
〝ソーシャルスキルトレーニング(SST)″とは、〝日常生活に関する技能を練習する方法″です。
例えば、順番の守り方、切り替えの仕方、偏食への対応の仕方など、子どものニーズに応じて様々な内容があります。
〝ソーシャルスキル(日常生活に関する技能)″をスムーズに獲得できれば良いのですが、一般的にはそうならないことも多くあります。
それでは、ソーシャルスキルの獲得において、どのような要因が妨げるものとなっているのでしょうか?
そこで、今回は、ソーシャルスキル獲得を阻害する4つの要因について、臨床発達心理士である著者の経験と考察も交えながら理解を深めていきたいと思います。
※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。
今回参照する資料は「鴨下賢一(編)立石加奈子・中島そのみ(著)(2013)学校が楽しくなる!発達が気になる子へのソーシャルスキルの教え方.中央法規.」です。
【ソーシャルスキル獲得を阻害する4つの要因とは】療育経験を通して考える
以下、著書を引用しながら4つの要因を記載します。
①自分をコントロールする力が弱い
②自尊心が育っていない
③感覚面の偏り
④相手の気持ちを読み取りにくい
それでは、次に、以上の4つの阻害要因について具体的に見ていきます。
①自分をコントロールする力が弱い
自己コントロール力が弱いと、例えば、我慢できない、他者と折り合いが取れない、自分がやりたいことを一方にしようとするなど、行動面・感情面において様々な問題が出てきます。
いわゆる気になる行動・大人を困らせる行動だと言えますが、こうした行動に対して、叱る対応をしても行動の修正は難しいと言えます。
事前にできる環境調整や本人への個別対応の工夫が必要です。
著者の療育現場でも、自己コントロール力の弱さは多くの子どもに見られます。
そのため、自己コントロールの弱さが影響して問題行動に繋がる場合には、問題行動が生じにくい環境の調整を優先すること、また、問題行動に対する機能分析などが有効だと感じています。
また、自己コントロールの弱さに関する背景要因にも目を向けること、例えば、自閉的な特性が影響していないか?ADHDの特性が影響していないか?愛着の問題などが影響していないか?といったアセスメントも重要だと思います。
関連記事:「【発達障害児の〝問題行動″の理解の仕方について】療育経験を通して考える」
②自尊心が育っていない
以下、著書を引用しながら自尊心の定義について見ていきます。
自尊心(セルフ・エスティーム)とは、研究者によって様々な定義がなされており、統一されたものはありません。「自分を肯定的に評価し満足しているレベル」、または「その人にとっての生きる意味や価値態度も内包する、より包括的な自分への見方」と述べる研究者もいます。
著書の内容から、自尊心とは〝自己に対する肯定的な評価・見方″だと言えます。
さらに、著書では自尊心が低すぎることは良くないとする一方で、高すぎることも良くないと記載されています。
つまり、自尊心が低すぎると、様々な活動や対人関係を避けることに繋がり、ソーシャルスキル獲得の妨げになります。
また、自尊心が高すぎると、年齢が上がるにつれて、周囲から煙たがられる存在になるリスクがあります。
大切なことは、本人への適切な評価とそれを踏まえた成功体験の積み重ねです。
著者が療育現場でよく目にすることは、〝自分は駄目な人間!″など自己に対して非常に低い評価をしている子どもがいます。
こうしたケースは、多くの場合、〝二次障害″が疑われています。
一方で、本人への肯定的なフィードバックを与え続けることで、自尊心が高まるケースも多いと感じています。
ここで重要なことは、子どものことをよく観察していくこと、子どもの気持ちを推測していくことだと思います。
ただ褒めただけでは自尊心は上がりません。逆に高すぎる自尊心を生むリスクがあります。
子どもにとって、自分のことをよく見てくれている・分かろうとしてくれていると感じる人からの肯定的なフィードバックが重要な意味を持つのだと思います。
関連記事:「療育で重要なこと-自尊心・自己肯定感の視点から考える-」
③感覚面の偏り
発達障害、中でも自閉症児には様々な感覚の過敏さ・鈍麻が見られます。
そのため、例えば、集団活動をしようと大人が促しても、集団の賑やか声が苦手で集団参加を回避することがあります。
また、様々な遊びの中にも苦手な感覚があり、活動を避ける様子もあります。
このように、目には見えにくい感覚の問題が影響して、ソーシャルスキル獲得の機会が減ることもよくあります。
対応としては、感覚へのアセスメントです。
関連記事:「発達障害の感覚調整障害について【4つのタイプから考える】」
著者の療育現場にも、様々な感覚の問題を抱えて子どもが多くいます。
そのため、重要なことは、苦手な感覚の負荷を下げる環境調整に加えて、少しずつ慣れさせていくといった対応を心掛けています。
もちろん、過度に慣れさせようとしてしまうことは、NG対応だと言えます。
年数はかかりますが、子どもの中には、苦手な感覚への対応・対処法を学ぶことができた子ども、苦手な感覚が少しずつ緩和されていったと感じるケースもあります。
④相手の気持ちを読み取りにくい
発達に躓きを抱えていると、様々な背景が影響して〝相手の気持ちがうまく分からない″といったことがあります。
心の理論の課題などが有名です。
相手の気持ちの読み取りが難しいと、子ども独自の力だけで他児とコミュニケーションを形成していくことが難しくなります。
例えば、一方的に自分の話をする、対手の思いをうまくくみ取れず会話が続かないなどがあります。
そのため、この点に関しても、ソーシャルスキル獲得に課題が出てくると言えます。
著者の療育現場では、多くの子どもに相手の気持ちの汲み取りの難しさが見られます。
特に自閉症児にこうした特徴が多いのですが、重要なことは、大人が相手の意図・気持ちを言葉に変換しながら、本人にとって分かりやすい言葉で伝えていくことだと思います。
言語に遅れがそれほどなければ、直感的な理解以上に言葉によって相手の気持ちを理解する傾向が強い子どももいるからです。
心の理論に課題を抱える子どもへの支援として、〝ソーシャルストーリー″〝ソーシャルシンキング″などが有名です。
関連記事:「【自閉症への支援】ソーシャルストーリーを例に考える」
関連記事:「【自閉症児への支援】ソーシャルシンキングを例に考える」
以上、【ソーシャルスキル獲得を阻害する4つの要因とは】療育経験を通して考えるについて見てきました。
ソーシャルスキル獲得にはこれまで見てきた4つの阻害要因があります。
これに加えて、著者はソーシャルスキル獲得以前に他者と関わることの楽しさをまずは学ぶことが重要だと感じています。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で関わる子どもたちが今後に繋がるソーシャルスキルを獲得していけるような支援を目指していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【〝ソーシャルスキルトレーニング″で獲得したスキルを活用するために大切なこと】発達障害児支援の現場から考える」
鴨下賢一(編)立石加奈子・中島そのみ(著)(2013)学校が楽しくなる!発達が気になる子へのソーシャルスキルの教え方.中央法規.