は、論理で考える傾向のある自閉症の人たちには分かりやすい伝え方であったとしても、その根底には、〝信頼関係″がベースにあることが大切なのだと思います。
さらに、著書にあるように、〝損得+気持ちをセットにして伝える″ことも大切だと思います。
例えば、ボールを人通りの多い廊下に向けて投げている場合に〝損得″での伝達(○○の場所の中で遊ぶと安全に遊べる:得、あるいは、ボールを廊下に投げると誰かがケガをするかもしれない:損)+(周りの子どもも安心して遊べるようになったね!気持ち)など、〝損得+気持ちをセットにして伝える″といった関わりも大切だと思います。
以上、【発達障害児支援で大切な伝え方の工夫】損得での説明を例に考えるについて見てきました。
発達障害児は認知の偏りから様々な物の見方・感じ方に違いがあります。
そのため、認知の違いに目を向けて、どのような伝え方をしていけば、彼らが納得しやすいのかを考えていくことが大切だと言えます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育実践を通して、子どもたち一人ひとりに伝わる言葉がけについて試行錯誤していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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