自閉症児の中には、相手の意図がうまく理解できないため相手との間で折り合いをつけることが難しい、自分なりのルールややり方にこだわるなどの行動がよく見られます。
それでは、自閉症児が社会の中で折り合いをつけながら生きていくためにはどのような視点が必要なのでしょうか?
そこで、今回は自閉症児が相手とのやり取りや社会のルールの中でどのようにして折り合いをつけていけばいいのかについて「合意」というキーワードをもとに知識と経験をもとにお伝えしていこうと思います。
自閉症児に限らず他者と折り合いが難しいお子さんにも活用できる考え方かと思いますのでぜひ参考にしていただければと思います。
今回参照する資料は「本田秀夫(2013)自閉症スペクトラム:10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体.SB新書.」です。
以下、著書の内容を踏まえて合意の意味をお伝えしていきます。
合意について
「合意」とは誰かの提案に他者が同意することを言います。
「提案」は指示や命令ではなく、「同意」は服従ではありません。提案するには自律的判断が必要です。また、他者の提案に同意するには、提案内容が自分にとって納得できるものかという判断と、他者と自分の意見の照合が要求されます。
他者との間で合意が成立するためには、自律スキルとソーシャルスキルの両方が必要だと考えられています。
「自律スキル」とは、自分で自分をコントロールすることであり、「ソーシャルスキル」とは社会性のことで主なスキルは「ルールを守れること」と「他の人に相談できること」を指します。
自閉症児は、他者の視点獲得が困難で暗黙のルールなどの理解も難しいとされています。昔から自閉症児には構造化された環境を作ることが重要だと言われてきました。
「構造化」とは、物事に一定の秩序を持たせるために、その秩序がわかりやすくなるような枠組みを示します。我々の生活の中にも、道路標識や信号機、看板など構造化された場面が多くみられるかと思います。
自閉症児は発達特性から見て視覚的な情報の理解が得意とされています。そのため、支援者はイラストなどで分かりやすく構造化を行うことが多いのではないかと思います。ちなみに、私の職場でもその日のスケジュールや何か作業をするときの手順、物の置き場などはできるだけイラストを添えるようにしています。
こういった子供たちへの理解のしやすさ、わかりやすさという側面が構造化でもありますが、本田さんは構造化が合意を教える最初のステップであり、情報を提示された際に、子供たちが行動をとるのは、理解するだけではなく「合意」するからだと述べています。
その意味でも、構造化の手法を活用する目的は、合意形成の習慣を身につけることだと述べています。
さらに、構造化の方法を活用する際のポイントとして、「先に大人から情報を提示すること」(後手に回ると子どもはパニックになることもある)や、子供たちのやる気を高めるための内容とタイミングが重要であり、そうした関わりをしてくれる大人とは信頼関係が生まれると考えられています。
以上、本田さんの著書を参考に合意について説明してきましたが、次に私の現場経験から自閉症児との合意形成の意味を考えていこうと思います。
著者の体験談
私の現場にも自閉症児のお子さんたちは多くおります。そういった中で、合意をとらないと子供たちが混乱する、パニックを起こすこともあります。
例えば、子供たちを車でご自宅まで送る際に、いつもと違う順番になった場合など、事前にその順番を伝えておかないと混乱するお子さんもいます。また、遊びたかった職員に用があり不在になる、遊びたかったおもちゃを他児が使っていたなど、先に○○の理由で今日はいない、使えない、だから何時からその人と遊べる、何時からならそのおもちゃが使えるなど早めの対応を意識しています。
必ずしもうまくとは限りませんが、大人側が先手を打つことが重要であることは職員の中では共通認識として持っています。
また、私の現場には自閉症児以外のお子さんも多く見受けられます。
そういったお子さんたちにもやはり合意をとるということは非常に重要であるかと思います。
よく子供たち同士でトラブルになるのは、自由遊びの際に、あるお子さんが先に遊ぶ場所や使うものを決めてしまい、他児と言い合いになることです。そのため、最初にルールを確認しておくことを念頭において対応することを心掛けています。
難しくはありますが、子供たちが納得のいくような提案を子供たちの理解度や発達特性に応じて対応していくことが重要かと思います。
そうした合意をとる経験を少しずつ重ねていくことで、最初は折り合いをつけるのに時間がかかっていたお子さんも時間をかけて徐々に大人からの提案、あるいは他児からの提案に合意をとれるようになったケースも多く見られます。
大切なのは大人側などある一方側の考えを押し付けるのではなく、相手側の立場も考えながら、状況やタイミングをはかり提案内容を考えていくことが大切になってくるかと思います。
私自身もまだまだ未熟ですが、今後もより良い支援を行うために「合意」というキーワードを現場の中で掘り下げていこうと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
本田秀夫(2013)自閉症スペクトラム:10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体.SB新書.