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【自閉症児への療育で大切な視点】情緒と認知と感覚への配慮の必要性について考える

投稿日:2024年7月11日 更新日:

自閉症(自閉スペクトラム症:ASD)とは、〝社会性の障害″〝コミュニケーションの障害″〝こだわり行動″を特徴とする発達障害です。

自閉症の特徴の一つに、〝新奇な場面への苦手さ″があります。

自閉症の人たちにとって、〝いつもと同じ″〝いつも通り″といった場面や順番、手順が一定であることが〝安心感″を得る大きな判断材料になることが多くあるからです。

 

それでは、〝新奇な場面への苦手さ″のある自閉症児に対して、どのような環境調整や関わり方の工夫があるのでしょうか?

 

そこで、今回は、自閉症児への療育で大切な視点について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、情緒と認知と感覚への配慮の必要性について理解を深めていきたいと思います。

 

 

今回参照する資料は「白石雅一(2024)おもちゃ教材で育む人間関係と自閉スペクトラム症の療育~親・保育園・幼稚園・学校・児童発達支援・放課後等デイサービスのためのガイド~.東京書籍.」です。

 

 

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自閉症児への情緒と認知と感覚への配慮の必要性について

〝新奇な場面″など、いつもと異なる場面を想定した対応について、以下、著書を引用しながら見ていきます。

「これから予想される場面場面」を写真カードや絵カードにして見せて、「分からせて」「見通し」をもたせることで、彼らを安心させることが推奨されています。

 

ASDの子どもたちが感覚的な刺激を好み、それを得ることで情緒的に安心して、落ち着き、安定することも知られています。

 

 

ASDの子どもに対しては、物や状況を「よく見せ」「分からせる」という認知(視覚)支援と、感覚刺激(自己刺激)行動を見守ったり保障してあげたりすることで、情緒的な安心と安定に導くことが可能となります。

 

著書の内容から、自閉症児が安心して活動(新奇な場面などに対して)するためのポイントとして、〝認知(視覚)支援″と〝好きな感覚刺激を与える″ことが大切です。

認知(視覚)支援″では、自閉症の認知特性を活かした配慮、つまり、視覚優位な場合には、写真や絵カードなどによる見通しの提示が効果的だと言えます。

好きな感覚刺激を与える″では、自閉症に多く見られる〝常同行動″を見守ること(情緒が不安定な場合は特に)、その子の好きな感覚刺激などを提示することが安心感を与える上で重要だと言えます。

 

自閉症児は、〝新奇な場面″に対して、強い不安を見せるため、以上の対応が〝事前の準備″としてとても大切になってきます。

さらに、著書には、以下の視点も必要だとしています(以下、著書引用)。

情緒不安定になった際の「あやし」「なだめ」というリカバリーの関わりも不可欠です。

 

著書の内容から、自閉症児が見せる情緒不安定さに対して、事前の準備に加えて、あやし″〝なだめ″といった感情を落ち着かせる対応・関わりもまた大切だと言えます。

 

 

著者の経験談

著者は長年、療育現場で自閉症児をはじめとした発達に躓きのある子どもたちと多く関わってきています。

その中で、自閉症児には〝新奇な場面″への苦手さを抱えているケースが多く見受けられます。

そのため、著者も今回引用書で見てきたような対応・関わりをすることがあります。

例えば、新しい外出先に行く場合には、その場所の写真を見せる、危険エリアが多い場所(道路沿いの公園や広い河原など)に関しては、行っていい場所や遊具などを事前に写真などで伝えるといった方法です。

こうした事前の提案・提示に対して、本人としっかりと合意を取ることが大切です。

写真カードなどで見通しを伝えたのは良いが、本人から〝分かった!″といった合意が得られていない場合だとトラブルに発展することがあります。

また、自閉症児に対して〝好きな感覚刺激を与える″ことで、不安定な情緒を調整する方法も有効だと思います。

例えば、ハンモックなどのゆったりとした揺れ、ハンドスピナーやプッシュポップなどの感覚刺激の得られるものを用意することで、こうした遊具・おもちゃによって気持ちが整うことも少なからずあると思います。

また、不安定な気持ちに対して、〝見通し″や〝感覚刺激″といった対応以外にも、不安定な〝情緒″を〝あやし″や〝なだめ″によって整えていく対人的支援も必要不可欠だと感じています。

最終的に、人の不安を解消する最大の方法は〝安心感″を与えることのできる〝人″の存在、そして、情緒的交流だと思います。

 

 


以上、【自閉症児への療育で大切な視点】情緒と認知と感覚への配慮の必要性について考えるについて見てきました。

自閉症児が苦手とする〝新奇な場面″への対応として、認知と感覚、そして、情緒に対する配慮を行うことが効果的だということが、著書の内容からも実際の著者の経験からも実感しています。

私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も自閉症児の不安定な気持ちを解消する視点について、様々なアプローチ方法を学び実践していきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 

関連記事:「自閉症児の見通しについて:発達的視点からその意味を考える

関連記事:「自閉症への支援-構造化と合意から考える-

関連記事:「【自閉症の情動調整への支援について】療育経験を通して考える

 

 

白石雅一(2024)おもちゃ教材で育む人間関係と自閉スペクトラム症の療育~親・保育園・幼稚園・学校・児童発達支援・放課後等デイサービスのためのガイド~.東京書籍.

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